BL国誕生
この平面世界は攻略対象が住んでいる王国とか魔国以外は、周囲の世界と同じ人民をコピペして作ってあるので、本来なら文化水準も低く識字率も低い。
隣国と対話ができないよう、バベルの塔と呼ばれる軌道エレベータで言語を混乱させるはずなのだが、この世界では全員漫画が読めるように識字率も高く設定され、いちいち翻訳しないでも良いように日本語が共通語にされていた。
農業的にも慢性的に飢饉で、中世世界と同じく裕福な農村でも四人に一人は餓死する世界であり、四輪作など存在せず、パンジーとか豆類が地中の窒素固定に貢献しているのも知らず、経験則だけで近代農業とは無縁の生活をしていた。
城塞都市の外側に建設されているスラムだとか、城砦に保護されていない農村とか、いつでも略奪の対象で戦火に晒され、税は少ないかも知れないが命の保証は全くない文明圏の圏外。
それでも良子や女神は、空中窒素固定装置を作って大気中の窒素をアンモニアとして固定したり、ハーバーボッシュ法で窒素肥料を作成して爆発的に人口を増やしたり出来る。
アンモニアを硝酸にして高性能火薬を作ることも可能になり、爆薬の爆破速度が音速を超えて爆轟になったり、それらはこの平面世界では絶対にやってはならない禁忌の数々だったが、女神がグルなので見逃され、成果物である肥料や食料だけプリントアウトするのは違反でも何でもないので誤魔化された。
商人の屋敷
商人への挨拶品として、倉庫に入り切る限度まで数トンの麦の袋や塩の袋を提供して、市民に無償配布するように言った良子。
他にも陶器類の包装紙に漫画が印刷してあったり、麦や塩の袋にも漫画が印刷されていて、品物を渡す時に薄い本(漫画本)を渡すよう指定していた。
「テキーラッ」
「「「「「「「「「「テキーラ」」」」」」」」」」
ショットグラスに強い酒を注ぎ、一気に飲んでからグラスに差した柑橘類を噛んで絞り口の中の味を調える。
酒には大して強くない良子だが、ウィスキーの楽しみ方を実践したり、全員にテキーラを振舞って大分出来上がっていた。
「お、お待ちください、現在会議中で歓談中ですので、そのようなお姿で困ります」
使用人が何者かを押しとどめる声が聞こえたが、そんな物は聞かずに押し通る多人数の足音が響いた。
ガチャガチャと鎧が動く音も聞こえて、良子は「面倒なことになった」と思い始めた。
多人数の剣士や魔法使いを撃退すると、地下四階以降に行けるブルーリボンなんかも貰えるかもしれない。
「ここに聖女が現れたと聞いたが本当かっ?」
領主から指示を受けたらしき兵士が十人ほどなだれ込んで来た。
「何が会議中だっ、酒を飲んで管を巻いているだけではないかっ、さあ、聖女などと名乗った不届き物は誰か? 城まで引っ立ててやるっ」
頭が悪そうな脳筋が現われて驚いている一同。
「貴方たちは街を解放してくれた恩人を捕らえようと言うのか」
「街ごと壊されないうちに引き下がりなさいっ」
「ふざけるなっ、軍を無視した勝手な行動、領主様や軍の名誉を傷付けた振る舞い、許せるはずもないっ」
軍隊も領主も、強すぎて手出しできなかった魔獣と魔物の群れを、勝手に倒して面子やプライドを潰されたのが気に食わないらしい。
屋敷の主や家令が対応したが聞き入れてもらえなかった。
「貴方たち、どう言われてここに来たのかしら? 「丁重にお連れしろ」それとも「手枷を付けて縛り上げて、首に縄を付けてでも引き摺って来い」かしら?」
顔も赤くなり、結構出来上がっていた良子は、多少呂律が回らない状態で問いかけた。
「お前が聖女を名乗った不届き物かっ? 捕らえよっ、縛り上げて牢屋に放り込めっ、儂が直々に取り調べてやるっ!」
相手の言う事は理解できない脳筋は、聖女を捕らえて牢屋に入れるように上司に言い付けられて来たらしく、数人の兵士が良子を捕らえるために動き出した。
「大人しく縄に付けっ、馬鹿者がっ」
その兵士数人は椅子から立ち上がりもしなかった良子に一瞬で鎧を砕かれてズタボロになり、二階のベランダから外に放り出された。
「あら、ここの領主は聖女と戦争することにしたのね? さっきの見てなかった? 街を包囲してた魔獣と魔物を一人で全部始末して街を開放したのを? 魔の森を半分ぐらいふっ飛ばして、スライムを光にして宇宙まで放りだしたのを」
「何を戯けたことを抜かしておるっ、抵抗するかっ? 思い知らせてやるっ」
軍と領主の権威が絶対と思い込み、戦力差も理解できない脳タリンのようなので、残りの奴らも指揮官らしき馬鹿も鎧を砕いて肋骨も全部砕いてズタボロにしてやり、ベランダから外に放り出してやった。
