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繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――  作者: 香澄翔


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のぞき魔死すべき

『そういえば劇の事だけでいっぱいで誰とも約束してなかったよ』


 読んだ瞬間、俺の心の中が綺麗に浄化していく。イケメン君は存在していなかった。俺の妄想の中だけに存在していたらしい。そうこの世にイケメンなんていないんだ。そうに違いない。


 神様に感謝の気持ちを告げるものの、すぐにフェルの突っ込みが入る。


『良かったね。ほら、さっさと返事しなさい』


 確かにもたもたしていたら、この瞬間にもイケメン君からメッセージが入ってきてかっさらわれてしまうかもしれない。俺は背筋をぶるりと振るわせる。いや、存在はしないんだ。イケメン君は。俺の空想の産物なんだ。いや、でも。


 とりあえず『それじゃ、俺と回ろうぜ。劇が終わった後なら時間あるよな』とスマホにメッセージを記入する。

 そして再び今度は『友達と回るからたかくんとは回らないよ』と返ってきたらどうしようかと心が揺れる。ある。ありえる。これはある。穂花ほのかは友達多いからな。


 それはそれでダメージを受けそうだ。今まであんまり俺から穂花を誘った記憶はない。話の流れで遊びにいったりする事はあっても、明示的に俺が誘うという形はほとんどなかった。


 しかも文化祭の誘いだ。そこに特別な意味が含まれている事は伝わってもおかしくはない。これは半ば告白をしてしまうようなもので、俺の気持ちを穂花はどう思うだろうか。


『もういちいちいいから、はいはい』


 今度はフェルが俺の指の上を叩く。同時にメッセージも送信されていた。うおおお、送っちまった。どうすればいいんだ。

 しかし送ってしまったからにはもう返事を待つしかない。すでに既読がついている。いまさら取り消す事は出来ない。


 たださっきはすぐに戻ってきたメッセージが、今度はなかなか返事が戻ってこなかった。


 こ、これは。既読スルーって奴か。俺とは一緒に回りたくないって事か。『フツメンが何を思っているの、身の程知らずね』とか思われているのか。いや穂花がそんなこと言う奴ではない事はわかっているのだけれども、それでも嫌な想像が頭の中を巡っていく。


 穂花は何を考えているのだろうか。どう返事をしたらいいか迷っているのだろうか。傷つけない断りの言葉を考えているのかもしれない。それとも返事するまでもないとすら思っているのかもしれない。


 まぁ実はスマホを開いたままにしていただけで、本当はメッセージを見ていないとはいう事だって考えられる。この時間だからいろいろ寝る前の準備をしていたり、穂花の事だから明日の予習とかしているのかもしれない。


 それから待つこと十分くらい経っただろうか。永遠にも感じられる時間が過ぎたとき、ぴろんとライムが返信を告げる音を立てていた。慌てて携帯を手にする。


 ダメだと書かれていたらどうしようかと、どきどきと胸をならしながらライムを開く。

 そこには可愛らしいキャラクターのスタンプで『いいよ』と書かれていたメッセージが戻ってきていた。


 断られなかった!? いいよって、いいってことか!?

 天にも登る気持ちとはまさにこの事だろう。ついに約束を取り付けたぞ。まさか穂花からいいという返事がもどってくる事は考えていなかった。


 穂花の事だから深く考えずにただ遊ぶ約束だと思っていいと答えた可能性もあるが、とにかく俺は全てをやり遂げたんだ。ミッションコンプリートだぜ。もう思い残す事は何もない。

 スマホを掲げながら、我が生涯に一片の悔いなしと宣誓する。このまま昇天しそうな勢いであった。


 感慨にふけっているとフェルは俺の頭の上に再び止まって話はじめる。


『ほら、送って良かったじゃない。たかしはどうしてほのかの事になると、こうへたれになるかな』

「ふっ。なんとでもいえ。もう俺は今までの俺じゃないぜ。穂花と文化祭を一緒に回る仲なんだぞ。ひかえい。ひかえおろう」


 ふははははと高笑いを漏らしながら、スマホの画面を突きつける。

 テンションが一気にあがり、訳がわからない状態になっていた。

 フェルはそんな俺にあきれたのか、何も言わずに姿を消してしまう。どこかに隠れてしまったのだろう。でも気分がいいから気にしない。


「よし。気分もいいから、ひとっ風呂あびるか」


 さきほど入りそびれた風呂へ向かって、脱衣所の扉を開ける。

 そしてそこには結依ゆいが立っていた。半裸で。

 これから風呂に入るところだったのか、下着姿のまま目を見開いて立っていた。


「あ、わり……」


 先ほどまでの浮かれ気分が一気に冷めていく。

 これは、まずい。かなりまずい。そうだ。俺が出たら結依が入るのが、いつものルーチンだ。実際には俺はまだ風呂には入っていないんだが、いちど脱衣所に入った後にいなくなったのだから、結依は俺がもう風呂に入ったものと認識していただろう。


 ぷるぷると結依の肩を震えていく。

 慌てて俺は背中を向けるが、同時に結依の悲鳴が家中に響き渡った。


「わぁーーーーーーーーー!!!」


 同時に洗面所にあったハンドソープが俺の後頭部に小気味良い音と共に激突する。


「のぞき魔死ね!!」


 捨て台詞と共に洗面所の扉が閉められて、がちゃりと鍵がかかる音がする。

 つか最初から鍵かけとけよ、全く。

 後頭部をさすりながらも、俺はため息を一つ漏らした。

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