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短編小説集

うそつき令嬢と国一の嫌われ王子

作者: 属-金閣

【毎週水曜の新作短編投稿】の第七弾です!

「それでイリス、いつになったら貴方の婚約者と合わせてくれるのかしら?」


 今日も部屋中にお母様の声が響き、私は身を縮めた。

 私の名前はイリス・ハーノクス、二十歳。

 王都から離れたベンデルス領という田舎貴族の令嬢である。

 現在私は婚約者いるのだが、未だにお母様に会わせていないため、こうやって追求されているのである。


「い、いや~それが相手の方が予定が合わない程多忙でして……」

「それはもう何度も聞いています。貴方が婚約者がいると言い出して、はや一か月。毎回似たような理由で話を打ち切り、いつになったら会えるのかしら?」

「そうでしたっけ?」

「……イリス、今更ですが本当に婚約者はいるのですよね? 私がお見合い相手を見つけて来たと同時に、貴方が以前からお付き合いしている貴族の方がいると言うから、相手の方を断っているのよ。分かっているのですか?」

「あ! そういえば、今日婚約者の方に手紙を出すのでした。それではお母様、失礼いたします」

「こらイリス! まだ話は終わって」


 お母様の話を無視し、私は部屋から逃げるように出て行き、直ぐに自室へと逃げ込む。


「はぁ~今日も何とか強引に逃げ切った……でもあの様子だと、もうそろそろ限界かも……」


 私はそのままベットへと仰向けに倒れた。

 今更だが、私に婚約者がいるというのは、真っ赤な嘘である。

 あれはお母様のお見合い相手を断るためについた、咄嗟の嘘である。

 昔から付き合っている相手もいない、現状でもそういう相手もいない、完全独身状態である。

 既に学生生活を卒業して二年。

 令嬢という立場上、そろそろどこぞの貴族家と婚約もしくは結婚をする年齢らしい。

 私が住んでいるベンデルス領は、王都から離れた田舎だが、この辺に住む貴族たちはだいたい昔からお見合いなどで結婚し、平和にのどかに過ごしているのである。

 別にそれが嫌とかではないが、私としてはまだそういう時期じゃないと言うか、遊びたいと言うか、自由に過ごしたいと考えているのだ。

 簡単にいえば、私のわがままである。


 最近では、女性が研究機関や王都で学院を卒業して働いていたりすると聞くので、私もこのまま顔も知らない誰かと結婚するんじゃなくて、もっと色んなことを体験したいと思うのだ。

 家の立場を考えれば、そんな自由は既に学院時代で終わっているのだから、素直に両親に従うべきなのだろう。

 が、私はもう少しそんな自由な時間を過ごしたいからわがままを続けているのである。

「お母様にこれをいっても仕方ないし、嘘の婚約者がバレたら直ぐに別の人と見合いになるだろうし……あ~どうすれば」

 私がベットで頭を抱えていると、扉がノックされる。

 私は直ぐにベットから起き上がり、身なりを整えて返事をする。

 返事をしてから扉を開けて入って来たのは、私専属メイドであるヴィオラであった。


「なんだ、ヴィオラか。ビックリさせないでよ~」

「イリスお嬢様、私だからといって直ぐにだらけるのはお止めください」

「だってヴィオラなら素のままでもいいでしょ。他の使用人には出来ないけど」


 するとヴィオラは小さくため息をついた後、ゆっくりと私の方へと近付いて来た。


「イリスお嬢様、婚約者様の件これからどうされるのですか?」

「うっ……それを今考えてたところ」


 そう、ヴィオラは私がお母様に存在しない婚約者がいると嘘をついていると知っているのだ。

 それでもお母様には真実を告げずにいてくれるのは、私がヴィオラに頼み込んで黙っていてくれているのである。

 ヴィオラは私が幼い頃から付き合いがあるメイドの一人であり、その頃から身の回りの世話を焼いてくれ、私のどうでもいい話にも付き合ってくれたりと、私にとっては姉のような存在なのだ。


「それで、何か思いついたのですかイリスお嬢様?」

「……全然ダメ~」


 私は何の対策も思い付かず、直ぐにヴィオラに助けを求めた。

 するとヴィオラは優しく微笑んで、提案をし始めてくれた。

 その後私はヴィオラと状況の整理や今後どうするかを話し合った。


「もう一層の事全て打ち明けてはどうですイリスお嬢様?」

「あ~結局そこに辿り着くのね……うぅぅ、それは……やっぱり無理! なしで」

「はぁー、ではどうするのですか? ミラー様も薄々気付いているとは思いますよ、イリスお嬢様に婚約者がいないのではと」

「くぅっ……そうよねー今日の感じからもう話だけじゃきついよねーうぅぅ……」


 私はそのまま机に突っ伏した。

 どうしよう、どうすればいいかな、お母様に今嘘とバレると辛いし、何とか嘘を付き通してこの場を乗り切りたい。

 そうしないと私の自由が完全になくなってしまう! その後のことは……またその時に考える! とりあえずは今よ、今。

 う~ん、何か、何かないかな……お母様は相手に会えば納得してくれる? でもその肝心な相手が存在しない、なら相手を用意する?

 いやいや、そう簡単に貴族が見つけられるわけないじゃん! そんな人がいればもう会わせて――ん? 会わせるだけなら、身バレせず顔が整っている相手ならばいけるのでは?

 そこで私は顔を上げると、ヴィオラが声を掛けて来る。


「何か思いつかれたのですか?」

「うん! ひらめいたかも!」

「それをお聞かせいただいても?」

「もちろんよ」


 私は立ち上がり胸を張ってヴィオラにひらめいた案を伝えた。


「身代わりの婚約者をしてくれる人を探すわ! 一日だけでもやってくれそうな、顔立ちがよくて性格がいい人。あと口が堅い人かな。それでお母様に婚約者として会わせて、この状況を乗り切るの! いい作戦じゃない?」


 ヴィオラは私の提案にあ然とした顔をするのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そこまで呆れた顔しなくてもいいのに。

 私はその時のヴィオラの顔を思い出しながら、眼鏡をかけ服装を変えて街へと繰り出していた。

 その理由は、私の一日限定の婚約者を探し出すためである。

 かなり強引な作戦であるが、とりあえず婚約者とお母様を合わせれば疑われることもないし、適当に相手の情報はこっちでつくってそれを演じてもらうだけならいけると私は考えたのだ。

 ヴィオラは私が始めたことなので、口出しはしないが出来る範囲で手助けはしてくれるといってくれ、街までついて来てくれたのだった。

 現在ヴィオラとは別行動をし、こればかりはヴィオラに手伝ってもらうのは申し訳ないので、私だけで婚約者を受けてくれそうな人を探している状況である。


 私は街でも一番人通りが多く、憩いの場となっている噴水広場のベンチに座り、読み物を読む振りをしながら顔立ちがよく貴族っぽい雰囲気が出せる相手を探し続けた。

 それから二時間後、私の心は折れかけていた。

 はぁ~やっぱりそう簡単に、そんな相手は見つからないよね。

 私は開いていた本を閉じ、膝の上に置き小さくため息をついた。

 そういう人が全くいないという訳じゃなく、ただそういう人は全員絶対彼女や婚約者と思える女性が隣にいたのだ。

 なので、私はそんな人に声を掛ける訳にもいかず、他の人を探し続けたがそんな人しか見つからずに私は諦めかけていたのだ。

 さすがに都合よくそんな人が見つかる訳ないか~……でも、意外と顔立ちがよくて優しそうな雰囲気の人っているんだな。

 ちょっとそこだけはビックリしたかも。

 もしかしたら、今日はダメなだけで続けて行けば誰かしら見つかるかも。

 私はそんな微かな希望を胸に抱きつつ、今日は疲れたのでヴィオラとの集合場所に向かおうと思ったが、その前に小腹が空いたので近くの売店で何か買ってから帰ろうと決め移動を始めた。

 その道ながらに、私はある張り紙を目にして足を止めた。


「こんな張り紙までされてるんだ、あの嫌われ王子」


 張り紙には、国一嫌われれ者として噂され嫌われ王子などと色々な呼ばれ方をされている、男の噂が書きだされていた。

 彼の名前はオウル・ヴォルクリスといわれ、これまでに何人もの令嬢に手を出している最低な男とか、買い物はいつもつけで一度もお金を払うことがないとか、力を見せびらかせて、人が恐れる姿を見て楽しんでいるとか、騙して婚約した相手から金を奪い取ったとか、本当は王子じゃないとか色々な最悪な噂がある。

