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皇国の無能力者   作者: ネコミコズッキーニ
三章 帝国の姫と無能力者
78/155

契約者に挑む者 ヴィオルガの予感

「さすがにあの質量で来られると面倒だな。……理術・創耀統造法・地衝裂壊」


 迫る大型幻獣の巨躯を迎え撃つべく、新たな術を発動させる。上空に巨大な刻印が浮かび、そこから大型幻獣と同程度の大きさを持つ巨大な剣が出現した。


 剣は重力による加速も味方に付け、勢いよく大型幻獣目掛けて突撃する。さすがに直撃はまずいと理解したのか、俺への突進を止め焦った様子で対処に移る。


「く……! 多重防壁!」


 大型幻獣と剣の間に何重にも重ねられた障壁が発生し、さらに足元から大地が物理的な盾として隆起する。剣は障壁を次々と破ったが、最後の大地の盾で食い止められてしまった。


 思っていたより硬いな。今ので決めるつもりだったんだが。


「ほう……。これを止めるか」

「なんだ……なんだ、貴様は……。今のも魔術、なのか……?」

「巨体を相手にできる様な術はあんまり多くないんだ。てこずらせるなよ」

「ぬかせぇ!」


 大型幻獣の叫び声で魔術が発動する。今度は岩の槍ではなく、炎で形成された槍だった。


 さっきの岩槍は俺に届く前に落ちたが、残骸はまだ残っている。あれを見て魔術そのものを消すものではないと判断したか。俺は神徹刀を取り出すと、迫る炎の槍を切り裂いていく。


「術は斬れてもさすがに熱いな……!」

「ははは! どうやら実体を持たない術には干渉できないようだなぁ! このまま炙り殺してくれる!」


 大型幻獣は動きの早い炎の槍と、やや遅い炎の球体を織り交ぜ、緩急交えた魔術を放ってきた。俺は最低限、自分に迫る魔術を斬り、多くは回避してやりすごす。直撃は受けていないものの、余波で強い熱波を受けていた。このままでは呼吸も難しくなるだろう。


「一度仕切りなおすか……。理術・霊魔無為法・消波句」


 神徹刀をしまうと、俺は術の発動と同時に両手でパンッと手を鳴らす。すると周囲に迫っていた炎の魔術は全て消失した。


「俺の魔術を……か、かき消しただと!?」

「その身体、かなりの火精と地精で構成されているな……。 理術・創耀統造法・儀柱降氷」

「うおお!?」


 大型幻獣を取り囲む様に、十の巨大な氷の柱が出現する。動きが遅い奴が相手でなければ、戦闘中にはできない術だ。俺は出現させた氷の柱を起点に、さらに術を発動させる。


「統合理術・絶氷波・災焉」


 氷の柱がそれぞれ共鳴し合い、柱に取り囲まれた大型幻獣に猛烈な寒波を全方位から叩き込む。大型幻獣は容赦なく体熱を奪われ、その巨体を足元から凍らされていく。


「う、動けん……!」

「はは! でかいだけのうすのろか!」

「……! なめるなあぁぁ!」


 咆哮と同時に炎の魔術を発動させる。だがどの術も上手く起動できなかった。


「な、なぜだ!? なぜ魔術が発動しない!?」

「お前のいるその場はもう氷の結界の中だ。火精とは相性が悪い」

「くおおおおおおおお!!」


 大型幻獣はなおももがく。これだけやってまだ動けるとは。体力だけは見た目相応という事か。





 偕は改めて見る理玖の非常識な実力に、半ば呆れていた。先ほどまで感じていた、命の危機からくる緊張感はもはやない。


「大型幻獣を相手にあれだけ一方的に……。兄さまの術は底が見えませんね……」

「なに……。なんなのよ、あいつ……」

「……ヴィオルガ姉様?」

「マヨも……なに平然としているの……? 相手はドラゴン、それも強大な魔力を持ち、人の知性まで持つ最強の生物なのよ!? なのに……!」


 ヴィオルガは目の前の出来事に、もはや頭の処理が追い付いていなかった。ドラゴン相手に一人で立ち向かう理玖。その理玖は見た事もない術を使い、その術の一つ一つがドラゴンにも通じる大規模戦略級のもの。


 触れれば大爆発を起こす大量の球体、ドラゴンの巨体に迫る巨大な剣、さらに局地的に大寒波まで作り出し、ドラゴンは文字通り手も足も出ない。


 帝国で最強格の一人として数えられるヴィオルガを以てしても、生きている間に辿り着けない境地。理玖はその領域に住む人間なのだと理解させられてしまった。


「魔力なんて全く無いのに……。というか、霊力がなくて家を追い出された元貴族なのでしょう!? 術、使えるじゃない!?」


 その術の発動に、セプターはもちろん、符などを使用している様子はない。さらに術の規模の割に発動までの時間も短い。帝国人とも皇国人とも違う力を身に付けている事は、ヴィオルガにも想像ができた。


