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皇国の無能力者   作者: ネコミコズッキーニ
二章 帰還した無能力者
60/155

理玖 対 武蔵 霊影会の暗躍

 俺は右手をスッと振る。先刻まで何も無かったその手には、じいちゃんの形見の神徹刀が握られていた。


「武人をやめて道化師の真似事でもしていたか!」


 武蔵は絶影で一気に距離を詰めてくる。だが俺には姿は見えなくても、その刃がどこを狙っているのか、悪意を肌で感じる事ができる。俺は自分の刀を悪意の方向……武蔵の刀に合わせる。


「なにぃ!?」

「分かりやすいんだよ!」


 互いに切り結ぶ。だが押しているのは俺の方だ。武蔵が捌ききれなかった斬撃が、薄くその身を斬っていく。


「……! その刀、神徹刀か! 何故霊力を持たぬ身で私の動きについてこられる!?」

「お前の鍛錬が足りていないだけ、だ!」


 実際、親父と比べるべくもない。親父は正直刀で打ち合えば不利な可能性があったため、刀は手に取らなかった。初めから回避に専念、神徹刀を抜いたところで理術を使うつもりだった。


 だがこいつは。神徹刀を抜いたこいつからはそれほど大きな脅威は感じない。どこまでも型にはまった剣術、真っすぐな殺気に絶影。応用の利かない金剛力に出の遅い強硬身。一言で表現するなら。


「未熟」

「……!」


 刀で武蔵の身体を斬り、刀が使えなければ左手で殴る。両腕が振るえなければ足で蹴り上げ、あらゆる手段手法を用いて攻撃する。


 防御は最低限、回避は相手の隙を突ける時だけ。攻撃だけに集中特化する。攻撃も防御も刀一本にしか頼らない武蔵とは手数が違う。ぶつかればぶつかるほど、確実にその身体を抉っていく。


「がああああ!」


 武蔵は一度俺から大きく距離をとり、その刀を振るう。絶空による斬撃が飛ぶが、


「それは悪手だ」


 前へ駆けだしながら最低限の動きで躱す。技の発動直後で硬直する武蔵の直ぐ側まで一気に駆ける。


「自分の剣では勝てぬと踏んで、神徹刀の御力に頼ったな。お前は心が既に涼香にも負けている」


 武蔵の鳩尾に刀の柄を深く突き入れる。


「ぐふっ……!」


 そのまま武蔵はその場で意識を失った。


「す、すごい……」

「おお、雫は素直だな~」


 雫の素の感想に兄として嬉しくなり、頭を撫でてやる。うん、いいな妹。偕とはまた違う目新しさがある。一方の涼香といえば。ぼうっと立っていた。


「おい涼香。終わったぞ」

「え、ええ……」

「大丈夫か、ぼうっとして」

「だ、大丈夫よ! ふん、多少は役に立ったじゃない! 私と雫がこいつの霊力を削っていたおかげね!」

「まぁ実際それはあるな」

「え……?」

「霊力の残量がこいつの判断を鈍らせていたのは確かだ。よく粘ったな。二人のおかげで俺も労せず倒せたよ」

「わ、わかっているならいいわよ……」

「あはは……。まぁ兄さんならいくらでも方法はあった様な気もするけど……」


 雫は俺が術を使う所を見ているからな。二人と話しながら、俺は武蔵と他の武人四人を縛り上げていく。


「どこから出したのよ、その縄は……」


 この縄も魔境に生える植物の茎で編んだものだ。思えばあそこでは服や携行武器、籠などいろんな物を作っていた。もしかしたらそれなりに内職の腕もあるかもしれない。四人の武人が意識を取り戻しても話せない様に、口にも縄を巻いていった。


「で、結局なんだったのかしら……?」


 涼香が武蔵から外した手甲を手に取りながら疑問を口にする。


「まず言える事は領主もグルだってことだな」

「え……!?」

「幻獣の大侵攻について我らは知っている、て話していただろ。間違いなく領主も関係ある。そもそも武叡頭がこんな領地外まで出向いてくる事が異常だ」

「確かに……。でも生かしたのはいいけど、こいつがその辺りちゃんと喋るかどうか……」

「別にしゃべらす必要はない」

「え?」


 俺はそう言って雫を手招きする。首を傾けながらも雫は側にやって来た。


「雫、こいつの過去を視ろ。それでだいたい分かるだろ」

「……兄さん、ごめんなさい。私の過去視は望んだ部分が見える訳じゃないの」

「ああ、なるほど……」


 確かにそれができるなら、雫にはもっと別の価値が生まれる。


「よし、なら俺が手伝ってやろう」

「手伝う……?」

「ああ。お前はこいつが……そうだな。手甲を手に入れた時と幻獣大侵攻を知った時の事が知りたいと強く思え」

「う、うん……」


俺は雫の頭に手を置くと右目を閉じる。


「それじゃ、始めるね……?」


 雫が武蔵の過去を覗き始める。俺もそのまま静かに集中を始めた。俺の瞼の裏には、雫を通して武蔵の過去が映る。


「はぁ、はぁ……。う、うそ……見えた……!?」

「ああ。よくやった、雫」


狙い通りの過去が視れたことに涼香も驚く。


「え!? 上手くいったの!?」

「兄さん、何をしたの……?」

「ちょっとまじないをかけてやったんだ。俺にも見えたぞ」

「ええ!?」

「ちょっと! 二人で納得してないで私にも教えなさいよ!」


 騒がしかったせいか、武蔵の意識が戻る。


「ここは……?」

「目覚めたか、未熟者」

「貴様……! こ、これは……!?」


 自分たちが縄に縛られているところを確認し、自分の置かれた状況を理解する。


「く……。殺すなら殺せ。私は何も話さん」

「ああ、その必要はない」

「なに……?」

「まさか亀泉領の楓衆と霊影会が通じていたとはなぁ」

「貴様……! 何故それを……!」

「で、皇都の楓衆を通じて万葉の予言を知ったか。楓衆ってのは横のつながりがすごいんだな。そういや霊影会ってのは元楓衆の奴らが組織したんだったな。今でも親交のある楓衆が各地にいるという訳だ」