 彼の似顔絵だと思われる顔も張り紙には書かれていたが、似ているかどうかは分からなかった。

 私は国一の嫌われ王子に会ったことがなく、色んな似顔絵を見て来ており本当の顔などは知らないのだ。

 ただ似顔絵の共通点として、必ず黒髪で翡翠色の瞳であるのでそれが嫌われ王子の特徴なのだと私は理解している。


「にしても、物凄い噂ばかり書かれているわね。国一の嫌われ王子か……なんかここまでいわれていると、怖いもの見たさで遠目から見たい気はあるわね」


 私はそんなことを思ったのち、その場から歩き始め最近噂のお菓子屋へと向かった。

 その後私はお菓子屋で小腹を満たし、ヴィオラの元へと向かい始めた時、偶然通りかかった店のガラス越しに並べられたガラス細工に目が止まり近寄った。


「わ~綺麗」

「凄いなこれは」


 その時私の隣に、紙袋を片手に抱えた金髪で眼鏡の男性が立っており、私と似た反応をガラス細工に向けていた。

 すると男性が隣の私に気付く。


「あ、すいません。つい、テンションが上がってしまって周りが見えてませんでした。ぶつかったりしませんでしたか?」

「え、あぁ、大丈夫ですよ。私も目についてそのまま近付いてしまったので、同じ様な感じですので気にしないでください」

「そうですか? それならばいいんですけど」


 わー……眼鏡をしているけど、横顔からも整った顔だな~って思ったけど正面から見るとカッコイイな……

 私はその男性に見惚れていると、ふと婚約者相手を引き受けてくれないだろうかと思い出し、直ぐに周囲を見回した。

 大抵の場合、こういう人にも彼女とか婚約者てきな人がいるはず。

 私が急にきょろきょろし始めたので、男性は驚きつつ声を掛けて来た。


「ど、どうしたんですか急に?」

「あっ……いや~何ていいますか、付き添いの人とかいるのかな~って思いまして……」

「付き添いですか?」

「は、はい。そのカッコイイ人なのでそういう人は、彼女とか婚約者とかいう人がいるものだと思ってまして」

「あははは」


 わ、笑われてしまった……ていうか、初対面の人に容姿のこといって、更には思っていたことをそのまま口にしてしまった。

 これは笑われても仕方ない……うぅぅ私残念過ぎるでしょ。

 私は恥ずかしくなり俯いていると、男性が声を掛けて来た。


「ごめんなさい。そんな風に正面から言われたのが初めてで、つい笑ってしまいました」

「い、いえ。私が変なだけなんです」

「そんな落ち込まないで下さい。ちなみに、俺にそういう人はいませんよ。今日は見ての通り買い出しに来ただけですよ」


 初対面の男性に慰められてしまった。

 そんな令嬢、私しかいないだろうな~あはは……こんなの知られたら怒られるな。

 それよりも目の前の人、顔も申し分ないし、性格も優しくて彼女とかもいない人にこんな所で会えるなんて偶然、いや奇跡よ! ここで、この人を逃せばもう二度とそんな人と出会えない気がする。

 だから、ここで絶対に婚約者役として協力してもらえるようにするのよ、私!

 そして私は気を取り直して、顔を上げて改めて婚約者役をお願いすることにした。


「あの、突然で申し訳ないんですけど、お願いがあるんですけど」

「お願い? 俺にですか?」

「はい。その貴方の顔と性格の良さと雰囲気で決めたんですけど」

 するとそこで男性の方が何かを察して先にそこで口を開く。

「あ、もしかして交際とかそういうのですか? 申し出は嬉しいですが、そういうのはお受け出来ません」


 うっ……確かに告白ぽい感じだったかもしれないけど、そうではないんだよね。近いけど……

 はぁ~告白もしてないのにフラれる気持ちってこんななんだ……胸が痛い……

 私は小さく息を吸い気持ちを落ち着けてから言葉を返した。


「え~と、なんといいますか、そうではないんですが、そうともいえるといいますか……」

「?」


 首を傾げる男性に私はどう伝えればいいか分からず、もう全てを打ち明けることにしたのだった。

 私は自分の立場や婚約者役を探していることなど、言える範囲のことは伝えると相手の男性は驚いた表情をしていたが、疑うことなく信じてくれたのだった。

 目の前の男性の名前はウル。

 私よりも二つ年上で街から少し離れた所に住んでいる方らしく、自宅で装飾品などを創りそれを売って生活しており、繊細に出来たガラス細工にも興味がありテンションが上がっていたと教えてくれた。


「と、いうわけなんです。ウルさん」

「まさかイリスさんがお嬢様だったとは。そうとは気付かず、失礼な態度をとってしまってすいません」

「いやいや、私みたいな令嬢いませんよ。親に婚約者がいるとか嘘までついて自由でいたいなんて。呆れちゃいますよね」


 私が少し卑屈な態度をとると、ウルは軽く首を横に振った。


「そんなことないと思いますよ。イリスさんはイリスさんがやりたいと思うことがあって、そうしてるのですからいいと思いますけど。俺みたいな奴にそんなことを言われも、嫌かもしれませんが」


 そういってウルは視線を逸らす。

 まさか肯定されてしまうとは、ちょっと予想外だったかも。

 それについ勢いで正体までバラして話してしまったが、それでもウルさんはこうして向き合ってくれるなんて、いい人過ぎないか? もうここまで来たら、ウルさんにやってもらうしかない!


「そういってもらえるだけで嬉しいです。ありがとうございます。それで、婚約者役なんですけど……受けてもらえませんか? ウルさんなら顔立ちもいいですし、性格も優しくて、何となく貴族の雰囲気が出てていいと思うんですよ」

「俺から貴族の雰囲気出てますか?」

「う~ん、何といいますか言葉遣いとか、態度とか対応ですかね。私が貴族だと知っても気圧されない所もそう思った理由ですかね」

「……なるほど」


 その時一瞬だけウルが視線を落としたが、直ぐに私の方へと向けて来た。


「イリスさんに、そこまでいわれると恥ずかしいですし、断りずらいですしね」

「それじゃ、引き受けてくれるんですか! も、もちろん報酬も出しますよ」

「いや報酬とかはいいんですけど、本当に俺なんかでいいんですか?」

「? はい、ウルさんがよければ私はお願いしたいんですが」

「こんなさっき会ったばかりの、どこぞの知らない男ですよ? もし、俺が悪い奴だったらどうするんですか?」

「確かにさっき会ったばかりですけど、ここまで話した感じウルさんはそんな人じゃないと思うからお願いしてるんです。こう見えてもそういう直感は外したことがないんですよ、私」


 私は自慢げに少し胸を張ると、ウルは少し面を食らった表情をしていると小さく笑いが噴き出した。

 何でまた笑われたの、私?

 と、私が困惑しているとウルが直ぐに謝って来た。


「すいません。イリスさんが、思った以上にお人好しな人だと思いまして」


 そういった直後、ウルはそこで突然眼鏡を外して私に顔を近付けて来た。

 私はウルの藍色の瞳と眼鏡を外した顔に見惚れていると、それが急に近付いて来たことに驚く。

 ちちち、近い! 近いよウルさん!

 が、途中で顔を止めじっと私の方を見つめて来た。

 私はこんな近くで異性に見つめられたことなどなかったので、恥ずかしくなり直ぐに目を逸らしてしまう。

 するとウルが私を見ながら口を開く。


「イリスさん、俺の目を見てもう一度言ってください。本当に、俺でいいんですか?」


 私は一瞬だけ目線をウルに向けたが、直ぐに目を見れずに同じ方へと視線を逸らして答えた。


「いいです! いいですから! その、近いんで離れてください……」

「……分かりました」


 ウルはそう答えて私から離れて行く、その時ウルへと視線を向けた時一瞬だけ瞳の色が藍色ではなく緑に見えた気がしたが、一度瞬きをしたらウルの瞳は藍色であった。

 あれ? 動揺し過ぎて色見間違えた?

 私が片手で顔を仰いでいると、その間にウルは眼鏡を掛けると私に頭を下げて来た。


「急に変なことをしてしまって、すいませんでした。本当に俺なんかでいいのか訊きたくて、さっきの様な態度をとってしまいました」

「そ、そう……出来れば普通に聞いて欲しかったです……」

「ごめんなさい。もうあんなことはしませんから」


 その後、私は改めてウルに一日限定の婚約者役を引き受けてもらい、お母様たちに会ってもらうなど詳細の話をした。

 私の方で台本や服装、設定など作るのでウルには貴族っぽい雰囲気を出して、台本通りに話してくれればいいと伝えたが、ウルは服装など用意する必要はないといって来た。


「え、どうして? まさか、その服装で来る気?」

「いやいや、さすがにそんな失礼なことはしないよ。貴族風な服はつてがあるし、馬車とかもその人に借りるから安心して欲しい。しっかりとした一貴族に見えるから」

「そんな知り合いがいるの、ウルさん?」

「まぁね。あとイリスさんに全て話は合わせるから、そっちで適当に設定も台本を作ってしまっていいですよ。俺はどんな設定でも合わせますから」

「でも、さすがに一度くらい練習した方が」

「練習して固定させてしまうより、その場の臨機応変にした方が臨場感もありますし唐突な問いかけにも対応出来ると思うんですが、どうですか? 心配になるのは分かりますが、イリスさんが思う様に進めてくれればいいだけなので、少しは気が楽かと思いますが」


 確かに、台本作ってまたウルさんと会って練習するとなると時間もかかるし、ウルさんの方で話に合わせてくれるって言うならそれに甘えてもいいかも。

 それに早めにお母様に会ってもらって疑いを晴らしたいし、早いに越したことはないよね。


「分かったわ。ウルさんがそこまでいってくれるなら、そうするわ」

「話を合わせるのは得意なので任せて下さい。あぁ、イリスさん一つだけここで決めておきたいことがあるんですが、呼び方どうします?」

「呼び方か。そうですね、一応婚約者どうしなら呼び捨てが普通ですかね?」

「分かりました。では、当日はイリスとお呼びしますね」


 突然の呼び捨てに、私は動揺をグッと抑えて平然とした態度でウルのことも呼び捨てしたが、ウルは動揺など全くせず「はい」と微笑んで返してくるのだった。

 くっ……何だか私だけやけに動揺させられている気がする。


「イリスさん、そしたらいつ実施するかは決めていますか?」

「えっと、なるべく早い方がいいですけど、ウルさんの方の準備もあるのでどうしようかと思っています」

「でしたら、俺の方は早くて明日には準備が出来るので、明日以降ならいつでも大丈夫ですよ」


 早! そんな直ぐに準備出来るとか、ウルさんの知り合い凄すぎでは? というより、そんな人と知り合いのウルさんが凄いのでは?

