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皇国の無能力者   作者: ネコミコズッキーニ
四章 復讐の無能力者
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西大陸の理玖 宿願への一歩

 港に到着し、俺は初めて西大陸の地に足を着けた。この一歩にどれだけの時を費やしただろうか。


 感慨にふけっている中、ここまで一緒だった皇国軍の面々は別の船に移り、皇国へと帰って行く。あいつらも大変だな……。


「リク。今日はここで一泊して、明日の早朝に帝都へ向かうわ。私はここから馬車になる。リクの分の馬を手配しておくから、帝都まではマルクと行動を共にしてくれるかしら?」

「ああ。わかった」


 ここから帝都ガリアスタッドまでは、馬であれば一日もかからない距離らしい。長い船旅だったため、今日は街でしっかりと身体を休める。


 ヴィオルガは領主の館に泊まったが、俺はマルクと共に高級宿に泊まった。ここは遠征に出る貴族や富豪しか泊まらない宿らしい。そこの一番良い個室の部屋をあてがわれた。


 これはヴィオルガの気遣いかな。どれだけ良い部屋を与えられても、俺は寝る時に寝転ぶ事はないのだが。次の日、領主の館から出て来たヴィオルガと合流する。


「給仕たちは一旦ここで別れるわ。帝都へ向かうのは私と一部の者達だけよ」


 その人数は俺を含めて全部で十名。王女の帰還にしては随分寂しい人数だった。表情に思っている事が出ていたのか、何でもない様にヴィオルガが答える。


「それだけ行きと比べて、聖騎士も魔術師も多く人数を減らしたのよ。本来ならばここでもう少し、人手が揃うまで待つところだけれど。あなたがいるのだもの、不要でしょう?」

「そうだな。俺としても早く帝都に行きたい。……そうだ、ヴィオルガ。普段身に付けている物で、腕くらいの大きさの物はないか?」

「そうね……。セプターは今、帝都に置いてきているし……。どうしたの?」

「ああ。転位できる様に準備をしておこうかと思ってな」

「……!」




ヴィオルガにも、俺が定期的に皇国と帝国の行き来をする事は伝えてある。だがそのためには準備が必要だし、帝国側に俺を呼ぶのは、あくまでヴィオルガの意思によるものにすると、あらかじめ決めてある。


「あら? でもマヨはそんな物、持っていたかしら……?」

「万葉の場合は事情が特殊でな。そういった類のまじないは、その身に直接施してあるんだ」

「その事情っていうのは、アレの事ね。……分かったわ。帝都に戻ったら、何か身に付けやすい布を選んでおきます。外出時には丸めておけば、懐に入れておきやすいでしょうし」

「分かった。なるべく早めに頼む」


 今万葉に呼び出されたら、俺は帝国に渡るまでまた途轍もない時間を要する事になるからな。





 帝都ガリアスタッド。そこは皇都琴桜京とはまた違う華やかさがある街だった。まず全体的に建物が高い。また皇国は木造建築が多いのに対し、帝都は石造りの建物も目についた。


 最も大きな違いを述べるとすれば、王族の住む「城」だろう。皇国では城というと、幻獣領域の近い場所に築かれる要所だ。だが帝国では帝都の北に城があり、そこに王族が住んでいる。その建物もかなりの高さを誇るものだった。


「すごいな……」


 俺の感想を聞いたマルクトアが、遠慮がちに口を開く。


「皇国では高い建物は少なかったですものね。僕は逆に、皇族の方が住まわれている御所の土地の広さに驚きましたが」


 御所は広大な面積があるからな。案内がなければ迷いやすいだろう。


 しかしマルクトア、ずっと俺に緊張しているな。……そういやこいつも大型幻獣との戦いにいたし、その後ヴィオルガが俺に跪いていろいろ話している場にもいた。かしこまってしまうのは仕方ないな。それにしても。


「周りからめっちゃ見られているな……」

「帝都で皇国人は珍しいですからね」


 これは仕方ないな。皇国でも港町とかでなければ、帝国人は珍しい。皇都で金髪碧眼の人間が歩いていたら、やはり大衆の視線が集中するだろう。


「ま、そのうち慣れるか。マルクトア。これからの予定はどんな感じなんだ?」

「は、はい。この後、このまま姫様と共に城へと入ります」

「おお! あの建物に入れるのか! それは楽しみだな!」

「レイハルトの件は既に伝わっておりますので、おそらく姫様と皇帝陛下は一度、別室でお話しされるかと」

「俺達は別なのか?」

「はい。本来ならば従者一同、姫様と一緒に陛下と謁見するのですが……」


 その様子を想像し、俺はそうならなくて良かったと思った。皇帝を前にすればヴィオルガを含め、皆頭を下げるだろう。だが生憎、俺には下げる頭は存在しない。いつもの変な意地だ。そうなると話がややこしくなるのは目に見えているからな。


