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竜払い  作者: サカモト


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最終章 ヒト(1)



 陽が沈み始めた。それからまもなく、白い竜が羽ばたいた。

 奴が最後に、人間へ向けて何かしゃべるのか、見ていたが、何もいわなかった。白い竜の翼が動くと、およそ、八割の竜たちが翼を広げ、飛ぶ準備に入った。

「ほとんどが飛んで来る」フリントがいった。「はじまるぞ」

 すると、鯨銛りを手にしたホーキングがいった。

「竜を払うぞ」

 それから飛ぶように、みんなそれぞれの持ち場へ散った。おれはホーキングと、行動を共にした。

 竜たちが飛び立ってゆく、すごい数だった。竜たちので空が埋った。

 そして、都へ向かって来る。どれも口に炎をためていた。空中での翼の接触をさけるためか、竜たちは間隔をあけて飛んでいた。そのおかけで、すべての竜が一斉に大挙してやってくることはなさそうだった。。

 先頭をきって飛んで来た一匹目が、塔へ目掛けてきた。炎を吐こうとする。口を開く、直後、建物の屋根で待ち構えていたセロヒキが弓を引く。矢はまるで仕組まれていたようなほど正確に竜の口へ入りこんだ。矢を体内に喰らった竜は、空中で痙攣しはじめ、そのまま墜落した。すると、すかさずヘルプセルフが接近し、竜の顎したから剣を刺し込む。

 一匹目を倒すと同時にあがった歓声は、二匹目の接近ですぐに止んだ。だが、ふたたびセロヒキが放った矢を口のなかに入れ込まれ、二匹目の竜も痙攣して墜落する。「そこだ!」と、誰かが叫ぶ。向かったのは武装した人々だった。巨大な金槌を抱え、地上に落ちた竜を一斉に叩く。

 それからは同種の光景が都の至る場所で展開された。竜の骨を仕込んだ弾は、通じるか懸念していたが、口のなかへ撃たれた竜は、何発か喰らうと、矢と同じような反応を起し、竜は墜落した。骨がむき出しの矢と違い弾が竜のなかで効果を発する時間にむらがあるようだたが、期待した効果を発揮した。弾を喰らった竜も痙攣して、墜落した。

 空中で炎を吐こうと竜が開いた口へ、矢や、銃弾を入れる。十か所で同時に行なった。矢が三か所、銃が七か所ある。竜が墜落すると、竜払いや志願兵たちによって、竜を仕留める。本来なら、竜の骨で倒さなければ竜が竜を呼び、人間を襲うため、それ以外の武器で攻撃は禁忌事項だが、もうその状況のなかにいては、守っている意味はなかった。大柄の職人たちが、金槌やつるはしで地面で動けなくなっている竜を攻撃する。

 けれど、すべてが順調にはいかなかった。矢や銃の狙いをしくじり、そのまま炎をくらってしまう隊もあった。墜落させたが、予想以上に暴れて、巨大な爪や尻尾の動きに巻き込まれ、多くの人間がやたれた。

 それでも竜を狙い、墜落させ続けた。ひたすら数を減らす。地上では人と竜の血が混じったものが広がっていた。

 竜にどんな種類の仲間意識があるかは不明だったが、先陣を切った竜が次々にやられても、他の竜たちは襲いかかってきた。同じように炎を吐こうと下降してくる、そして、炎を吐こう口を開いた瞬間、矢を放つ、銃を撃つ。そして、墜落する。

 ヘルプセルフは誰よりも素早く動いた。そして、竜が苦しむ間もなく、一撃で急所をついた。

 時間が立つにして、炎に焼かれてしまう箇所が増えてきた。その度に、そこにいた隊の人たちのきこえない悲鳴はずのきこえてくる。あそこで、いま、たくさんの命が消えた。けど、心にかまっている時間なかった。

 やがて竜を三分二まで減らした。予想を上回る戦果だった。おれたちの被害も大きかった。矢を射る箇所は二か所になっていた。銃を撃つのは四か所になった。銃の方が音が出るせいか、それとも仕込んだ弾の性能のせいか、やられてしまう場面も多かった。

 地上で竜の留めを刺す部隊も被害は甚大だった。もがく竜の身体のどこかに巻き込まれ、怪我を、命を落としている者もいる。負傷を回収するための部隊も炎に巻き込まれてしまったりしている。いま戦っているのは、ほとんど戦闘経験のない人々だった。

 フリントは北側に配置した銃の部隊にいた。気づいたときには、その部隊がいた場所は、炎に包まれていた。

 彼ならきっと生きてる。信じて、最新の状況をうかがう。一匹、二匹目の頃は、仕留めた地上部隊が勝どきめいたものをあげていたが、いまでは、それもなく、ひたすた落ちた竜の頭部を金槌で、ないものは木槌で叩く。男女が入り混じっていた。まっとうな防御の装備もしていない者もいる。たぶん、避難場所から抜け出し、駆けつけてきた人たちだった。