 私が少しあ然としていると、ウルの方から決行日を提案して来てくれた。


「そうですね、でしたら三日後はどうですか? イリスさんがお母様たちにも伝えたりする時間も考慮して、一番早い日だとそのくらいだと思いますけどどうですか?」

「え、あ、はい。三日後ならたぶん大丈夫です。今日お母様に伝えれば、急だと言われるかもしれないですが対応してくれるはずですので」

「では、決行は三日後ということで。時間は十時頃でいいですか? 俺の方からイリスさんの屋敷に伺わせていただきます」

「えぇ、それで構いませんけど、大丈夫ですか? お願いしておいてあれですけど、急に準備とかもお願いして、いきなり貴族家に来てもらうなんてウルさんからしたら、辛くないですか?」

「本当にイリスさんはお人好しですね。俺のことは気にしないでいいんですよ。俺でいいと言ってくれたから引き受けているんですから」

「それならいいんですけど」

「ここで出会えたのも、何かの縁ですし。一日だけでも貴族令嬢の婚約者を演じられるのは俺からしたら光栄なことです。なので、本当に気にしないでください」


 私はそこまで言われ、自分から頼んでおいてまたウルに気遣われたと思い少し反省した。

 自分で言い出したことなのだから、自分がしっかりしないでどうするんだ! せっかくウルさんが引き受けてくれたんだ、絶対に成功させないと。


「それでは、俺は今日から準備をし始めますので、また三日後にハーノクス家の屋敷でお会いしましょう」

「はい、よろしくお願いしますウルさん」


 そうして私はウルと別れ、私も色々と準備をしなければと思い急ぎ足でヴィオラの元へと戻った。

 あ、そういえばウルさんのフルネーム聞かなかったな……まぁ当日は呼び捨てって決めたし、問題ないか。

 合わせてくれるって言ってたし、そこはウルさんに任せてしまう。

 それから三日後。


 お母様たちと偽の婚約者であるウルとの顔合わせ当日、私はそわそわしながら自室で待っていた。

 時刻は九時四十分であり、ウルとの約束の時間まで後二十分という時だった。

 あーダメだ、何か凄く緊張して来た……落ち着いて座ってられない。

 私はたまらず立ち上がり、部屋の中をウロウロとし始めた。

 お母様に伝えた時は予想通り、急すぎると言われてしまったがそれでも会ってくれるといってくれたのは良かった。

 ヴィオラにはもう少し相手の詳細を求められたが、私もそこまでウルのことを知っていなかったので印象と教えてもらったことだけ伝えた。

 一応は納得してくれたが、ヴィオラはウルのことを少し警戒しており、もう少し自分の立場を理解して勢いで行動し過ぎないようにと注意されてしまった。

 確かに私も色々とウルのことを信用し過ぎて話し過ぎたとは思っているが、ウルが悪そうな人には話していて思えなかったのだ。

 私も反省して、次からはもう少し冷静に勢いで行動しないようにしようと思ってはいる。

 そんなことを考えていると、突然部屋の扉がノックされたので返事を返すと、慌てた使用人が扉を開けて来た。


「ど、どうしたんですか?」

「イイ、イリスお嬢様、ああ、あの方が本当に婚約者様なのですか!?」


 物凄く動揺している使用人に私は軽く首を傾げて、ウルが来たのかな思い「そうですけど」と返すと使用人は「そ、そうですか……」と口にした。

 すると使用人は気を取り直して、一度失礼な態度をとったことを謝罪してから婚約者がお見えになったと教えてもらう。


「分かりました。もう、お母様の所に?」

「はい。ミラー様の元へ現在案内中です。ですので、イリスお嬢様もミラー様のお部屋へと移動お願い致します」


 私は使用人の言葉に頷き、移動を始めると使用人は後ろから私について来ており、お母様の部屋の前に到着すると使用人が部屋をノックしてくれた。

 そしてお母様から返事が来ると、使用人が扉を開けてくれ私が一礼してから部屋に入ると、まだ部屋にはウルの姿はなくお母様とお父様だけであった。


「それでイリス、貴方は一体どういうつもりあの相手を連れて来たのですか?」

「? もうお会いになったのですか?」

「いいえ、使用人たちから聞いたのよ。で、何を言われたの? 脅されているの? 何かされたの?」


 次から次へと来るお母様からの質問に、私は何が何だか分からず混乱しているとお父様が一度お母様に落ち着く様に声を掛けてくれた。


「イリス、まずはどういう経緯で婚約することになったか教えてもらっていいかい? これまでイリスから何にも教えてもらえてなかったからね」

「何を悠長なことを言っているのあなた! それどころではないですよ! 相手はあの人なのですよ! イリスが騙されているに違いないのよ!」

「気持ちは分かるが、イリスの話も聞かないと状況が」

「状況もなにもないですわ! あーもうどうしてこんな事に……」


 そういうとお母様は頭を抱えてしまい、お父様はそんなお母様に声を掛け続けた。

 何? 一体何が起こっているの? どういう事なの!?

 私が状況を理解出来ずにいる所に、部屋の扉が開き私はウルがやって来たのだと思い声を掛けようとしたが、途中で私は言葉を止めてしまう。

 そこへ現れたのは、黒を基調とした正装に黒髪が特徴の男性が部屋に入って来て、私の方へと顔を向けて来た。

 その瞳は翡翠色で綺麗な色をしていた。


「イリス。久しぶりだね」

「えっ……ウ、ル?」


 その声は確かにウルであったが、完全に私が知っている金髪で藍色の瞳をしたウルではなかった。

 どういうこと? 顔変えた!? いやいや、そんなこと出来る訳ないでしょ私! 冷静になって。

 いやでも、声はウルだけど容姿がウルじゃないってどういうことなの本当に!


「あーこっちの格好で会うのは初めてだったね。ごめんよ、イリス。騙すようなことをしてて、でも俺の本当の姿を知ったら婚約なんてしないだろ?」

「やっぱり! 貴方うちのイリスを騙していたのね!」

「えぇ、正にその通りですよミラー様」


 と、お母様が話に割り込んで来るとウルは視線をお母様へと向けて正面の椅子へと腰をかけた。


「イリスもまずは座ったらどうだい? 今日は婚約の顔合わせなのだから」

「私は絶対に認めないわ! 絶対に何かされているに違いないもの!」

「こらこら勝手に先走らない」


 お母様とお父様の様子に全く動揺することなく座り私の方を視線を向けているウルに、私は座る前にまずは目の前にいるのが本当にウルなのかを問いかけた。


「え~と……ウルなの?」

「そうだよ、イリス。確かに君と会う時は偽名で変装したウルと名乗っていたが、これが俺の本当の正体さ」


 するとウルは立ち上がり、私の方へと体を向けた。


「では改めて、俺の名前はオウル・ヴォルクリス。世間では、国一の嫌われ王子と言われいる」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 異様な雰囲気のまま、私とウルと偽名を使っていた国一の嫌われ王子ことオウル、そして私のお母様とお父様が向かって座っている状況が暫く続いた。

 そんな状況に至る前には、私はウルの正体に動揺しつつも席に着くと、お父様からまずは出会った経緯を訊ねられた。

 が、私は考えていたことが全て飛んでしまい、三日前の出来事を思い出しているとオウルが代わりに話してくれた。

 それは三日前の出来事をあたかも一年くらい前の出来事の様に脚色し、私がオウルだとは知らないで一方的に騙し続けているうちに一緒に過ごす時間が楽しくなり婚約まで至ったと伝えるのだった。

 私はよくそんなにもなったか出来事をすらすらと話せるなと、変な所に関心してしいるとお父様に「間違いないかのか?」と訊ねられた。

 私はチラッとオウルの方を見ると、小さくオウルが頷いたので私は「私も知らなかったわ」と返すとお父様は「そうか」と口にしてため息をついた。


 そりゃため息もつきたくなるか……実の娘が婚約者として連れて来た相手が、国一の嫌われ王子でありしかも騙されていたらそんな態度にもなる。

 こんなことが周囲に知れ渡ってしまったら、ハーノクス家の名は確実に落ちる。

 落ちるといっても騙されるなんて目利きがなってないなど、躾が足りないなどと言われる程度であり、ほとんどは同情やオウルの悪名が更に高くなるだけだろう。

 その後は、誰も何も発言しないまま黙った異様な雰囲気が続いたのである。

 あ~まさかこんな展開になるなんて、思いもしないじゃない。

 偶然街で婚約者役を探して出会った相手が、たまたま国一の嫌われ王子が変装していた姿だなんて、分からないわよ!

 どうする、どうすんのよ、この状況……まさか噂みたいにお金とか要求されたりするんじゃ。

 私はそんな風に思ってしまい、恐る恐るオウルの方に視線を向けるとオウルも私の視線に気付き、何故か優しく微笑んで来るのだった。

 何故そこで微笑む!? 分からな過ぎる、てかあの時のウルは素じゃなかったてこと? 素はやっぱり噂通り最悪な性格しているってことなの? 私に嘘ついてた訳だしそうとしか……

 と、私が考えた時にウルが何度も自分でいいのかと聞いて来ていた時の事を思い出した。


 あっ……もしかして、あれって遠回しに私に何かを伝えようとしてた? そういえば、最後に近付いて来た時に瞳の色が違って見えたあれは、気のせいじゃなくて分からせようとしてくれてた?

