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繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――  作者: 香澄翔


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一生のお願い

 息を吸い込む。そしてはき出す。

 時間を戻した。だから穂花ほのかは無事だ。


 今度こそ、今度こそ救う。そう思う。

 頭の中はもうぐちゃぐちゃで、考えもまとまらない。


 ただ駅前に向かわなくても、穂花は事故にあう。まるで決まっているかのように事故に遭う。

 理由はわからない。だけどとにかく駅前に向かわせなければいい訳では無かった。


 俺は少しだけ頭を働かせようと、もういちど深呼吸をひとつ。

 それから俺は穂花に電話をかけていた。


『はい。もしもし。たかくんどうしたの』

「穂花、もう家を出たか!?」


 穂花がでるなり俺は確認する。


『う、ううん。まだ家。もう少ししたら家をでるけど』

「わかった。いいか。いまから俺がいく。お願いだから家から出ないでくれ。絶対に家の中にいて欲しいんだ」


 思いついた方法は一つだった。穂花を家から出さなければいい。

 家の外から出なければさすがに車が突っ込んできたとしても途中で止まるだろう。だからとにかく穂花を家の中にとどめる。俺にはそれしか思いつかなかった。


 家の中にさえいれば、あの車が激突してきたとしても、穂花の命を奪うまでにはならないはずだ。だから家の中から出さないようにして、とにかく理由をつけて穂花を足止めする。


 それでうまくいくかはわからなかった。だけどもう俺が思いつく手段はそれしかなかった。


 今まで試した方法をもういちど繰り返すつもりはなかった。いろいろ細かく変えようとしても、結局は同じ結果に収束していた。だからもっと大きく変えなければ結果も変えられないのだと思った。


『え、うん。え、なんで?』

「一生のお願いだ。俺がいくまで絶対に家から出ないで欲しいんだ。どうしても穂花に家にいてもらわなきゃいけないんだ。すぐにいくから。頼む」


 必死の思いで懇願する。

 穂花を救う方法はわからなかった。俺は何をすればいいのかもわからなかった。


 駅にいく時間をずらしても、一度避けても。駅までいかなくても事故に遭うのなら、もう家から一歩も出さない以外には方法は考えられなかった。


 もしもこれがダメなら、俺には穂花を救う手段はない。俺はこれ以上のことを思いつけそうになかった。

 せまる時間の中で落ち着いて考える事すら出来なかった。

 ただとにかく思いついた事を実行していくしかない。


『……よくわからないけど、わかったよ。たかくんがそんなに言うなら』

「絶対だぞ。いまからいくから、絶対に家から出ないでくれ」


 穂花がうなづくのを聴くと同時に、俺は一方的に言い放って外へと急ぐ。


 穂花を守りたい。

 穂花を救いたい。


 俺に出来るのかなんてわからなかったけれど、俺には力がある。俺にしか出来ない。

 俺が助けられなければ、穂花は死ぬ。死んでしまう。

 ずたぼろに裂けた姿になって。穂花はいなくなってしまう。


 穂花がいない世界なんて、俺には興味がなかった。

 穂花を救う事が全てだった。もうそれ以外には考えられなかった。


 足を早め、穂花の家へと向かう。

 そして向かった先に、穂花は立っていた。


 玄関の前、確かにまだ家の敷居内だとは言える。だけど俺の想いとは異なり、穂花は外に立っていた。


「あ、たかくん」

「どうして家の外にでて!?」


 挨拶もせずに俺は穂花へと詰め寄っていく。


「え、まだ家の前だよ。玄関だもん。どこにも行ってないよ」


 穂花の意識では家からでていないのだろう。そしてもう時間近くではあるのだから、来るという俺を出迎えるなら玄関の前が一番いいと考えたのだろう。ベルを鳴らしたりなんたりすれば、家の人との話も始まって遅れてしまう。そんなことを考えたのかも知れない。


「いいからすぐに家に戻るんだ」

「え。なんで? だってこれからオーディションにいくんだよ。次の電車に乗らなきゃ遅れちゃうもん」


 穂花は当然ながらもう出かけるつもりだろう。

 ここで俺がオーディションに行かせない等の問答を始めれば、また前の回と同じ事になってしまう。だから俺は最後に残された方法を試すしかなかった。


「お願いだ。どうしても俺の願いをきいてほしい。頼むから家の中に戻ってくれ」


 俺は深々と頭を下げる。そしてそのまま座り込んで、頭を地面につける。いわゆる土下座という奴だ。

 もうとにかく理屈ではなく俺と穂花との縁の深さにかけて、願うしかなかった。


 俺が本気で頼み込めば、ここまですれば穂花ならきっと俺の願いをきいてくれるだろうという読みもあった。

 幼なじみだから穂花がお人好しで人の願いを無下には出来ない事は知っている。だから穂花の好意に甘えて、何とか穂花を家の中に戻して、そしてあとは何とか時間が過ぎるまで押し込んでおくしかない。


 オーディションにさえ行かなければ事故には遭わない。


 何の根拠も無かったけれど、俺はそう感じていた。穂花がオーディションに向かおうとする気持ちが事故に近づけている。

 だから物理的にオーディションにさえいかなければ何とかなる。俺はこの時まではそう考えていた。


「や、やめて、たかくん。わかったよ。たかくんがそこまで言うなら、一回家に入るから」


 穂花は慌てて俺の手をかかえて俺を立たせようとする。疑問を感じながらも、俺の願いを聴いてくれるようだった。

 俺が本気で願えば、穂花は答えてくれる。そう思ったし、それは間違えていなかった。


 穂花が家の中にさえ入れば。


 そう思いながら立ち上がると、穂花は家の扉を開けようとしていたところだった。

 そしてその瞬間だった。


 家の中から小さな猫が飛び出していた。穂花の家の飼い猫だ。


「あ、ルナ。だめ!」


 穂花は猫を追いかけて反転する。

 俺は慌てて手を伸ばそうとするが、その手は穂花には届かない。


 俺の手をすり抜けて穂花は家の前へと向かってしまう。

 その瞬間。鈍い音が響いた。


 もう見たくなかった。俺はその瞬間、目を強くつむり続けていた。


 穂花の悲鳴が辺りに響いていた。

 車のつっこむ激しい音も響いていた。


 一瞬のことだった。


 暗闇の中で、だけど今までの映像が何度も繰り返されていた。

 何が起きたかは理解していた。なぜそうなるのかはわからなかった。


 どうしてだよ。なんでこうなるんだよ。

 どうして。どうしてだよ。


 運命なんて信じない。だけど今はもうそれを信じるしかないほどに、同じ事象が繰り返されたいた。

 そこにいたる道筋は違う。だけど結末は同じだ。

 穂花は車にひかれる。そして死ぬ。


 この事態だけは変わらない。ずっと同じように繰り返させる。

 事実に俺は喉の奥が焼き付くのを感じていた。


 寒い。体が凍える。震える。目の前が揺れて何もかも壊れていく。

 意識が遠のいていく。


 たぶんこの後すぐにフェルが話しかけてこなかったならば、俺はとうとう繰り返される事態に壊れてしまっていたかもしれない。


『……やりなおす?』


 微かにその声が聞こえていた。

 俺は答える。


「三十分戻して」

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