一人だけ使い走り用に残された兵士は、腰を抜かしたのか座り込んでいたが、お使いを言い渡すと逃げて行った。
「この子達、聖獣って言うの? いくらでも大きくなれるのよ。全長100メートルの聖獣が三匹、街の中をお散歩して走り回ったり、領主の城も貴族街も粉々に踏み潰して遊んだりして、街が全部廃墟になる前に領主自身がここに出頭するよう言いなさい、門の前で土下座して何日も這い蹲って許しを乞いなさい。カノッサの屈辱みたいに」
この平面世界の住人が、法王から破門された王が許しを請うため王自身が法王がいる教会前で土下座謝罪させられた事件など知るはずもないが、酔っていて頭が回らない良子は領主を脅迫した。
「あんた達、ちょっと大きくなって大通りを通って、町の中心にいる領主を連れて来て頂戴」
三匹の聖獣? に言い渡してみたが、生き別れになっていた兄弟との再会を祝って鼻を突き合わせて猫挨拶したり、座って前足でテシテシし合って遊んでいたり、落ち着いてペロペロしてグルーミングして寝ていたが、用事を言い付けられて猫団子のまま邪魔くさそうにした。
「何で?」
「めんどい」
「ダルい」
意思疎通できるよう、女神に喋れるようにしてもらった猫達は、口々に文句を言って従わなかった。
「あら、あんた達喋れるようにして貰ったの?」
にゃうリンガル無しで会話できるので便利だったが、猫はフリーダムなのでお使いはできない。
「仕方ないわねえ、じゃあ私が行ってくるわ。皆さんちょっと中座しますね、瞬着っ」
大日如来の具足を身に着け、ベランダから庭に出た。
「みんなやられたっ、あんなもん普通の兵士ではどうにもならねえっ」
「何言ってんだ馬鹿野郎、夢でも見たのか?」
聖女を捕らえに来た連中の残りが馬車の周りにいて、お使いに出した奴が何を言っても話は通じないようなので、とりあえず半殺しになっている連中を積んでいたのも蹴散らして巨大化。
「うわあああっ、化け物っ!」
まるで全長120メートルの牛久大仏が街中を歩きだすような事件になった。
「ちょっと通りますよ、どうもここの領主、魔獣を排除できる聖女が安全保障上邪魔になったみたいで、聖女を捕らえて牢屋に入れるつもりらしいんですよ、今から領主を捕まえに行きますんで宜しく」
巨人の大音量で話したので、その意志は貴族街全体と領主の城にまで伝わった。
「はいごめんなさいよ」
牛久大仏?は上級国民様が住んでいる中心街全体に破壊を起こせたが、千鳥足のままウォールシーナである貴族門と城壁を踏み越え、人を踏み潰さないよう気を付けて歩いた。
どこかの宦官が「君は歩くときに蟻を踏み潰さないように気を付けて歩くかね?」と問うたが、良子は踏み潰さないように歩いた。
「弓隊、放てーーっ!」
脳の血管が切れそうな叫び声をあげる隊長に続き、集められた少数の弓隊から弓やバリスタが放たれるが、巨大な化け物に届くはずも無く、物理防御魔法で何もかも弾き飛ばされた。
貴族街では阿鼻叫喚の地獄になり、泣き叫ぶ声と共に逃げ惑う貴族が続出したが、大通りに足跡の大穴を開けたのと、屋敷を数件破壊した程度で特に死人は出さずに済んだ。
「馬鹿領主、どこ~?」
ほんの数歩で中心街に到達し、領主の城らしき場所で屈み、屋根を取り外して領主を探した。
「5秒で出て来ないと町中踏み潰して火の海にするよ~」
ヤンキーのお姉さんのように、物理的に無理な5秒で出てくるよう言い渡したが領主は出て来なかった。
最初の大声が聞こえて、貴族街に巨人で牛久大仏が乗り込んですぐ、領主一家は脱出用の逃げ道を案内されて逃げ惑っていた。
「見える、僕にも敵が見えるよ」
オールドタイプのヲタクとして、アムロくんみたいなセリフを言いながら顔の前で種割れし、女型の巨人として地下通路を破壊して、領主とその家族を一人巻き込んで地下から取り出した。
「み~つけた」
全長10メートル超えの顔とヘッドパーツに引き寄せられ、恐怖しか感じられない哀れな領主。
「ひいいいいいいいっ、た、助けっ、お願いっ」
肋骨をベキベキとへし折られて握り潰されながら、合掌して命乞いまでした器用な生き物。
「あんたは部下にどう言ったの? 「聖女だと噂される馬鹿を捕らえて牢屋で拷問して苦しめろ」、それとも「縛って捕まえて首に縄付けてでも引き摺ってこい」とでも言ったの?」
「ひいっ、丁重にお連れしろと言いましたっ」
領主の過去を見て心を読むと、「聖女を騙る者を連れて参れ、その途中、何が起るか言わずとも分かるな?」と笑っているのが見えた。
「ああ、聖女の偽物を連れて来るよう言ったけど、途中に謀殺されても毒殺されてもお前は一切かかわってないと言いたかったのね?」