 そう考えだすと、雰囲気や言葉使いに言動など納得がいき始め私はそれを気付かず、お願いしていたのだと分かり落ち込んだ。

 私って抜けてるし自分のことしか考えてない、勢いだけのダメ令嬢じゃん……

 するとそこで今まで黙っていたお母様が口を開けた。


「それで、いくらお支払いすればイリスとの婚約を解消してもらえますか?」

「ミ、ミラー!?」

「お母様?」

「……それはどういうことですか、ミラー様?」

「言葉の通りよ、今すぐ貴方がイリスを騙して結ばせた婚約を破棄して欲しいのですよ。国一の嫌われ王子と婚約なんてとんでもない! どうせ貴方も遊びのつもりで婚約したんでしょ?」


 オウルは暫く黙ってから答えた。


「俺が遊びではなく、本気だと答えたとしても信じてはくれないのですよね」

「もちろんよ。貴方の噂を知っていて、そんな言葉信じる訳ないじゃない」

「そうですか」


 その時オウルは少し悲しい表情をした様に隣の私には映った。


「でも嫌です」

「っ!?」


 まさの返事にお母様たちが驚くが、直ぐにオウルは続けて話した。


「と、いうのは冗談ですよ。そもそも今日はそのつもりで来ているのですから、言われるまでもなく婚約を解消させていただきますよ」

「え!?」


 私の驚きの声にお母様お父様、そしてオウルの視線を集めてしまうが直ぐに黙り、身を縮めた。

 その姿にオウルは小さく笑うと、話を続けた。


「イリスとは初めは楽しくて婚約まで結びましたが、途中から飽きてきましてね。今日も本当は来るつもりはなかったのですが、最後に正体でも明かして面白くしようと思って来たんですよ」

「何て最低な! やはり、国一の嫌われ王子といわれだけありますわね!」

「という訳なので、婚約は破棄させてもらいますよ。イリスもこれからは外見だけで人を判断するのはやめた方がいいよ。今回がいい教訓になったろう」

「……ウル」

「そっちからそういってもらえて嬉しいですわ。では、さっさとお帰り下さい、オウル・ヴォルクリスさん」


 お母様は立ち上がり、オウルを威圧するように部屋から押し出し始める。

 オウルも歯向かう事なくそのまま私にそれ以上何も言わずに部屋から出て行くのだった。

 私はただ座ってそれを見ていることしか出来なかった。

 ここで声を掛けたとしても何にもならないし、別に状況が変わる訳でもないと判断したからだった。

 でも結果だけ見るならば、私に向けられていたお母様の疑念は解消され、更には騙されていたという状況まで作り上げていったので、婚約の話も暫くは来ないという結果になるだろう。

 確かに私としてはいい結果だが、別にウルをそこまで犠牲にしてまで手に入れたかった結果ではない。

 今日はただ顔合わせをして、後日私から別れたと伝えて乗り切るだけだったのに、ウルいやオウルはそれ以上のことをし、自分に全ての原因があると向けさせ更には傷つくことで私の願いを叶えてくれたのだ。

 もしかしたら、そう私が勝手に解釈しているだけでオウルにはそんな気はなかったのかもしれないし、言っていた通り楽しかったからという理由かもしれない。

 だが、私のせいで彼を傷つけさせたことには変わらない。


 私は、抜けてるし自分のことしか考えてない、勢いだけのダメ令嬢のうえ、最低な人間だ……

 それから直ぐに、国一の嫌われ王子の新しい噂が街に広まった。

 偽名を使い、ある貴族令嬢を弄び最後には両親の前で正体を明かしてあざけ笑ったと。

 その噂は私の名前などは入っていなかったが、何処からか私ではないかと話が出始めて周囲から同情の声が暫く届いていた。

 お母様やお父様も初めは名前が出てしまったことに動揺していたが、この噂を使い自分たちの立場をなるべく下げまいと噂に乗っかったのだった。

 広まった噂は本当ではないが、これも家を守るための行動だと私は理解していたが、私が偽の婚約者などと言わなければこんなことにまでならなかったとあれから一人で何度か後悔していた。

 一番は、オウルを傷つけてしまったことに頭を悩ませていた。

 あれ以来私は屋敷を出させてもらえておらず、オウルを探すことも出来ていない。

 オウルは噂では国一の嫌われ王子とされていたが、私にはどうしてもそうとは思えずにおり、あの日の悲しい顔やどうしてあそこまでしてくれたのかが、気になって仕方なかったのだ。

 もしかしたらまた街に行けば、あの時ウルとして変装していたオウルにまた会えるかもしれないと思いつつ、抜け出せる機会を窺っていたが全くそんな隙はなく屋敷の中だけの生活が続くのだった。

 それから二週間が経ったある日、ヴィオラが私の部屋にやって来た。


「イリスお嬢様、まだお気持ちが整理できていないようですね?」

「え? 何のこと?」

「隠さなくともいいです。あれ以来イリスお嬢様は、密かに書庫室にてオウル・ヴォルクリスについて調べていますよね」

「っ!?」


 私はヴィオラにやっていたことを言い当てられてしまい、嘘をついても仕方ないので小さく息を吐いてからヴィオラの方を向いた。


「プライベートの覗き見は酷いな、ヴィオラ」

「申し訳ありません、ですがイリスお嬢様の雰囲気からそうなのではと薄々感じていましたので」

「見てた訳じゃないのに、そう感じたってこと?」

「はい」

「……ヴィオラって凄いね。もしかして、他の人も気付いている?」

「いえ、そんなことはないと思います。私は長年イリスお嬢様を見て来ましたので、気付いただけですので」


 改めてヴィオラの凄さを知った私は、これまで思っていたことを全て打ち明けた。

 あの日のことやどうしてあそこまでしてくれたのかをもう一度オウルと会って話をして、そして私のわがままで傷つけてしまったことを謝りたいこと。


「もう一度、もう一度街に行けば会えそうな気がするの……確証はないけど、オウルいやウルとしている気がするのよ」

「……なるほど。イリスお嬢様はもう一度街に行きたいということですね?」


 ヴィオラの問いかけに、私は強く頷いて答えた。

 するとヴィオラは少し考える様な体勢をとったのち、口を開いた。


「では、今日の昼食後に屋敷を抜け出して街に行きましょう。もちろん私は行けませんので、経路案内だけですが。それでも良ければ、出来ますよ」

「本当!? あっ、でも、それもまた私のわがままでバレたりしたらヴィオラが……」

「確かにそうですね。ですが、バレなければいいのですよ。時間通りに帰って来て下さると約束出来るのでしたら、問題はありません」

「凄い自信だね」

「はい。もう何年この屋敷に仕えていると思うのですか? 抜け道に使用人の通り道など全て知ってるのですから。それで、どうしますかイリスお嬢様?」

「……うん、やるよ。このままじゃモヤモヤしたままだし、ヴィオラ私のわがままに付き合って」


 するとヴィオラは、私に深々と頭を下げて答えた。


「もちろんです、イリスお嬢様」


 そして私は昼食までの間に、ヴィオラの作戦を立て念入りに確認をした。

 ヴィオラの作戦は簡単であり、昼食後に私が自室で籠って調べ物などするとしてヴィオラには誰も入れない様にと伝え、部屋の前に待機しててもらう。

 その間に私は窓から部屋を出て、木々に隠れながら裏口へと向かう。

 時間帯的に使用人も昼食をとるために交代する時間の為、そこをついて裏口までたどり着きヴィオラから預かった予備の裏口の扉の鍵で外へと出て行くという作戦である。

 ここ最近は書庫室に籠っていた事が多かったので、部屋に籠っていてもそこまで怪しまれないとヴィオラの考えもあり、誰か来たとしてもヴィオラが遠のけるというものなので、抜け出していたとバレない訳だ。

 ただし、五時までには帰って来ないと夕食の準備で一度ヴィオラも離れないといけないので、それが今回のタイムリミットである。

 そして昼食後部屋に戻って早速作戦を実行させた。


 部屋を出る前に外で身バレしない様に変装してから部屋を出て、順調に裏口までたどり着き鍵で扉を開けて屋敷を抜け出せることに成功する。

 そのまま私は街へと急いで向かう。

 オウルがウルに変装している確信はなく、自分の何となくであり、何処にいるかもどんな格好をしているかも分からない。

 が、初めて会ったあの日、口にしていたことを私は信じてオウルがいそうな場所に向けて走ったのだった。

 街に着き直ぐに検討がつく場所をいくつか回ったが、何処にもオウルが変装している感じの人はおらず、その後も息が続くかぎり走り回り、次から次へと向かい暫く待ち伏せをしていたが現れることはなかった。

 私がいそうな場所として考えたのは、ガラス細工など綺麗な置物などを展示している店の周辺であった。

 初めて会った日彼は、緻密に出来たガラス細工などが好きと言っていたので私はそれが嘘じゃないと信じ、何処かで見ているかもしれないと思い向かったのだ。

 そして最後の場所として向かったのは、あの日初めて会ったガラス細工店の前であった。

 だが、そこにも彼と感じる様な人はいなかったのだった。


「はぁー、はぁー、ここにもいないか……」


 私は何となくいると思って探し続けていたが、そもそもが無謀な探し方だと薄々感じていた。

 が、それでも私が彼がいるんじゃないかと、どこかしらで信じて探し続けていたが、他に探し方も思い付かずここまでしていないのならもう彼を見つけられることは出来ないと諦めかけ、展示されていたガラス細工をじっと見つめた。


