10 ティアミス観光
溢魔から三日が経った。
戦勝祝いとして祭りが行われており、街には活気が戻っている。一方で軍人や冒険者達は、大量の魔物の死体の処理に追われて奔走しているようだ。
後始末をさせているような気になるが、戦えば必然的にうまれる作業であり、大半は既に焼却してあるので、残りくらいは頑張ってもらおう。
私はというと、大森林を歩かされた精神的苦痛を癒やすためにも、ゆっくりと休息を取りたいと元より考えていた為、二日間じっくりと怠惰な生活を謳歌させてもらった。
そして、三日目の今日は、イリーナが護衛として復帰できるとのことなので、観光に出ていのだが……
「わかっていたけど、観光地として面白みのある街ではないわね」
「外壁や並び立つ尖塔なんかは壮観なんですけどね〜」
異世界情緒溢れる石造りの街並みは美しく、何段階にも別れた籠城のための区画の敷居なども、興味深く面白いのだが、歩き回って一日を過ごせる程のものではない。
戦勝の祭りに湧く街で、露店で買った物を歩きながら食べるというのも乙なものであったが、その感動も長くは続かなかった。
退屈さを感じてきたところで辿り着いたのは
「ええと、こちらが冒険者協会ティアミス支部ですね。現在は魔物の死体処理が、侯爵閣下からの緊急依頼として出されているはずです」
すっかりガイドが板についたイリーナに連れられやってきたのは、異世界の定番たる冒険者協会であった。
とはいっても、冒険者の役割や組織体制を知らないので、想像していたものと同じような組織かはわからないのだが。
「冒険者が何をしているのかって、よく知らないのよね」
「軍に入ってしまうと関わりが薄いので、私もあまり……」
冒険者というと魔物を狩るイメージばかりがあるのだが、ティアミスにおいては、それを専門としている軍がいるので、あまり需要がなさそうに思える。
「入って聞いてみますか〜?」
「そうね、丁度良いわ」
冒険者というのも、パワーバランスの一角を担う存在であると聞いているので、協会と顔を繋いでおくのも良いだろう。
そういえば、協会の建物に入ると絡まれるというのが、お約束ではなかっただろうか。
などと、少し期待していたのだが――
「が、ガディアス子爵家のご令嬢様ですか!?」
最初に建物に入ったイリーナの身分が高すぎて、そういった問題は起きないようだ。というかイリーナは子爵令嬢だったのか。
「私はただの護衛だ。こちらはオルディア王国の大切なお客人であるリアリス様と、マリー教団のエキナ枢機卿猊下である。失礼の無いようにご案内せよ」
中に入ってみると、正面に受付カウンター三つあり、右手には大きな掲示板。恐らくここに依頼が貼り付けられ、各自がそれを受付に持ち込むことで受注できるのだろう。左手には簡素な待合室のようなスペースがあり、その先は隣の建物とつながっているようだ。
そして、カウンターには受付嬢がいるのだが、イリーナが入った時点で震えていたのが、私達の紹介を聞いて完全に固まってしまった。
「身分でこうなるものなの?」
「一般的な平民は、貴族や聖職者の違いなんて知りませんから、等しく平伏するだけかもですけどねぇ?受付嬢やっているなら、それなりに教養があるでしょうから、こうなっちゃうんでしょうね〜」
そういうものか。まともに対応して貰えるのであれば、言葉遣いや礼儀に文句をつけるつもりはないのだが……
「しょ、少々お待ち下さい!」
再起動した受付嬢は、そう言うなり奥に引っ込んでしまった。
取り残されたので辺りを見回してみるが、絡まれるのもなにも、そもそも全く人がいないではないか。掲示板に貼られている依頼も一軒のみなので、みな例の緊急依頼に駆り出されているのだろう。
「こうも過剰に反応されるのも考えものね」
「普段は司祭とでも名乗っておけばいいんじゃないですか〜?」
確かにそれは都合が良いのだが……
教団関係者は平民には好意的に捉えられ、貴族も無碍にできない存在である。なにより、司祭などの位階を持つ教団員を騙る者がほとんどいない為、信用を得やすいのだ。
「おいおい、枢機卿サマが偽装を推奨してるってのはどういうことだよ」
随分と不遜な態度で現れたのは、侯爵程ではないが鍛え上げられた肉体を持つ、粗暴な男だった。
「待たせたな、支部長のマノスだ。ガディアスんとこの嬢ちゃんまで揃って一体何の用だ」
支部長が出てくるとは話が早い。しかし、イリーナを嬢ちゃん呼びとは、かなり身分が高いのだろうか。
「観光よ」
「観光だぁ!?ガハハッ!そいつはいい。観光案内に呼ばれたのは初めてだぜ」
別に呼んだ覚えはないのだが。というか来ただけで支部長が呼び出されるとは誰も思わないだろう。
「いいぜ、なんだって説明してやるよ。ただ、アンタには俺からも聞きてえ事があるんだが、いいか?」
「構わないわ」
「そうか、なら協会について説明していくぜ。簡単に言えば――」
中途半端に切ってしまったので、次話をはやめに投稿します
本当です