「……理玖様は。確かに霊力をお持ちではありません。ですが自分の力で試練を乗り越え。強い意思で未来を切り開いてこられたお方。理玖様の御力は私たちが推し測れるものではありません」


 万葉は自分の未来視に理玖が一度も出てこなかった事を思い出す。おそらく未来は複数の可能性があり、現在の自分たちの行動でより良い未来を選ぶ事ができる。これは今までいくつも未来を視てきた万葉の所感だ。


 だが理玖は例外。理玖はどの様な未来にも介入でき、自分で自分の望む未来を勝ち取る事ができる。これは霊力が無いながらも、決して挫けなかった理玖だからこそ得られた力だろうと万葉は考えていた。


 もし自分も。どんな逆境でも挫けない強い意志を持つ事ができれば。 理玖の様に自分の望む未来を勝ち取れるだろうか、とも考える。


「なによ、それ……。訳がわからない……」


 訳がわからないと言いながらも、ヴィオルガは理玖の術を見て帝国の初代皇帝の逸話を思い出していた。


 帝国の歴史は魔術の発展と共にある。永い時を経て術の体系化も進み、火属性や水属性といった系統別の魔術も生まれてきた。今では得意とする属性別に派閥や家もできている。


 だが始祖……初代帝国皇帝の時代はまだ属性といった概念が薄かった。そんな時代にあって初代皇帝はあらゆる属性、あらゆる魔術を使い、時に大地を割り、時に空を裂きながら幻獣から人間の領域を取り戻していった。


 しかし時代が進み魔術は発展したはずなのに、未だに初代皇帝を超える魔術師は生まれていない。大精霊と契約した初代皇帝を超える者が。


「まさか……。あいつ……あの男は……」


 かつての六王時代は人の住む領域より幻獣の領域の方が広大であり、今より大型幻獣と多く遭遇していたという。六王達はその大型幻獣をものともせず、幻獣から人の住まう領域を勝ち取っていった。


 今の理玖はまさに伝承に聞く六王そのものではないか。そう思い至った時、ヴィオルガは背筋が震えた。


「そんな……⁉︎ ど、どうやって……!?」


 大精霊との契約者。六王以外にありえるはずのない存在。だが一度そう思ってしまうと、もうそれ以外に考えられない。そして奇妙な納得感があった。


 初代皇帝はその力を振るう時、右手の甲に刻まれた刻印が光っていたと伝承に残っている。今、理玖の右目で光る刻印も同様のものではないのか。


「マヨは……あいつの力を、知っているの……?」


 ヴィオルガの問いかけに万葉は静かに目を伏せる。知っているのか、知らないのか。ヴィオルガと同じ結論には至っているが、本人から確認していないのか。それとも口止めされているのか。万葉の表情からはそれらを読み取る事ができなかった。


「なんで、あんな奴……いえ。あの様なお方がマヨの護衛に……?」

「指月兄様が、お雇いくださいました。私の死の未来を変えるために」

「死の未来……」

「はい。そしてその未来は変えられました。理玖様の手によって」


 万葉は理玖が自分の身を護るのは、ただ兄に雇われたからだけではないと思っている。何故か理玖と自分の間に奇妙な力の繋がりを感じるのだ。


 理玖は自分の事を目的達成のため利用価値があると判断しているのか、それとも何かさせたい事があるのか、それは分からない。だが自分の願いを聞き入れ、実際に護ってくれる。かつて未来を諦めていた万葉には、今はこの事実だけで十分だった。


「ぐおおおおおおお!!」


 ドラゴンとなったレイハルトが吼える。今やその身体は凍てつき、満足に動かす事もできなくなっていた。


 理玖が片手を上げる。すると上空に先ほどと同様、刻印が浮かび上がる。だが先ほどと違うのは、その数が多いという点。刻印からはまた剣が現れるが、その大きさは最初に放ったものの半分以下になっていた。


 しかし数が違う。理玖が静かに手を降ろす。大量の剣は動けなくなったドラゴンの肉体に次々と突き立てられ、さらに時間差で爆発を起こす。


 ヴィオルガの目の前でドラゴンの巨体は爆散していき、その肉体は原型を留めていられなくなっていた。

ご覧いただきまして誠にありがとうございます!

明日の投稿ですが、おそらく正午を過ぎたくらいになるかと思います。

もしよろしければ下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎より本作のご評価及びブックマークいただけますと、とても励みになります!(既にご評価いただいた方、ブックマークいただけている皆様方には改めてお礼申し上げます!毎日更新の励みになっております!)

引き続き皇国の無能力者をよろしくお願いいたします!

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