「貴方もガラス細工が好きなんですか?」


 その声に私は勢いよく振り返ると、そこにいたのは金髪で藍色の瞳で眼鏡をしているウルであった。


「……ウル」

「そんな泣きそうな顔をしないで下さいよ、イリスさん」


 私はゆっくりとウルへと近付き、視線を向けて軽く胸に向けて握り拳を押し付けた。


「報酬渡すっていったのに、受け取らずに逃げるな、馬鹿王子」

「っ……それが一言目とは驚きですよ」


 その後ウルが立ち話ではなく、近くのベンチに一度座らないかと提案して来たので私は頷きガラス細工店近くにあったベンチへと移動した。

 すると私よりも先にウルが話し出した。


「本当は、貴方に声を掛けるつもりはありませんでした。あの日で俺たちの関係に終止符をつけたので。でも、あんなに表情であちこちを駆け回る貴方を見て、俺は負けて声を掛けました」

「え、私が貴方を探していたと知っていたの?」


 ウルはその問いかけに小さく頷いた。


「えぇ、行くとこ行くとこに貴方がいるので困りましたよ。変装も変えていませんでしたし、大変でしたよ」

「そうだったんだ」

「それで、報酬として何を持って来てくれたのですか? イリスさん」


 そこで私は立ち上がりウルの前に立って、頭を下げて謝罪をした。


「私のわがままで、貴方を傷つけてしまって本当にごめんなさい!」


 まさかの出来事にウルは動揺したが、直ぐに私に頭を上げるように伝えて来て、私は頭を上げた。

 ウルに理由を訊ねれて、私は理由を伝えると「なるほど」とウルは呟いた。


「あれからずっとそれを考えて、謝ろうと思っていたの。貴方にそんなつもりはなかったかもしれないけども、私が傷つけたことには変わりないから謝りたかったの」

「はぁ~本当にイリスさんはお人好し過ぎる。国一の嫌われ王子の俺に謝る必要もないのに、律儀に謝るなんてお人好し過ぎだよ」

「そんなこと言ったら、貴方だって勝手に自分が悪いみたいに話を作って全然見ず知らずの私が欲しい結果だけ渡して、さっさと消えるなんて物凄いお人好しでしょ!」

「あれは気まぐれだよ。俺の噂知ってるだろ? 俺はそういう――」

「違う! 貴方はそれを演じてるだけよ。調べた限り貴方がそんな事件を起こしてないし、確かに似た事件はあったけども少し内容が違う。もしかしたら、私が見逃しただけかもしれないけど、貴方と話して感じた雰囲気からはそんな人でないと私は思うのよ」

「……隠ぺいされてるんだよ。相手は令嬢とかだし、今回みたいにうやむやになってるんだ。俺はお前が思う様な奴じゃない」

「じゃ、何であの時お母様に信じないといわれて少し悲しい顔をしたの? どうして、お金を要求しないで引き下がったの? 噂通りっていうなら、あの時の行動はおかしいわ!」

「っ、それは! ちょっと気が変わっただけで」

「嘘ね」

「嘘じゃねぇよ!」


 私の言葉にウルは感情的になりベンチから立ち上がった。


「なら、今ここで噂通りだと証明してよ、オウル・ヴォルクリス。私に酷いことをしてあざけ笑いなさいよ。噂の貴方ならそれくらい出来るでしょ?」

「!? 何言ってんだお前、自分が言ってること分かってるのか?」

「えぇ、もちろんよ。さぁ早く証明してよ、貴方が私が思っている人なのか、それとも噂通り国一の嫌われ王子なのかどうかを」


 するとウルは私を少し睨みつける様に見つめた後、右手で私の襟元を掴んで来た。

 そして自分の方へと引き寄せ、左手を上げ私を叩こうとする動作をし始める。

 私はただじっとウルの目を見続けた。

 ウルはそのまま左手を上げた所で暫く固まっていると、大きなため息と共に左手を下げた。

 そして私の襟元から手を離して、頭を抱える様にベンチへと座った。


「はぁ~何なんだよ、何なんだよお前は……俺の噂を検証して何がしたんだよ」

「……」

「?」


 問いかけても何も返事がなかった私に疑問を思ったのか、ウルが顔を上げて来たが、私はその時叩かれる怖さから一気に解放されちょっとした放心状態であった。


「おい、お~い、聞いてるのか?」

「……はっ! 怖かった~……」

「はぁ?」

「だ、だって、まさか本当に何かしてくるとは思ってなかったから」

「いや、お前びくともせずに俺のこと見つめてたろ?」

「いやあれは、もうどうしていいか分からずに目だけは逸らさない様にしないとって思ってただけ」


 ウルは私の返事に、ベンチの背もたれに持たれて上を向き片手で顔を覆った。


「何だよそれ……確信があったんじゃないのかよ?」

「あったよ。だから、本当に手を出すとは思わなくて……」


 そこで私は気が緩み倒れそうになると、ウルが咄嗟に手を掴んで来てくれた。


「あ、ありがとう……」

「全く、せっかく人が気を遣ってやったのに、どうしてどうしてそんなことしてくるかな、あんたは」


 そういったオウルの顔は、少し優しい表情をしていた。

 私はそのままベンチに座りウルに話し掛けた。


「ねぇ、さっきから思ってたけど、お前とかあんたとか言われ方好きじゃないんだけど。イリスさん呼びはどこいったの?」

「あ~あの呼び方はもういいかと思ってね。口調も少し下させてもらうよ。変に演じる必要はないしな」

「まさか、ウルは本当に偽った状態だったの!? あれは素に近いと思ってたのに」

「素があんな硬い訳ないだろ。まぁ、別に人格を偽ってた訳じゃないからイリスの考えは合ってるよ」

「呼び捨て……」

「何だよ今更。一度婚約した仲なんだから、いいだろ。あ、それと本名は二度と口にするなよ。誰かに聞かれたら面倒だからな」


 ウルの言葉に私は頷いて返事をした。


「ウル、それでなんだけど貴方が噂通りの悪い人じゃなって証明された訳だけど」

「あれで証明になるのかよ?」

「……確かに。あれだけじゃ、噂通りなのかどうか分からないね」

「おい! はぁ~イリスって思っていたより頭弱い?」

「っ! バ、バカにしないでよ! これでも学院では中の上だったんだから」

「(何とも言えねぇ~……まぁでも、俺について調べたっぽい発言もしてたし、変に俺の表情を見てたり気付いていたりしてるんだよな)」


 う~んマズイ、これだとウルが本当に優しい人かどうか分からないな。

 人に手を出すような人じゃないってのは分かったけど……あれ? 私どうして噂通りの人じゃないって証明しようとしてるんだ?


「イリス、どうして俺が噂通りの国一の嫌われ王子じゃないって証明しようとしてるんだ?」

「……どうしてだろ?」


 暫く沈黙が続いた後、ウルが急に笑い出した。


「何で笑うよ?」

「だってよ、あんなことしておいて分からないって何だよ。おかしいだろ。あははは!」

「いや、だってあれは話の流れで、その勢いっていうかなんていうか、ウルが悪い人に思えなかったから! 認めて欲しかったのかも……」


 その言葉後に、ウルは笑い終えると私の方を向いて来た。


「本っ当にイリスはお人好し過ぎ。そこまでしないよ普通」

「そうかもね。私はただウルに謝りたくて、どうしてあんなことまでしてくれたのかが知りたいという一心だったから、そんな風に変に進んだのかも」

「そっか。それじゃ、イリスが知りたがってた声を教えてやるよ。どうして俺がイリスの為にあんなことをしたのかを。それはな」

「それは?」

「嬉しかったからさ」

「……え?」


 思いもしない返事に、私は困惑しているとウルは「そういう反応になるよな」といいつつ小さく笑う。

 そしてウルは、そのまま自分の話を始めた。


 ――オウル・ヴォルクリスは、幼い時は王都に住んでおり、その頃は王家の家臣として随一としてヴォルクリス家は有名であった。

 だが、そんなある日王都で王家殺人未遂が発生し、何故かその現場にヴォルクリス家の家臣しか持っていないはずの王より与えられた剣が落ちていたのであった。

 もちろんヴォルクリス家は潔白を証明したが、現場に重要な証拠があり犯人の姿を見たと証言する人物も途中から、ヴォルクリス家の家臣の特徴を言い始め、周囲からヴォルクリス家の家臣が犯人とされてしまうのだった。

 しかしそれは、ヴォルクリス家を妬む他の王家の家臣たちによる共謀であったのだった。

 彼らからすればヴォルクリス家は目障りであり、次期王家の候補としても上がっていたことから、周囲がそれは認めないという嫉妬心からヴォルクリス家を陥れたのであった。

 その後、最終的に王家とその家臣たち代表者での裁判にて、ヴォルクリス家は有罪となり死刑とまで宣言されかけたが、それを王家が止め追放に強制的に変えたのだった。

 その時の王座についていた者は、犯人がヴォルクリス家ではないと思っていたが逆転出来る様な証拠も見つからずどうすることも出来なかったので、せめて生かしてやらねばということで周囲の反対を押し切り王都追放を言い渡したのであった。

 ヴォルクリス家はそれから王都を追放され、昔からの好がいたベンデルス領の奥地の屋敷に住み始めたのだった。


 数年後、その時の王家の当主が衰弱死したことで次期王家が選挙にて交代になった。

 その翌年から、終わったはずの王家殺人未遂事件を起こしたヴォルクリス家への悪い噂が広まり始めたのだった。

 根の歯もない噂はあっという間に広まり、ヴォルクリス家の肩身は狭くなり次第に身を隠すようになった。

 直ぐにその噂を流したのが、新しく王家になった元家臣の相手だと分かり密かに会いに行き真相を確かめた所、目障りだからという理由で社会的に抹殺を計ったと答えるのだった。