「おそらく姫様と陛下がお話しされている間、我々は別室で待機になるのではないでしょうか」

「我々って……俺達二人だけか?」

「はい。魔術師たちはまだ容疑がかかっています。確実に白なのは僕とリク様だけですので」

「なるほど……」


 マルクトアの言う通り、城に入ると魔術師たちは別室へと移動した。ヴィオルガとも別れ、俺とマルクトアは別室に通される。


 城の中は思っていたより清潔だった。石造りの武骨な建物だ、中はもっとごつごつしていると思っていたんだが。


「すごいな。城の中は石と木を組み合わせて部屋を作っているのか」

「はい。そういえば皇国ではほとんどの建物が木造でしたね」

「ああ。石造りも無い訳ではないが、帝国ほど建築技術は進んでいないだろう」

「元々西大陸は森よりも岩場が多いですから。良質な石材の取れる地も多いのです」

「へぇ……。言われてみれば、東大陸は森が多いな」

「おそらく木造建築の技術は、皇国の方が上かと思いますよ」


 そういえばじいちゃんの著書「西大陸見聞録」でもそんな記述があった様な気がする。そうか、これはかつてじいちゃんが見た光景でもあるんだな。


 もしかしたらじいちゃん世代の帝国人であれば、当時のじいちゃんを知っている人物もいるかもしれない。マルクトアは他にも帝国の文化についていろいろ教えてくれた。


「へぇ! そんな祭りまであるのか!」

「はい。でも今、一番近い祭りは陛下の誕生祭ですね。これは貴族と平民で大きく賑わいます」

「貴族も平民も一緒になって騒ぐのか?」

「いえ。平民は平民で街を飾り付け、芸者が街で騒ぎます。ですが普段は地方にいる領主一族も帝都に来るので、街はその特需で潤うのですよ」

「ん? 貴族が街で買い物でもするのか?」

「中にはそういう者もいます。貴族達は貴族街に別邸を持っていますが、帝都までの付き添いには多くの平民が荷運び等の人足として付き添います。彼らも領主から帝都滞在費を渡されているので、その分街も活気づくのですよ」

「ああ、なるほど……」


 確かに、貴族が帝都に来るのに、自分たちだけで来るはずがないか。皇国でもそうだ。


「帝都に訪れた領主貴族は連日、社交界に参加します。そして陛下の誕生祭には、その全員が城に集います。帝国中の貴族が集まりますからね。なかなか壮観ですよ」

「へぇ……」


 皇国ではあまりない催しだな。皇国において領主とは、あくまで皇族から代官として委任されている形だ。そう多い話ではないが、後継がいない場合や能力不足と判断されれば、領主の入れ替えが行われる。


「そして誕生祭が終わると、そのまま貴族例会が開催されます」

「貴族……例会?」

「せっかく各地の貴族が揃うのですから。上級貴族達や下級貴族でそれぞれ集まり、領地運営やこれからの帝国の方針についての会議が開かれるのです。その期間の間に、魔術師の派閥もいろんな会合に参加していますね」

「ほう……。それも皇国では見ない光景だな……」


 皇国では皇族と皇護三家が国の運営の舵を握っているからな。そう考えると、皇国は中央集権が帝国よりも顕著なのかもしれない。


 マルクトアはそれから帝国の歴史についても簡単に教えてくれた。初めて触れる知識なだけあり、聞いていて楽しいものだった。元々ガリアード帝国はガリアード王国であり、聖騎士の家系を取り込んだ時に帝国と改めたそうだ。


「いろいろ知れて助かるよ」

「い、いえ! リク様のお役に立てたのなら幸いです!」

「ああ、それと。お前、貴族なんだろ? そんなお前にかしこまった態度取られると、俺が悪目立ちしてしまう。もっと自然体で話してくれて構わねぇよ」

「は、はい……。そ、その。頑張ります……」


 人には得意不得意があるからな。マルクトアはこういう気質なんだろう。ま、無理強いする事でもないか。


 マルクトアに帝国の事について聞いているとあっという間に時は流れ、気づいたら皇帝と謁見を終えたヴィオルガが部屋に入ってきていた。

ご覧いただきまして誠にありがとうございます!

四章「復讐の無能力者」の始まりとなります!

明日もお昼前後に投稿できるかと思います。

引き続きよろしくお願いいたします!

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