1. 過去の記憶 -上-
貴族の階級(上から)
皇族
上級貴族
公爵
侯爵
辺境伯
伯爵
中級貴族
子爵
男爵
下級貴族
準男爵
騎士爵
士爵
私はヴェール・ウィスタリア。
元スカーレット公爵家の人間だ。
つい先程家を勘当されたばかりだ。
というか上級貴族ほど伝統を重視するんだから。
まったく嫌になる。
跡取りは男児で真紅の瞳と髪色をしていなければならないという面倒くさい決まりがあるスカーレット公爵家は難儀だなぁと思いながらこれからどう生きていこうか思考を巡らせる。
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私には前世の記憶がある。
私は日本という国で生まれその国で育った。
前世の私は特にこれといった特技はなく平凡な人間だった。
そんな私は25歳の誕生日の日に幼い子供をかばって通り魔に刺されて死んだ。
あの苦しみは今思い出しても刺されたところの痛みを思い出す。
次第に意識が遠のき、次に見えたのは豪奢な天蓋だった。
え?何?
と思っていると扉を開ける音がした。
「おはようございます。ヴェール様。
そして5歳の誕生日、おめでとうございます」
ヴェール?
前世で絵を描くことが好きだった私は無駄に色の名前を覚えていたため、
ヴェールって色の名前だよなと考えていた。
「ヴェール様、もしかしてお体の調子が悪いのですか?」
急にそう言われて正直びっくりした。
どこからどう見てもメイドさんのような服装をした16ぐらいの女性がベッドの横に立って
心配そうにこちらを見つめていることにようやく気づいた。
「へ?」
思わず気が抜けたような言葉を発してしまったが一応これだけは確認しておかなければと思ったことを問う。
「えーと、今日って誰の誕生日だっけ?」
私の質問にメイドの服装をした女性は驚いて目を見張っていたけれどすぐに答えてくれた」
「もちろん、
あなた様の、ヴェール・ウィスタリア・スカーレット様のですよ」
おおう、たぶんその色の名前だけで構成された名前が私の名前なんですねー。
というかやっぱりそうですか。
これが前世で流行っていた異世界転生というものですね。
全然嬉しくありませんけれど。
「起きてすぐに申し訳ないのですが公爵様より起きたらすぐに部屋に来るようにとのことですのでよろしいでしょうか?」
私はその問いに黙って首を縦に振った。
メイドの服装をした女性は恐ろしほどの手際の良さでテキパキと私の朝の支度をする。
ここで私はとある重大な事実に気づいてしまったのだ。
私はそう、私が転生したのは前世と同じ性別の女性ではなく男性だったのだ。
ここで私の取り柄の一つである超ポジティブ思考が役に立った。
そう、つまりこう考えたのだ。超ポジティブ思考で。
『前世が女性で今世が男性ということは私はどちらの性別の人生を体験できるということ!
つまり超ラッキーってことだ!(前世通り魔に刺されて死んでいるけどね)』
いぇ~い!
と得した気分になっているともう一つの重大な事実に気づく(いやどんだけ重大な事実があるんだよ)
いまメイドさんはなんて言った?
公爵様?
つまり私の転生した男児の家は公爵家ってことだよね?
まじ?
超上流階級の家やん。
というか元庶民のわたくしめに王侯貴族なみの所作ができるとでも?
うん
これだけははっきり言える。
無理だ!
絶対に不可能だ!
いやでもいうてまだ5歳になりたてでしょ?
まだ間に合うかもしれなくない?
いや、こういうときの超ポジティブ思考って役に立つよねー
と考えていたら
「終わりました。ヴェール様。
お気をつけて」
と言われました。
支度が完了したみたいですなぁ。
メイドさんありがとう。
僕、頑張るよ!(言ってみたかっただけ)
「ん。頑張るよ。えーと」
お礼を言おうとしてふと彼女の名前を知らないことに気づく。
「私の名前はローシェンナ・アンバー・シャルトルーズと申します。
家はシャルトルーズ子爵家です」
名前ってなんだっけと考える様子を察したのかメイドさんが自分の名前を教えてくれる。
ええ子や。この子は。
「うん。ローシェンナ。ありがとう」
「もったいなきお言葉でございます」
私がお礼を言うとローシェンナはそう言って深々と頭を下げる。
なるほどメイドさんの名前はローシェンナねぇ。
確かローシェンナは茶色系の色だったなぁと思いながら あることに気づく。
ここの貴族って髪と瞳の色で名前つけられてね?
ローシェンナは茶色の髪と瞳をしている。
私のヴェールは鮮やかな緑色のことで私の髪色は鮮やかな緑だ。
ウィスタリアは藤色のことで淡い青味の紫色だ。そしてお察しの通り私の瞳の色も藤色だ。
もうこれで大体察した。
名前の良し悪しは自分の生まれ持った髪と瞳の色で決まるということに気づいてしまった。
読んでくださりありがとうございます。