 本当は死刑として消したかったと告白もしたが、それが出来なくなった今変に動かれて目立たれると困るということで行ったことであった。

 その後ヴォルクリス家は、沸き上がる殺意を押し殺し、家へと帰るのだった。

 ここで感情に任せて行動したとしても、何の意味もないし子供たちに更に辛い道を歩かせることになると考え、笑われても馬鹿にされても帰って来たのだった。

 その後オウルも成長し、両親からその話を聞かされ復讐など考えずに過ごして来たのである。


「王家の奴らが憎い訳じゃない。こんな生活になったのはそいつらのせいだが、それ以上に奴らは何もしてこない。こっちが何か仕掛ければ、必ず相手も動くのは分かっているし、戦力などでいったら向こうが圧倒的に上だからな。だからこうして、何もしなければ静かに暮らせるし噂は噂でしかないし、気にしなければいいだけさ」


 オウルは何ともない様に語っていたが、その時握り締めていた手には力が入っていた。

 私は想像していた以上の話に何て声を掛けていいのか分からず、黙っているとオウルが話し掛けて来た。


「あんまり俺の話は気にするな。イリスには関係ないし、同情されるいわれもないしな。ただ俺は、イリスの言う通り噂の国一の嫌われ王子じゃないということを教えただけさ」

「……そう」

「俺が噂通り国一の嫌われ王子を演じたのは、イリスの婚約者としてが初めてなんだぞ。正面からああ言われるのは、結構きついんだと改めて知ったよ」


 そうか、そういうことだったからあの時悲しい顔をしたのか。

 私は勝手にそう解釈した。

 でも……でもどうして、嬉しいという理由だったのだろうか? 無視され続け、それに耐え自らを偽った中で、私が何も知らずに頼ったから?

 そう考えはしたが、そうなのかは結局分からなかった。

 というより、私が今のオウルにそれを訊くことが出来なかったのだ。

 暫く沈黙が続いた後、オウルが口を開いた。


「悪い……少し話が重くなったか? 初めて他人に話したからな、聞きたくなかったろこんな話。俺もイリスの勢いっていう奴にやられて、つい話してしまったってやつだ」


 オウルはうっすら笑いながらそう話した。


「つい勢いで話すこと?」

「勢いは勢いだ。イリスだって、勢いで俺に全てを明かしたじゃないか。お互い様だ」

「うっ……それを言われると」

「あははは! 何か話してみて、少し胸につかえていた何かがなくなって楽になった気がするよ。ありがとうイリス」

「まさか、話を聞いただけでお礼を言われる日が来るとは思ってもいなかった」

「確かに、そりゃそうだ。俺だって、そんなことない」


 その後声を出して笑うオウルに、私は話を戻すように切り出した。


「と、とりあえず報酬、報酬だよ! 色々とオウルのことは分かった、分かったということにして、私は話を進めるよ」

「分かったよ、報酬だったな」


 私は強引に話をオウルの過去から、報酬の話へと持って行った。

 あのままでは何となく話したいことが話せなくなると感じてしまったからであり、絶対ではない、ただの直感である。


「で、何を報酬としてくれるんだイリス?」

「それはもう決めているの。それは、貴方の信用よ!」

「……はぁ?」

「はぁ? じゃないわよ! 今回私のせいで、貴方は落とさなくていい信用を落とした。そしていらない傷も負い、いらない噂も増えてしまった。だから、今回私は今出回っている噂を変えるわ」


 私の言葉にオウルは驚きの表情をした後「どうするっていうんだよ?」と問いかけた来た。


「噂を上書きするような噂を流すのよ、私が婚約者がいると嘘をついていたこと、そして相手を探しているところを貴方に見つけられ騙された。これで少しは噂も変わるはず。本当は貴方ではなく私が悪い方にしたいけども、それはヴィオラが許してくれなかったから」

「(ヴィオラ? 使用人か? にしても報酬が、俺の新しい噂を変えると来たか。予想の斜め上過ぎだろ)」


 無茶なことを言っている自覚はあった。

 だが今回は私のせいでオウルに迷惑もかけたのは事実であり、それをお金や物で謝るのは違うと考えたのだ。

 そして出した結論が、今の新しい噂を少しでも変えることであった。

 それが上手く行けば、少しでもオウルの悪い印象はなくなるし、元凶である私もその痛みを受ける。

 普通に考えればそんなことまでしなくてもいい。

 だが私は自分勝手な行動で相手を巻き込み、その結果傷つけたことが許せないからけじめとして、同じ様な痛みを受けることにしたのだ。

 結局はこれも私のわがままであり、ハーノクス家の名を落とすことになるが私はそっちを選んだ。


「で、それは上手くいくのかイリス?」

「いく……と思う。いや、報酬なんだから成功させてみせる」

「それじゃ、それを見届けさせてもらうかな」

「任せて。一週間で変えてみせるわ」

「大きくでたなイリス」

「だから、一週間後またここで会う約束」


 私はそういってオウルに小指を突きだした。

 するとオウルも小指を出してくれ、約束をするのだった。

 そしてその場で私は別れて、急いで屋敷へと戻った。

 それからはヴィオラに手伝ってもらいながら、私がうそつき令嬢であることや間抜けな一面がある噂を付け足して流してもらった。

 私はあれからも屋敷から出来ることは出来なかったので、直接はヴィオラ頼みであったがヴィオラは街にその噂を流してくれた。

 その後、約束の一週間が過ぎた。

 私は再びヴィオラの協力の元、屋敷を抜け出し約束の場所へと向かうとそこには既にウルの変装をしたオウルが座っていた。


「早いね、ウル」

「約束の十分前にはいる男なんでね」

「何、自慢?」

「まぁ、そんなところかな」

「うわ~絶対そんなこという男性モテないから止めた方がいいよ」

「そもそも、そんな相手が出来ないよ」


 その後、そんな話をしつつ私はベンチに座り、本題に入った。


「で、どうよ。私の一週間の成果は」

「凄いが、誇らしくいうことじゃないぞ」


 そう、私が思い描いていたように噂は上書きされたのだった。

 オウルの悪い噂は残りつつも、そこに私がうそつき令嬢であり間抜けであると噂され出したのだった。

 そのせいで家では大変なことになっているが、それに関しては嘘ではないので私からは何とも言えない状況である。


「とりあえず、これが報酬ってことで。私もやれば出来るってことよ」

「いや、どうせいイリスだけじゃなくて、誰かに手伝ってもらったんだろ? 得意の嘘が顔に出てるぞ」

「ぐっ……た、確かにヴィオラに手伝ってもらったわよ……手伝ってもらったっていうかほとんどだけど」


 私は最後の方はボソッと呟き、オウルには聞こえていなかった。


「でもこれで、確かにいわれていた報酬は受け取ったよイリス。それじゃ、今日でこの関係も終わりだな」

「え、何で? たまにでもこうやって話そうよ」

「いや、イリス婚約関係でもない男女が二人っきりでいるのは変に思われるだろ。それに、今はこう変装しているが、正体がバレないなんて確証はないんだ。だから、こういうのは――」

「だったら変装変えればいいじゃん。私も変えるから、ウルも変えてよ。どうせ魔法とかで瞳の色変えたりしてるんでしょ」


 オウルは話を聞かない私に呆れたようにため息をついた後、もう一度この関係がよくないことを話し始めた。

 だが私は、少しでもいいのでオウルともう少し話してみたいと押し切るのだった。

 その理由は、私がオウルに興味を持ってしまったからである。

 魔法の技術もそうだが、雑学や私の知らない知識までしっていたり、装飾品作りなどにも興味があり、その辺の話を訊いてみたくなったのである。

 その後、オウルが諦め妥協として月に二回会って話をするにことに至った。

 場所はここ、毎回変装を変えて合言葉を作り誰にもバレないようにするのが条件となった。

 それからというもの、私はオウルとの話をする日が楽しみになり、落ちた家の名を上げるために魔法研究の成果などを機関に提出したり、家の執務を手伝ったりし続けた。

 オウルは初めは警戒しつつも話に付き合ってくれたり、質問に答えてくれていたが、半年が過ぎると警戒もほとんどなくなり、楽し気に私と話してくれるようにまでなったのだった。


「そろそろ時間か。楽しい時間っていうのは早く終わるもんだな」

「あれれ? 最初あんなに嫌々な感じだったのに、凄く変わったね~ウル」

「う、うっせ。いいだろ別に!」

「そうだね。楽しくなってくれて嬉しいよ。それじゃ、また二週間後に」

「あ、イリス」

「?」

「……いや、やっぱ何でもない。またな」


 よく分からない呼び止めだったが、私は何も気にすることなくその場から離れて行った。

 するとオウルはベンチに再び座り内ポケットから動物のガラス細工を取り出した。


「(つい勢いで作っちまったから、イリスに渡そうとしたが……出来なかった。はぁ~何してんだ俺は)」


 オウルは取り出した動物のガラス細工を再び内ポケットにしまうと、立ち上がり帰路につくのだった。

 そんな様子を、建物の陰から怪しく見つめている人物がいるのだった。


「はい……はい……間違いありません。オウル・ヴォルクリスです。あいつは、ここ半年ある人物と密会をし続けています」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ある日だった、私の屋敷に一通の手紙が届いた。