 百匹はいた竜だったが、ついに半分以上仕留めた。竜たちは命令通りの動きに従うだけのせいなのか、作業的に墜落させて、地上で留めをさせた。

 そして、夕陽も終わり始め頃、群れのなかにいた白い竜が動いた。

 口が動いたように見えた。

 おそらく、

《やれやれ》

 と、言った。

 それから真っ白な翼を広げた。次に上質な歌劇のような、それこそ、世界の果てまで通りそうな、言いたくはないが、きれいな声で、歌のような鳴き声を放った。すると、竜たちが、同時に、都への攻撃をやめて、群れへ引き返してゆく。

「ここだな」

 すぐそばにたホーキングがおれに告げた。

「うん」

 応ずると、隣で彼が鯨銛りを握りしめる。

 塔の最上部からは、引き返してゆく無数の竜が見下ろせた。この時のために、おれと彼はずっとここで構えていた。

「あの頃を思い出せよ」

 ホーキングはそういって笑った。

 そして、標的を決め、一匹の竜が空から塔へ近づいたとき、鯨銛り投げる、ほとんど雷の勢いだった。銛の先は狙って竜の背中へ突き刺ささった。竜が短い悲鳴をあげた。だが、巨大な身体に針が刺さって程度なのか、飛行には影響を及ぼさない。

「相変わらず、ろくな方法じゃねえな」と、ホーキングが縄を握りめ言う。

 銛には縄がくくりつけられている。縄は竜のから、おれたちの手元まで続いている。

「行こう」

「ああ」

 決めて、ふたりで一本の縄を握り、塔の上から飛ぶ。賭けの要素は強い、けど、出来ると信じた。これくらいのことをする必要はあった。そして、なんとか竜の背中へ着地に成功した。

 竜の背中へしがみついて乗って飛ぶ。前は偶然そうなったが、今回は違う。意志を持って飛んでいる竜に張り付く。望まなった経験が、ここで活かされてゆく。

 竜は群れへ戻ってゆく。

 おれたちは竜の背中を這った。

 張り付いた竜は群れと合流するために飛んで行く。だが、白い竜がいる場所からは、外れていた。右に少し行き過ぎている。

 おれは竜の背中を移動して剣で左の翼の付け根を切った。竜はまた短い悲鳴をあげる、ひどいことをしている気分だったが、それは抑え込んだ。翼を傷つけられた竜は、空中で均衡を失い、左へ身体がそれた。白い竜の方へ向かってゆく。

 地上では、都から歩兵が竜の群れへ向かってゆくのが見えた。

 白い竜はそれを見ている。奴からすれば《引き返す竜の様子に勘違いした人間たちが、愚かにも竜に地上で肉弾戦を挑もうとしている》だった。

 おれは乗った竜を白い竜へ向かわせてゆく。

 まだ落ちるな飛び続けろ。

 竜の偉大な生命力を信じる。

 ホーキングは銛から縄を切って外した。

 引き返していた竜はたちは、少しずつ攻めて来る人間たちの方へ引き返し出す。

 おれたちを乗せた竜だけが、白い竜の方へ向かう。

「わるい」

 謝って、おれは剣を二本、両手にとって乗っていた竜の首の付け根に突き刺した。歯を食いしばり、ありったけの力でじりじりと体内へ押し込む。

 すると、竜は絶命へ向かう、急速に高度が落ち始めた。白い竜へ向かう。

 白い竜が自身へ向かって突き進んでくる竜に気づいた。すかさず回避行動へ移る。

「ありがとな」

 ホーキングは最後にそう言うと鯨銛りを片手に、竜の背中から、奴へ向けて、降下した。

 飛び込んで来た竜を避けていた白い竜へ、両手に握った鯨銛り突き立てにゆく。

 途端、奴はホーキングにも気づいた。

 そして笑った。

 口から光線のような炎を放つ。

 あれがそうか。はじめて見たそれに、衝撃をおぼえた。

 その光線はホーキングの顏はんぶんを削いだ。

 けれど、関係ない。

 ホーキングが纏った勢いは、もう、彼にもどうにも出来ない。

 最後まで彼が握りしめた鯨銛りは、白い竜の首に刺ささり、そのまま貫通した。

 そして、おれが見れたのはそこまでだった。乗っていた竜が墜落して、地面に叩きつけられ、おれの身体もどこか遠くまで投げ出され、ぬかるんだ地面へ叩きつけられる。

 そのまま立ちあがれなくなった。

 意識も手放してしまった。

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