「いやだあああああっ」
握りが強くなりタマタマもヤヲ〇穴も骨盤も崩壊。その場を見ていたかのような化け物に誤魔化しも言い訳も無理なのだと悟って泣き叫ぶ。
「そうねえ、お前の処理は市民に任せましょう、今までの行いが試されるの」
今まで初夜権を行使して、美人で有名な新婚の娘達を連れ去って妊娠させてから返し、産まれた子供の世話は庶民に任せたり、乱暴されて余りの屈辱や返された後は街で笑い者になって過ごす生活を思い、舌を噛んで自殺した女の死体だけ返すような生活をしてきた領主は市民に八つ裂きにされる。
この平面世界では、まず魔法が使える貴族階級が人類社会を支配し、その後は長命で有能な魔族が世界を支配し終わるのが通常で、民主革命や社会主義革命など許されない場所なのだが、まず始まりの街を一個聖女が解放し終わった。
その後、領主一家はロシア皇帝一家やチャウセスク一家みたいに市民広場に連れて行かれて高い所に吊るされ、最後まで命乞いする哀れな姿を晒されて笑い者になった。
十三段階段を登ってから落とされ脊髄断裂で一瞬で死ねるのとは違い、中東方式でゆっくりと持ち上げられ、気道を確保するためにロープに指を突っ込んで懸垂して暴れたり、アメリカのプロレスラーみたいに首の筋肉で耐え「絞首刑でも死ななかったので出所した」と言う売り込みに使う演出みたいに暫く生き残った者もいたが、力尽きてぶら下がるまで放置されるので、余計に長く苦しんだ。
領主一家が滅んで壁も崩されたので、貴族街も蜂起した市民に攻められ、貴族の若い男や娘は最低の売春宿に放り込まれ、自殺できないように歯を全部抜かれたり折られたり色々と処置され、小さい頃から贅の限りを尽くしてきた老人や老婆は、あらゆる拷問を加えられてから便壺の下に放り込まれ、人糞を食べる豚として一生を終えた。
その後、夕方から翌朝までの騒動を知らない良子は商人の家でぐっすりと眠り、大量の食料と塩を無料配布したので略奪殺害されなかった商人の屋敷は焼かれずに生き残り、街を開放した聖女が寝ているのと聖獣が巨大化して庭で寝ていたので、襲撃に来た打ち壊しの民衆も手出しできずに帰って行った。
翌朝、酔った自分が何をしたのか覚えていなかった良子は、群衆の前で圧政からの解放と市民革命成功の勝鬨を上げさせられることになって、商人の屋敷前に集まっていた市民の前に連れて行かれた。
「あれ?」
昨日の記憶がない良子は、周囲に目配せして巨大な猫達に助言を求めた。
「おばあちゃん、昨日城まで行って領主捕まえて、街の人に引き渡した」
「貴族とか悪徳商人、皆殺しにされて焼き討ちされたの」
周囲を見渡すと、上級国民様の屋敷で無事だったのはこの屋敷だけで、今も逃げ出した貴族や商人は追われていて、捕まると即吊るされるか若い者は男も女もレイプされて売春宿送り、民衆から長く搾り取って来た老人は苦しめられるだけ苦しめられてから死んだ。
「市民諸君、この街は聖女の神力によって貴族の不当な圧政から解放されたっ! さあっ! 聖女を迎えよっ!」
若い執事が煽ってくれて、何とか事情を知った良子も壇上に上がらされた。
クマのプーさんとか黒電話まで吊るされたような、どこかの国では絶対放送できない市民革命が成った。
「「「「「「「「「「聖女っ! 聖女っ! 聖女っ! 聖女っ!」」」」」」」」」」
多数の群衆を前にして、年をとってもコミュ症の良子は絶句した。
今更間違いとも言えず、貴族や領主や悪徳商人は、自らの行いの数々によって責任を取らされて処刑された。
善良な商人は倉庫の打ち壊しにあっただけで、従業員に命を守られて生き残ったらしい。
「市民諸君っ」
良子はどこかのハマーン様みたいに、群衆が静まるのを待って発言した。
次のセリフは思いつかなかったので、スタート〇ックで地球人がナチス的統治をして繁栄させた星で、終わり際にカーク船長が演説したみたいに議会制民主主義の開始とアメリカ合衆国憲法の序文を読み上げて「USA,USA,USA」とコールが起こりそうな演説をした。
「ここに民主国家の誕生を宣言するっ!」
「「「「「「「「「「おお~~っ!!」」」」」」」」」」」
コミュ障でもカーク船長のセリフなら暗唱できるので、無事民主国家設立の宣言を済ませた。
普通ならフランス革命でも粛清の嵐とか断頭台送りになるジャコバン派とか王党派とかいるのだが、聖女の権威と武力でどうにかした。
新国家、BL女神を信仰する、BL国が成立した。
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