 その中身に、お母様たちは驚いていた。

 それはなんと、王都に住む貴族からの一方的な婚約の話であった。

 相手は王都に住む貴族で名をカーボン・ハルセルラという人であり、年齢は私より四つ上の二十四歳である。

 ハルセルラ家は王都内では階級的には一番しただが、王都に住んでいる時点で他のどの地域にいる貴族よりは格上の存在である。

 王都に住めるのは貴族だけであり、その下にある城下町には平民も住めるが王家が認めた者だけであり、王都とは認められた者だけが住める場所なのだ。

 そんな王都に住む貴族から、婚約しようという手紙が来たのだから驚くのも無理もない。

 私も驚いたが、顔も知らないどんな人かもしらない人の婚約を受けるのは抵抗感があった。

 そもそも、婚約するつもりもなかったが、こんな話は二度とないということでお母様が勝手に返事をしてしまうのだった。

 一応街での噂もなくなりつつあったが、私がうそつき令嬢であるということは相手の人へも何かしらの形で伝わっているはずだと考えていた。


 街での噂というのは、その街だけで終わらず以外にも王都にも届くのだそうだ。

 これはオウルから教えてもらったことであり、必ずどの街にも王都の目があるらしくそういう噂は逐一王都に流れているらしい。

 オウル自身も監視されているらしいが、魔力で毎回認識を換え変装もしているから問題はないと言ってはいたが、それも確実ではないとも口にしていた。

 今回の相手、オウルに訊けばどんな人かくらいは分かると思ったが、次に会うのは一週間後なので訊くことは出来ないと思いそれは諦めた。

 次の日、お母様が勝手にだした手紙の返事が来て、そこには明日にはうちの屋敷に来て正式に婚約手続きをすると書かれていたのだった。

 これにはさすがに私だけでなく、お母様たちも驚いていた。


「お母様、さすがに何かこれ変じゃない? こんな話したこともない相手から急に話が来たと思ったら、明日には婚約ってどうの?」

「た、確かに私も少し違和感を感じるわ。でも、王都の貴族なのだから、王都ではそれが普通なのかもしれないわ」

「だが、明日会った相手とイリスが婚約するのは、抵抗があるな。少しは相手がどういう人かは見たいところだ」


 その日家族会議を知った結果、ひとまずは明日は話をして婚約するかどうかは、その時に改めて話し合って決めることになった。

 そして次の日、豪勢な馬車でカーボン・ハルセルラがうちの屋敷にやって来た。

 格好はまさしくザ・貴族という感じであり、少し態度が鼻につく感じであった。

 だが王都の貴族だったので、失礼のないように話を進めようとしたが相手は一方的に婚約の準備をし始めた。


「ちょ、ちょっと待っていただきたい」

「はて? 何か意見でもあるのかな? この俺がこんなド田舎令嬢を迎えてやるといっているんだ。それに文句をつけようというんじゃないんだろうな」

「ド、ド田舎令嬢?」

「そうだろ。こんな汚らしい屋敷に住んで、貴族を語ってるのはド田舎貴族だろ? お前らもその認識があるんじゃないのか? 王都ではそう呼んでいるが」


 カーボンの言葉に私たちは言葉を失った。


「そもそも、俺はハズレくじを引いたに過ぎないんだ。別に婚約なんてしたくないが、王家からの命令じゃ従うしかないだろうが」


 婚約したくない!? というか、王家からの命令ってどういうこと!?

 すると遂にはお母様が黙っていられず机を叩き、カーボンに言い返そうとしたが直ぐにカーボンの使用人が刃物を突き付けた。


「あー言い忘れたけど、俺に暴言とか吐いたり逆らったら殺すから。王家には邪魔する奴は、消していいっていわれてるからさ」


 そんなことを平然と話しながら婚約の書類にサインし始め、私の方へと向けて来る。


「ほら、君が書く番だ。さっさと書いてくれ」

「……」

「いや~でも君が可愛い子で良かったよ。これで目も当てらない相手だったらどうしようかと思ったけど、最高だね。婚約成立したら、直ぐにでも遊びたいね~」


 私は背筋が凍りついた。

 ガーボンの発言があまりにも受け入れられずに、私は少しカーボンを睨んだ。


「え? 何その反抗的な目? 言ったよね、逆らうなら殺すって」


 するとお母様の近くにいたカーボンの使用人が、再びお母様に刃物を突き付けた。


「お母様!?」

「おっと、動くならさっさとサインしてよ。それでお母様は助かるんだから」

「あんたっ!」

「これは王家の命令なの。分かる? 絶対守らないといけない命令なの。機関に魔法研究の資料提出する君なら、分かるでしょ王家がどんな存在か」

「うっ……」


 私がサインをためらっていると、更にカーボンの使用人はお父様にも刃物を突き付けはじめ次第にその刃が押し込まれ始める。


「早くしないと、ご両親から血が飛び出るよ」

「最っっ低!」

「王家に抹殺されずに、君たちから罵倒浴びるだけなら喜んで受けるね。こっちも命が掛かってるんだからさぁ。ほら、さっさとサインしろよ。立場は俺の方が上だぞ」


 私はカーボンを睨みつけながら、転がされているペンを手に取りサインをしようと思ったが、お母様が止めて来た。


「やめなさいイリス! そんなものにサインする必要はありません! こんな相手に貴方を渡すくらいなら、あの嫌われ者に渡した方がましです!」

「お母様……」

「何だと! このクソババアがっ!」


 その瞬間、カーボンの怒りと共に使用人がお母様の首に突きつけたナイフを勢いよく動かそうとしたので、私は大声でそれを止めた。

 そして婚約書にサインした物をカーボンに見せつけた。


「これでいいんでしょ」

「お~そうだよ。早くそうしてくれれば、よかったんだよ」


 するとカーボンは婚約書を私から奪い取る様にして、懐にしまった。


「早くお母様たちから、離させて」

「あーそうだったな。これは失礼した」


 そこでカーボンの使用人たちはお母様たちから離れた。

 私はすぐにお母様たちの無事を確認した。


「お母様、お父様」

「イリス」

「貴方って子は……」


 直後、カーボンが手を叩いた。


「では我が婚約者よ、これより我が屋敷に行こうか。直ぐに結婚式をあげる。それも王家からの命令だからね。抵抗は無駄だよ」

「婚約して直ぐに結婚なんて話聞いたことないわよ!」

「そうかい? でも決まりだから、従わってくれないなら強制連行だ」


 カーボンが指を鳴らすと使用人たちが、私をお母様たちから引きはがすと、魔法を目の前で掛けて来た。

 私はそのままゆっくりと意識が遠のいていき、完全に意識がなくなってしまう。

 そのまま使用人たちはお母様たちを縛り、更にはうちの使用人たちを跳ね除けて意識を失った私を連れ去って行く。

 だが、その前にヴィオラが立ち塞がる。


「イリスお嬢様を連れて行かせはしません!」


 そのままカーボンの使用人たちとの肉弾戦が始まり、ヴィオラは二人を圧倒して私へと手を伸ばすが他の使用人に阻まれてしまい、そのまま複数人で倒されてしまうのだった。

 そして私は意識を失ったまま馬車へと乗せられて、カーボンの屋敷へと連れて行かれたのだった。

 その後馬車は街の大通りを駆け抜けて行くと、偶然ウルに変装していたオウルが大通りを歩いていた。


「(たっく、まさか買い忘れがあったとはな。確認不足だった)」


 直後だった、オウルの横をカーボンの馬車が駆け抜けて行く。

 その瞬間、オウルはその馬車が直ぐに王都の馬車だと気付き目を追っていた。


「(どうしてこんな所に王都の馬車がいる?)」


 オウルは王都の馬車が走って来た方に視線を向けると、その先にあったのはハーノクスの屋敷だと気付き、まさかと思い急いで屋敷へと走り出すのだった。

 屋敷に辿り着いた時の光景で、想定していた最悪な事態かもしれないと察し始める。

 門は閉められておらず、入口は開いたままでありオウルは周囲に警戒しながら中の様子を確かめる為に、屋敷に踏み込もうとした時だった。

 そこから鋭い突きが繰り出され、咄嗟にオウルはかわし距離をとった。

 すると屋敷から出て来たのは、酷い怪我をした一人の使用人だった。

 使用人はそのまま倒れてしまい、オウルは直ぐに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「……うぅっ……貴方は」

「俺は……偶然通り掛かった者です」

「……その声、聞き覚えがあります。貴方はもしや、イリスお嬢様の話し相手のウル様では?」

「っ!?」

「私は、ヴィオラといいます」


 その言葉でオウルは覚悟を決め、自分の名をウルと明かすとヴィオラは何があったかを簡単に説明するのだった。


「……何で俺にそこまで話してくれる?」

「イリスお嬢様の友人ですので……私はただ国一の嫌われ王子などではなく、良き友人であるウル様にイリスお嬢様を助けて欲しいのですよ。貴方の力ならば、助けることも出来るのではないかと思っただけです」

「……買い被り過ぎです」

「それだと、困りました。今の私ではイリスお嬢様をお助け出来ません。それに我が屋敷が王家の貴族に歯向かうなど、出来る訳ありません。誰か対等な立場で、強い力を持つ人に助けを求めるしか」

「貴方、分かっていて言っていますよね、それ」

「失礼なお願いだとは承知していますが、もう今は貴方しか頼めないのです。お願いします、どうかイリスお嬢様を助けて下さいませ!」


 ヴィオラは自分が虫のいい話をしているのは分かっている上で、このままイリスお嬢様を見捨てることは出来ない為、偶然にも居合わせたウルに頼み込むのだった。

 既にイリスからウルの正体は聞いており、それでもその関係性に目を瞑っていたのはイリスからのお願いだからであった。

 何度かこっそりと関係性を見守ったこともあったが、危険がないと判断し見て見ぬ振りをし続けて来たのだった。


「どうか、あの貴族からイリスお嬢様を取り戻してください」


 するとオウルは立ち上がり、変装を止め黒髪で翡翠色の瞳を露わにした。


「……俺は国一の嫌われ王子だ。王子でもなんでもないが、俺はそういう存在だ。でも、そんな俺にも唯一の婚約者がいたことがある。俺から一方的に振ったが、今ここでその気が変わった。そいつを今から奪いに行くことにした! なんせ俺は、国一の嫌われ王子だからな!」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私が目を覚ますと、そこは豪華な部屋であった。

 そして私が目を覚ますと同時に現れたのは、真っ白い服を着たカーボンであった。


「お~目が覚めたか? その服どうだ? 気に入ったろ?」


 そういわれ私は目線を下ろすと、服装がウエディングドレスになっていたのだった。

 何よこれ!? いつの間に着替えさせたの?


