まずはここから
鈴木 一真
23才
男性
アルバイト
一真はもう二日間、何も食べていない
水だけで過ごしていた
シーチキンの缶詰めが二個だけ残っていたが、それが最後の食料だから、手をつけたくない
明日には口座にお金が入る
もう数時間の我慢だ
二日間、なるべく体力を消耗しないよう、動かないようにしていた
水だけで、けっこう生きられるもんだな
日焼けで薄茶けた天井を見ながら、そんなことを思っていた
三流大学を卒業して、フリーターとして生活している現在
親からの仕送りは無くなり、貯金もない
かつかつの生活を送っていた
ゲームにかけるお金を減らせば、もう少しましなのかもしれないが、一真は逆に食費を削ってゲーム代にまわしていた
他にやりたいことなんてない
何も考えずに、ゲームに没頭していたい
依存症なのは、もうわかっている
夜型生活が続いて、太陽の光をしばらく浴びていない
ゲーム関連のショップで、大学生の時からバイトをしている
ゲームの腕はなかなかだと思う
ゲームの大会で、優勝したこともある
だけど、それだけで食べていけるほどではない
そんな甘くはない
世界レベルの中では、趣味でやる腕前だ
友達もいるし、勉強も人並みにできたが、子どもの頃から、ひとり遊びが好きだった
昔から覇気はなかった
体調はいつもどこか調子が悪く、体力もなかった
誰かに迷惑をかけることもなく、真面目に生きてきた
電車では、お年寄りに席を譲った
親の言うとおり、特に行きたくもなかった大学も卒業した
何もしたくない
遊ぶことなら、やってみたいことはたくさんある
世界遺産を見に行ったり、ルアーフィッシングをしてみたい、とかお金があるならずっと遊んでいられる
働きたくない
時間を拘束されたくない
自由を奪われたくない
無理したくない
イヤなことはしたくない
ダメな大人だと思う
責任のある大人になんかなりたくなかったけど、勝手に年月が過ぎた
好きなことを仕事にできたらいいけど、現実的に考えて無理だ
あきらめて、嫌々やりたくもないことをして生活費を稼ぐくらいなら、何とか生きていけるくらいの収入で遊んでいたかった
でも、このままではやっていけない
病気になったりして、収入が減ったりしたらすぐゲームオーバーだ
実家に戻って、人生リセットだ
どうにかしなければ…
好きなことを仕事に、か
まず好きなこと、やりたいことをリストアップしてみよう
一真は、空腹を紛らわすように目を閉じて、集中した