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繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――  作者: 香澄翔


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オズの魔法使い

 放課後。文化祭に向けての準備は順調に進んでいた。


「順調なのは俺が荷物を忘れなかったからだな。さすが俺」

「いや忘れないのは当たり前だろ。せめて買い出ししてきたからくらいにしてくれ」


 クラスメイトの鋭いつっこみが入る。


「まぁでも野上のがみが忘れ物多いのは知っていたから、実のところ今日は忘れてくると思っていたけどな」


 他のクラスメイトの容赦ない追撃。

 そんなに俺って忘れ物多いか。多いな。

 一人自問自答すると、とりあえず親指を立てておく。何かごまかす時はこれに限る。


「たかくん。とりあえず何かあると、なんでもサムズアップしてごまかすのはやめた方がいいと思うよ」


 近くで聴いていた穂花ほのかから突っ込みが入る。

 ううむ。幼なじみという奴は、こういう時は知られすぎていてやりづらい。


「とりあえずたかくんはライオン役なんだから、ライオンの衣装作ってね。間に合わないと大変なんだから。明後日本番なんだからね」


 穂花が示した先には昨日買ってきた布なら何やらが入っていた。


 文化祭は演劇をやることになっている。劇の題目はオズの魔法使いだ。有名な話だからみんな知っているとは思うが、竜巻に巻き込まれた主人公のドロシーがオズ王国に飛ばされてしまい、そこで出会った臆病者のライオン、ブリキの木こり、わらのかかしと一緒に、元の世界に戻るために悪い魔法使いを倒すために旅をする話だ。


 この中で俺は何の因果か臆病者のライオンを演じる事になってしまった。


 そして自分の衣装は自分で準備するという事になり、今日は衣装作りの最終日となっている。裏方専属のメンバー等もいるが、そちらは舞台制作の追い込みなどで忙しい。衣装までには手が回らないのだ。しかしそうすると今度は役者も練習する暇が無くなってしまう。本番間近だと言うのに何という事だ。


「全く誰だ。衣装は役者が自分で作ればいいんじゃねーとか言った奴は」


 口元をすぼめてぼやきを漏らすと、間髪入れずに隣から声が差し込まれる。


「うん。それはね。たかくんだよ」

「そうだっけ?」


 全く覚えていない。そんな事を言っただろうか。


「うん。そうなの」


 穂花はこちらには視線を移さずに、衣装に針を通していた。

 何やらすごくやる気に満ちているようで熱心に針を動かしている。実際穂花はもうほとんど衣装は完成していたはずなのだけど、最後の最後まで衣装の仕上げに余念が無いようだ。確かに役者一同で衣装作りをしている以上は、演技の練習もしづらいところだけど。


「そんなにやる気になってくれるなんて嬉しいな、と思っていたけど。たかくん、自分も作らないといけない事は忘れていたんだね」


 いつも通り少し呆れた声で告げていた。いっつも俺呆れられているなぁ。


「いや、まぁ俺裁縫とか出来んしなぁ」

「出来んしなぁ、じゃなくてやるの。まぁ、たかくんは簡単なのしかないんだから、がんばって。本返し縫いくらい家庭科の授業で習ったでしょ。はい。お願いね」


 言いながら俺にはネット買ったライオン着ぐるみと昨日買い出しにいったフェイクファーを渡してくる。ネットで買った衣装だとライオンのたてがみ部分が物足りないという事で、似たような色のフェイクファーをつけ足す事になっていた。これを頭に縫い付ければ俺の衣装は完成ではある。そういう意味では実際やる事は大してない。


 とはいえ実際もともとはライオン着ぐるみに関しては買うだけで終わりにするつもりではあったので、それに比べればやる事はだいぶんある。


 ドロシー役の穂花は青いチェックの布地からエプロンドレスを作っていた。実際かなり気合いを入れているようで、前回の衣装作りの日にはもうほとんど作り上げてきていた。型紙からしっかりと作ったらしく、前の時にもいろいろと話は聴いている。


 しかし洋服も自分で作れるとは、穂花は完璧超人か何かなのか。確か俺と違って学校の成績もトップクラスだったはず。学期初めの実力テストで確か三位とかだったと思う。ちなみに俺は二百十五位である。ちょうどの真ん中らへんより少しばかりだいぶ下だ。

 穂花の成績ならもっといい高校にいけたはずだけど「近いから」という理由でこの学校に決めたらしい。

 もしかしたらそれは口実で俺と一緒の学校に行きたかった、なんて理由かもしれない。根拠は何一つないけど。というか、ほとんど俺の妄想である。


 ちなみに俺はこの学校に入るのはかなりぎりぎりで、何とか滑り込みで合格できた感じだ。穂花がこの学校を受けると知って、かなり本気でがんばったのだ。

 などなどとりとめのない事を思い、こちらがぼーっとしている間にも、穂花はすでに準備を始めていた。

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