「安心しろ、女の使用人に着替えされたからお前の裸は見てはいない。まぁ、結婚すれば嫌でも見せてもらうがな」

「ぐっ! 誰があんたと何か結婚するか!」

「おいおい、もう婚約書にはサインしたんだ、ほぼ結婚は決まったもんだ。それに先駆けて式を挙げるだけだ」

「ふざけるな!」


 私は動こうとしたが、足首が鎖でつながれており途中で倒れてしまった。

 鎖? あり得ない、女子に鎖するとかどんな趣味してるのよあいつ!

 カーボンを睨みつけるが、カーボンは不敵な笑みを浮かべながら見下して来た。


「どんなにあがこうが、もうお前の人生は俺の物なんだよ! この婚約書がある限り永遠にな! あははははは!」


 と、カーボンが高笑いとした直後だった。

 何処かしらから大きな爆発音が聞こえて来た。


「な、何事だ!」


 そこへ走って使用人がやって来て耳打ちする。


「何!? 侵入者!? おいおい、ここは王都ないだぞ? 誰が貴族家に侵入して来たっていうんだよ!」

「それが――」


 直後二度目の大きな爆発音が先程より近くで起こり、私のいた部屋にもその爆風が入って来た。

 すると扉の奥から使用人が吹き飛んで来た。

 まさかの出来事に私もカーボンも目を見開いていると、奥から誰かがこちらの部屋にやって来る足音が聞こえ始めた。


「お、おおい! お前! 何してるんだよ、さっさと行って対処して来い! 使用人だろが!」

「は、はい!」


 そう勢いよく返事をして一人の使用人は足音がする方へと向かって行くが、何かが凍りつく音が響き渡って来た。

 そして遂にその足音がこの部屋に辿り着き、正体を現した。

 その人物は黒い衣服を身に纏い、顔に黒い仮面をしていた。


「お前か。カーボンとかいう底辺貴族は」

「きき、貴様何者だ! 王都でこんなことするなんて生きて帰れると思ってるのか! 俺は貴族だぞ!」


 すると仮面をしていた人物が仮面をとり、私はその人物を見て泣きそうになってしまう。


「オウル……」

「お前こそ俺を知っているんだろうな、国一の嫌われ王子と呼ばれている俺を」

「な!? ななな、何で貴様がここにいるんだ!」

「それはなっ!」


 その直後一気に踏み込んでカーボンの襟元を掴み壁へと押し付けた。


「ひぃー!」

「気まぐれで、元婚約者を奪いに来たんだ。だから、お前が持ってる婚約書出せ」

「わ、分かった、分かったから離してくれ」

「……」


 するとオウルは素直にカーボンから手を離すと、カーボンはすぐさまオウル目掛けて魔法を放つと爆発が起こった。


「バーカ! バーカ! そんな素直にする訳ないだろうが! こんな直撃で受けて無事で済む……わけ……」


 目の前の煙が晴れるとそこには無傷のオウルが立っていた。


「ほぉ~じゃ、さっさとけりつけるか!」

「いやぁー!」


 直後、カーボンの顔面にオウルの拳が叩き込まれ、カーボンがそのまま壁に激突し気を失うのだった。

 オウルはそんなカーボンから婚約書を奪い取ると目の前でビリビリに切り裂き、最後に完全に燃やして存在を消すのだった。

 そして私の方へと歩いて来て、足首の鎖を魔法で破壊してくれる。


「あ、ありがとうオウル」


 私がそのまま立ち上がろうとしたが、オウルは突然私のことを抱き上げて来た。


「ちょちょっと! 何をするの?」

「聞いてなかったのか? 俺はお前をカーなんとか貴族から、奪いに来たんだよ」

「いやカーボンね。聞いてたけど!!?」


 するとオウルは突然、近くの窓を突き破り外へと飛び出したのだった。

 そのまま私を抱えたまま屋根伝いを走り出し、王都から城下町へと移動し始めた。


「オウル!? な、何でこんな」

「いいから黙ってろ! 下噛むぞ。イリスは黙って俺に捕まっていればいいんだ。帰るぞ」


 そう言われ私はオウルに従いつつも、ギュッとオウルに抱き着きながら小さく震えながら呟いた。


「怖かった……怖かったよ、オウル……」

「……あぁ、もう大丈夫だ。安心しろイリス」

「うん……」


 私は顔を隠しながら涙を流し、オウルはそのまま黙ったまま移動し続けた。

 そして城下町を抜けると、そこには一台の馬車が止まっておりオウルはそれに乗り込んだ。

 私はお姫様抱っこされたまま馬車へと乗ったが、そこで正面に座った。

 そのまま黙ったまま私とオウルは馬車に揺られた。

 途中で私は眠ってしまったが、気付いたら私の屋敷の前に到着したいたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから数週間後。

 私は何事もない様に暮らしている。

 あの日カーボン家に強引に婚約させられ結婚までしようとしてきた事件は、カーボン家の暴走ということが王都から発表された。

 私たちが何かを言ったわけでなく、王都で起きた事件の一件でそれが明るみになり発表されたのだった。

 だが、私の家は公表されなかったので、そのまま黙ったまま私たちは今まで通り日常を過ごしている。

 あの日突然王都の貴族がやって来たのは王家の命令だとオウルに伝えると、オウルはたぶん自分のせいであると伝えた。

 王家はオウルとの関係者が昔の歴史の秘密を知って、それを伝え広めようとしているんじゃないかと思い、接触していた私を強引に王都内に閉じ込めようとしたんじゃないかとオウルは推測した。


 結果的には分からずじまいだが、こうなってしまった以上にまた似たようなことが起こりかねないとオウルは告げ、私たちとの接触をしない様にすると告げた。

 が、それを止めたのはまさかのお母様であった。

 これからそのような危険があるなら「巻き込んだ貴方が私たち弱小の貴族を守ってください」と伝え、それにお父様も「出来ればお願いするよ」と賛同するのだった。

 それを見て、私からも「秘密裏でいいから」と付け加えて頼み込みオウルは自分が原因で起きたことだと思っていたので、引き受けることにしたのだった。

 そして私たちの日常は一つだけ依然と変わった。

 それは、屋敷にこの国で一番嫌われている王子をたまに、招く様になったことである。


「いらっしゃい、オウル」

「あ、あぁ」

「何、緊張してるの?」

「そりゃなぁ、もう何度目かだが未だに慣れないんだよ」

「そんなに緊張されなくとも、いいのですよオウル様」


 そしてヴィオラの案内の元、私とオウルは応接室へと入り、ヴィオラは退室する。

 お母様とお父様は、オウルの事情は聞かずオウルも話さないという状況であるり、基本的にオウルとは会わない。

 それは、未だに完全にオウルのことを信じ切れていないからだと言っていた。

 が、助けてくれた恩はあるので口は出さずにいる状態であった。


「ねぇオウル、聞きたいことがあるのだけどいい?」

「何だよ急に」

「前にさ、自分が傷ついてまで私の為にしてくれた時に、どうしてそんなことまでしてくれたのって訊いた時さ、嬉しかったからって答えたの覚えてる?」

「……」

「覚えてる?」

「覚えてるよ。それが何だよ」


 どこか少し恥ずかしそうに言い返して来たオウルに、私は話し続けた。


「どうして嬉しかったからって答えたの?」

「……答えないと」

「ダメ!」

「はぁ~……分かったよ。それはな、その……」

「その?」

「人に必要とされたことが嬉しかったんだよ! 何度も訊いても、俺でいいって答えてくれてそう思ったんだよ! 変だろ! ほら笑えよ、あ~恥ずかしっ……」


 顔を少し赤くしてそっぽを向くオウルに対して私は笑わずに答えた。


「変じゃないと思うよ。誰だって人に頼られたら、嬉しいじゃん」

「……」

「まぁ、国一の嫌われ王子って言われ続けてたら、そんな風にもなるよ」

「イリス! やっぱり変だと思ってたんじゃねぇか! 一瞬でもやっぱり、お人好しだなって思った俺がバカだったよ!」

「ちょっと! それどういう意味さ! お人好しが悪い意味になってない?」

「そんなことないですよーうそつき令嬢様ー」

「はい、私に言ってはいけない単語を言ったわね! この国一の嫌われ王子が!」

「残念、それは慣れっこです」

「くぅー! なら、真っ黒王子! 変に緊張し過ぎ王子! 男らしくないぞ王子!」

「適当過ぎだろ! てか、王子じゃねぇって前にいったろが!」


 そんな、私たちがたわいもない会話をする部屋の端には、動物のガラス細工がいくつか飾られているのだった。

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