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竜払い  作者: サカモト


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第一章 竜払い(2)



 せんせいを担ぎ、近くの村まで戻れたのは夕方だった。

 村の人たちは、じぶんたちの姿を目にして、すぐに竜払いに失敗したことを理解した。言葉では誰も攻めはしなかったけど、がっかりした感じはひどく伝わって来た。

 気が付かないふりをして、助けを求める。

 まもなく、せんせいは村の代表者の家の一室へ運び込まれた。村には専門の医師はいなかったため、わずかに医学の心得があるという女性を呼び、せんせいを見て貰った。

 せんせいの呼吸はひどく細かった。意識も戻らない。全身を強く打っていて、無数の骨折があった。内臓も深刻なほど傷んでいる可能性もあるが、その女性では詳しいことまでは判断つけられず、あくまでも適切な手当に留まっていた。外科的なことはできない。そして、いまのせんせいの状態では、とても医者のいる町まで運べない。村の人が近くの町まで医者を呼びに行ってくれた。

 医者が来た頃には、夜になっていた。その医者もせんせいの状態を見て最初に「難し過ぎる」と、ひと言いった。

 おなじ頃には、村のいくつかの場所で「じゃあ、あの竜はどうするんだよ?」という話をしているのが聞こえだしていた。「こまったねえ。このままじゃ、また牛が乳をださなくなる」

 じぶんが近くを通りかかると、村の人たちは話をやめた。代わりに「いや、ほんと、わることしたね」と、優しく気遣うようなことをいった。

 何も言えず、あたまをさげるしかなかった。村の人から、なにか食べ物を運んでこうようかと言われたときも、無力を感じていた。

 夜が深まっても先生の容態は変わらず、重い状態だった。本人の生命力に大きくかかっていると医者はいった。

 せんせいが寝かされた部屋にいると、ふと、村の代表者が手招きをした。

 部屋の外で言われた。

「さっき、町に医者を呼びに行った者が新しい竜払いを頼んできました。明日の朝にはその方が村に来てくださりますので。やはり貴方にも、このことはお伝えしこうと思いまして」

 どこか子供に対して、過剰に敬意を払おうという印象があった。けど、ここでも「そうですか」と、頭をさげるしかなかった。

 ドアの隙間からせんせいを見る。目を閉じ、顔色は悪い。炎での火傷もある。

 新しい竜払いを呼んだ。新しい、という表現は、ひどく内臓に響くものがあった。じぶんたちは交換可能な部品なのか。

「きみも、少し休んだ方いい」村の代表は肩へ手を乗せていった。「あっち方は、うちの者がきちんと見ておくから」

 あっち方。

 この人はせんせいの名前を覚えてないらしい。

 だめだった。疲れのせいか、ささいなことにつまづいて、攻撃しそうになる。剣を持つ者が、そんな心の持ち主でいいわけがない。

「………はい」返事をして、ドアの隙間からもう一度せんせいを見て外に出た。村はもう真っ暗だった。村の人たちは、もうほとんど眠りについている、静かだった。生き物なんて、一匹もいないみたいだった。

 あてもなく村のなかを歩いた。寒くも熱くもなく、無味無臭のなかを歩いているようだった。

 ふと、話声がきこえた。近づくと明りがあった。村には酒場がないためか、何人かが集まって村の広場の縁石に座って、お酒を飲んでいた。中心でしゃべっている男がいった。「いやあ、なんだろね、あの人は」

 せんせいのことか。過敏になっていた。反射的に身を隠していた。

「たしかに、医者を呼ぶついでに、新しい竜払いもみつけたけどさ」話しているのは、町へ医者を呼びに行った人だった。「なんか、こう、探す時間もなかったからしかたないつーか」

 ちがった、呼んだという新しい竜払いのことらしい。

「なんだよ、妙なのが来るのかよ?」

「いやー、なんつーか、ちゃんと協会の紹介の人だからだいじょうぶなんだろうけど、でも、探し始めたのがもう夕方だったろ。あんましよさそうなが残ってなくってな。なんかいいのはみんな出払ってるか、もしくは、もう今日の仕事終わって酒入ってるかでな」

「おい、お前がしっかりろよ、このままじゃ鶏がまた卵産まなくなるぞ、パンも食えなくなる」

 別の男がいった。「そうだよ、うちも育ち盛りがいるんだから」

「いやいや、なんでもな、その男、ひさしぶりらしいんだ、竜払うの」

「どれくらい」

「十年くらい? とかなんとか………」

「な、じゅうねん?」聞き手の男が、酒の入った顏をしかめた。「なんだよ? そいつはひさしぶりに竜を払うってのか」

「いやあ、なのかねえ?」

「おい、そいつは、この十年なにやってなんだよ」

「さあねえ」

 しゃべっていた男は着地点なしのまま、まるで他人事のようにそう締めくくり、ごまかすように酒を口に運んだ。

 攻めるつもりはないのか、他の人も追求はしなかった。文字通り、酒のさかな程度の話題だったらしい。

 それからしばらく同じような話しを繰り返していた。「なんだろう、そいつ」「なんだろう、そいつ」と、十年ぶりに竜を払うという者に対する興味を元手に会話を続けていた。それもやがておひらきになって、みんな家へ戻っていった。

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