第八章 生まれた場所以外のために(8)
一晩中、砂浜に立って向こうの大陸を見ていた。
夜になると、燃えていることがより鮮明にわかった。どれだけの規模で燃えているのか、想像もつかない。とにかく、大陸すべてが燃えているようにみえた。風に運ばれ、わずがだけど灰も島へたどり着いていた。
少なくとも燃えているのは向こうの砂浜、あのみんなで越えた森の向こう側だった。森を越えた先が近くが燃えているせいで広く赤く見えているのか、それとも、本当に大陸全土が燃えているせいで、そう見えるのか、それはわからなかった。とにかく、家屋ひとつが燃えて出来る赤さじゃない。真夜中でも、自身の指先がはっきり見えるあかるさだった。
島のみんなは、念のため、島の森のなかへ避難していた。先導はセロヒキとビットがした。おれは砂浜で見張ると伝えた。けっきょく、ふたりに多くをたくすことになった。
大陸は焼かれていた。大勢の人々も焼かれているに違いなかった。おれは竜払いだ、竜が暴れているなら、いますぐに大陸を渡って戦うべきだ。
そう思った。けれど、向こうの大陸へは渡っていない。この島にいる竜払いは、おれしかいない。おれが島を出てしまったら、この島はどうなる。
毎回、そこまで考えて、いや、でも、と自分のなかで指摘が生産された。だから、まだ向こうの大陸に渡ってないのか、それとも。
怖いのか。
怖いに決まっていた。
だから向こうへ渡ってないだけか。島に残る理由を生成して、トーコたちを都合よく理由につかって。
けれど、けれど、どうだ。トーコの話では、白い竜は《この海の端から端までを焼いてゆく》と言ったらしい。
なら、もしかすると、この島はもう済んだから、白い竜の攻撃の対象から除外されているんじゃないか。
落ち付こうとしながら、おぞましいことを冷静に考えていた。トーコたちはこの島にいれば安全なんじゃないか。だったら、もしそうなら、おれは。
島のみんなはだいじょうだ、大陸へ渡れる。竜払いとして、役目を果たすために。
けど、違ったらどうなる。白い竜が偽っていて、裏切らない保証はどこにもない。白い竜は本当は自力であの大陸からこの島まで飛べるはずなのに、わざわざフリントの部下を使って船でこの島まで渡った。この大陸の協会を欺くために、だ。
人間のように卑怯に出来る、奴なんだ。
考えが、考えを抑止して、決断できずに、それでも、なにか救われようとして、夜通し砂浜にいた。立ったままでいるのは、それで、少しは戦っているつもりでいるらしい。
おれが向こうに渡ってもこの島にはセロヒキがいる。いや、だが、彼は、竜が。
あの時の、この砂浜でのことを思い出す。そう、つまり、彼は。
彼は竜が苦手だ。なのに、もし、おれがいない時に、この島に竜が攻めて来たら。
おれはいった、どうしたいんだ。そんなのは決まっている、手助けが必要な場所へ駆けつけるべきだ。竜から人を救う、それが竜払いだ。竜払いであるべきだ。
いま負けていた。いや、そうじゃない、これはちがうはずだと、すぐに自分を救おうと、別の自分が声をあげる。でも、それはどこか丁度いい、救済場所を探している気分にも似ている。自分の正体を明らかにされてゆく、気分にも似ている。
いますぐ決めて、動けば無力ではなくなるはずだ。剣はいつだって使えるようにしてある、いつだって背負っている。父さんと、せんせいの剣を。島にいる間も、毎日鍛錬は怠らなかった。
使うんだ、今日までの日々を、この時のために。ホーキングたちが戦っているかもしれない、想像するんだ。おれが一緒に戦うことで、なんとかなる可能性だってあるかもしれない。
なにの、なのに、もし、おれが島を出れば、竜が島へやってきたときどうする。
噛みしめ過ぎて、歯を下してしまいそうだった。
「どうしてこんなことばかり」
つぶやて、なんとか正気を保つ。
そんなことの繰り返しだった。




