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繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――  作者: 香澄翔


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変わらない時間

 三十分時間が戻った。


 まだ俺も家の中にいる。すぐにスマホをとって穂花ほのかへと電話をかける。

 何度かコールされると、スマホの向こう側から穂花の聞き慣れた声が響く。


『はい、もしもし』

「穂花か。俺だ。隆史だ。いますぐにそっちにいくから動かないで待っててくれ。頼む」

『え、あ。うん。そんなに慌ててどうしたの? 私ね。これからオーディションにいくところだから、あんまり時間ないんだ』


 スマホの向こう側で穂花はいぶかしげな声を漏らしていた。


「すぐいく。だから待っててくれ!!」


 一方的に告げて、すぐに靴を履いて外へと駆けだしていく。

 穂花の家の前につくと、穂花がすでに外に出て待っていた。時間的にはさっきよりも少しばかり早いが、それほど変わりはしないだろう。


「たかくん……。そんなに慌ててどうしたの?」

「穂花。オーディションは何時からだ!?」

「え、十時からだけど。だからね。そろそろ電車に乗らないと間に合わないんだ」


 穂花は時間を気にしているようで、ちらちらと時計をみている。

 確かにその時間であれば次の電車には乗っておきたいだろう。


 ただこの電車に乗ろうとすれば、穂花は車にひかれてしまう。でも数分だけでもずらせればいいだけのはずだ。暴走した車はなぜか戻ってきた。だけどそれは駅前のロータリーなどがあって戻ってきたからのはずだ。だから時間をずらせばいいはずなんだ。


 穂花を救うために、俺は時間を巻き戻した。今度こそ選択を間違えない。絶対に正しい選択をしてみせる。そのために。


「少し俺と話をしないか?」


 とりあえずそんな提案をしてみる。ちょっと時間をずらせばいいはずだった。だから何とかここで時間を引き伸ばそうと思っていた。


 内心はまださっきの事故が忘れられなかった。頬にふれた穂花の血の温度が今もはりつくように消えていない。だけどそれは忘れる。忘れなきゃいけない。とにかく穂花を助けるために、出来る事をしよう。


 そんな俺の内心には気がついていないようで、穂花は少し迷いながらもはにかみながら答える。


「うーん。あんまりゆっくりしてられないんだけど、たかくんがそう言うなら少しだけだよ」


 いつもなら何よりも可愛らしく感じただろう笑みも、今の俺にとっては儚げな今にも崩れてしまうようにしか見えなかった。

 穂花が壊れてしまう事が何よりも怖くて、俺はただどうすれば穂花を引き留められるのか、それだけを考えていた。

 今までと選択を変えれば、時間も違うように流れるはず。そうすればきっと穂花を救えるはず。そう考えてとにかく違うように振る舞う。


「でも応援にきてくれたのかな。正直、今からだいぶん緊張してる。こんなんで本番大丈夫かなって思う。でもね。でも、たかくんがこの間励ましてくれたから。がんばってみようと思っている。結果が出たら、たかくんにも教えるね」


 穂花は言いながら俺の手をとる。

 さっきと同じ動作。変わらない流れ。少し違う行動をとったはずなのに、同じように時間が流れてしまう。


 もう一度同じように胸の鼓動は早くなっていく。

 同じ時間に戻ってきた。選択をかえたのに、穂花は同じ台詞を戻す。


 繰り返してしまうのか。抗おうとしているのに、また同じ時間がすぎてしまうのか。

 俺の心臓は張り裂ける寸前のように、強く胸を弾けさせた。


 同じ時間は流れてはいけないんだ。変えなきゃ行けない。でも何を変えればいい。

 何をすればいいのかはわからなかったけれど、時間は刻々と過ぎていく。

 穂花は俺の内心は知らずに、俺の手をとって自分の胸のあたりまで手を上げてくる。


「たかくん。私ね。たかくんに本当に感謝しているの。最後の最後でずっと迷っていた。でも、でもね。たかくんのおかげで決心がついたよ。たぶんたかくんが後押ししてくれなかったら、きっと結局今日も行けなかったと思う」


 両手で俺の手を包み込むように握りしめる。

 繰り返される台詞に俺の鼓動も強く激しくなっていく。


 繰り返されてしまう。このままじゃ同じ結果になってしまう。どうしてなんだ。どうして同じ結果になるんだ。

 俺の心は大きく揺れて、何かを変えなければならないと思うのに、何をしたらいいかもわからずにただ穂花の言葉を聴いているだけだった。


「たかくんには言ってなかったけど、今までもね。オーディションには何度も応募していたの。でも書類だけ送って、当日怖くなっていけない。そんな事何回も繰り返してた。でもね。今日は行ってみようと思えた。ダメかもしれないけど、挑戦してみようと思えたの。それというのもぜんぶたかくんのおかげだよ」


 穂花は少し頬を上気させて紅をさしていた。声も少しだけうわずっている。

 緊張しているのだろう。だけどそれでもやる気に溢れているのだろう。いつもの穂花よりも目を輝かせていた。前の時間と同じように。


 まただ。同じだ。これでは同じになってしまう。何もしなければこんな穂花はあと数分で消えてしまう。

 だめだ。そんなことは起こさせない。


 穂花を事故には遭わせない。俺が絶対に助ける。

 強く思う。


 でもどうすればいいのか、わからない。


「だから応援していてね。がんばってくるから」


 手を離して、それから胸元で小さなガッツポーズを見せる。


「さてと、そろそろ時間だから行くね」


 穂花は告げる。このままだともう一度穂花は事故に合ってしまうのだろう。それだけは絶対に止めなくてはならない。


「まってくれ。もう少し話をしよう」


 とにかく穂花を引き留めようとして、声をかける。

 しかし穂花は軽く首を振るう。


「ごめんね。もう時間がないから」


 穂花はきびすを返して、すぐに駆け出していた。

 俺は止めようと慌てて手を伸ばす。


 だけど穂花は俺の手をするりと避けて、そしてすぐに駅前へと向かっていた。


 慌てて追いかけるけれど、穂花は意外と足が速い。

 俺が追いついたのは、もう駅前の通りで。


 そして再び。


 穂花は事故にあった。

 俺の目の前で。


 走って横断歩道を渡ろうとしたとき、穂花はいなくなった。

 穂花は消えた。


 穂花は車にひかれて、ぐちゃぐちゃにまみれた。

 紅色に染まった辺りは吐き気がするほどに鮮明で、俺の脳裏に焼き付いていく。


 止められなかった。

 さっきと違う選択をしたはずなのに、止められなかった。同じになってしまった。この選択も間違えていた。

 何が、何がいけなかったんだ。何を間違えたんだ。わからない。わからなかった。


 だけどこのままじゃいけない。このままでいいはずもなかった。

 穂花がいない。そんなことは許されるはずがなかった。


 とにかく戻すしかない。時間を戻さなければ。

 胃液が逆流してくる。吐き気がとまらなかった。目の前がくらくらと揺れていた。


 周りはいろいろと騒いでいるようだった。だけどその声は何一つ聞こえない。

 だから俺は熱にうなされるかのように、小さな声でつぶやく。


「三十分戻して」


 俺の声が聴こえていたのか、フェルは再び時間を戻した。

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