「貴様ら! 話したのか!」


 武蔵は横に転がる配下たちに一喝する。まぁ雫の能力を知らなければそうなるよな。


「お前と違って素直な奴らだったぜ? お前の強引なやり方にはうんざりしていたみたいだがな、武叡頭だから大人しく従っていたんだと」

「貴様ら……! 共にこの亀泉領を護っていくのではなかったのか!」

「仲間だと思っていたのはお前一人だけだったようだなぁ! 素直に話せば皇族に助命を嘆願してやると言ったら、我先にとお前の情報を売り始めたぜ! はははははははは!」

「おのれぇっ……!」


 おお、こういう方向でも左目の疼きが治まっていく……! 涼香と雫が引いた様な眼で俺を見てくるが、気のせいと捨て置く。


「霊影会繋がりで十六霊光無器まで手に入れるとは恐れ入ったぜ。だがこの手甲は霊力をため込めるとはいえ、莫大な量を得たければそれなりに多くの奴らから霊力を奪わねばならん。霊影会からしたら使いづらかったため、適度に皇国を荒らしてくれそうな単純バカに渡したってとこか」

「私が奴らの手のひらで踊っていたと言うつもりか!? 無能者風情が!」


 俺は武蔵の口に目掛けて蹴りを入れる。前歯を含め、いくつかの歯が散らばり、武蔵は口から血を吹いた。


「よくしゃべる口だな、未熟者」


 そのまま髪の毛を掴み、顔を上げさせる。


「神徹刀を持ちながら霊力の無い、武人ですらない男にも負けるお前はなんだ? 武叡頭としてどのくらいここに居るのかは知らんが、ちゃんと鍛錬はしていたのか? 正直弱すぎてこみ上げる笑いを我慢する方が難しかったぞ?」

「ぐぅ……!」

「自分の実力を棚に上げて生きていたんだろうなぁ? この分では善之助に対する恨みも筋違いなんだろうよ」

「なんだと!?」

「聞こえていたぜぇ、本来ならわ・た・し・が! 無能者にも勝てないわ・た・し・が! 近衛頭になるはずだったんだーってなぁ! あっはっはっはっはっは! お前、冗談は歯の折れたその顔だけにしろよ! どんだけ俺を笑かすんだっての!」

「私は! 本来なら私が、あの男に代わり! 近衛頭になるはずだったのだ!」


 俺はもう一発、胴体に蹴りをいれる。ドゥンッと鈍い音が響いた。


「まだ言ってんのか。仮に俺が善之助と戦うとなれば、切り札を切る相手になるだろう。近衛は実力が全て。お前如きに務まる様なお役目じゃあない」

「ぐっ……! 確かに最近は鍛錬をしない日も続いていた! それは認める! だが若かりし頃、私は善之助とその実力、霊力共に互角だったのだ……!」

「おいおい、夢物語を語ってんじゃねぇよ」

「誠の話だ……! 当時は凪津根が葉桐に取って代わるともいわれていた……! あの日までは……!」


 武人には不定期ではあるが、皇族の前で日ごろの鍛錬の成果を披露する御前試合が組まれる時がある。若かりし頃の武蔵は、御前試合で善之助と戦う事が決まった。


「だが卑怯にも奴は! 試合の前日、私に浴びる程酒を飲ませたのだ!」

「ああ、武人はみんな酒好きだもんな」

「皇族の前で葉桐家の者が無様に負けるのが怖くなった奴は、自らは水を飲み! 私にはひたすらに酒を飲ませ続けた!」

「いや、断れよ」

「案の定、酔いの抜けぬ私は善之助に全く及ばず、皇族の前で無様な負けを晒し、一派の笑い者にされた! それから私はどこへ行っても笑われ、善之助は御前試合の結果を評価され近衛入りを果たし! 近衛頭まで上り詰めた……! 後日、奴があの時に自分が飲んでいたのは水だったと話していたのを聞き、私は復讐を誓った! 何年かかってもこの屈辱、必ず忘れんと! あの日、奴の卑怯な手に乗らなければ勝っていたのは私だったのだ!」

「勝手な事言わないで! お父様がそんな卑怯な事するはずないでしょ!」


 これまで黙っていた涼香も堪忍袋の緒が切れたのか、大きく声を上げる。


「ふん、何も知らぬ小娘め!」

「だいたいお父様が酒を水と言って飲むのは昔からよ!」

「……なに?」

「お父様が酒など水も同じとのたまって、いつまでも飲み続ける悪癖があるのは昔からだって言っているのよ!」

「…………へ」

「お父様はとんでもなくお酒に強いんだから! そもそもあの酒好きのお父様が目の前で酒を飲まれて、自分だけ水を飲むだなんてありえない!」

「……そんな……」

「おいおい、善之助にそんな悪癖があったのかよ……」


 これまでの意気もどこへやら、武蔵は一気に老け込んでしまった。

ご覧いただきまして誠にありがとうございます!

私もお酒の失敗は何度か経験があります…笑

明日ですが、正午過ぎたくらいに投稿できると思います!

引き続き皇国の無能力者をよろしくお願いいたします!

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