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皇国の無能力者   作者: ネコミコズッキーニ
二章 帰還した無能力者
50/155

大精霊の契約者 悪夢の終わる時

「貴様……。なんだ、その眼は……」


 再生の力を与える剣が奪えなくなった俺は、ここからは本気を出す事を決める。理術は俺の切り札でもある、正直あまり人に見られたいものではない。それにこれは血に刻まれた大精霊の力を行使するもの。使用にはいくらか血を消失する。だが。


「まぁ、いい。この場において俺は契約を遂行する者……代行者としての権限を持つ」


 大精霊との契約で、俺は大地と契約せし大精霊と対話ができる可能性のある者……六王家の子孫で最もその力が強い者を護るという義務がある。


 そしてその義務の果たす時において、俺は普段より少ない血の消失量でその力を大きく引き出す事ができる。俺は万葉を契約の対象者と定めた。つまり万葉が近くにいる時に限り、俺は大精霊の代行者として普段よりも強力な力が使用可能になる。それは時の理にも干渉できるほどだ。


「本当に妙な男だ……! だが!」


 化け物は自分の周囲に先ほどよりもさらに大量の発光体を作り出す。その数は百にも上ろうとしていた。


「これだけあれば刀での対応も難しいだろう! さぁどう捌く!?」


 一斉に襲い掛かる発光体。左目が疼きだすのを感じながら、俺はその場で大きな音を立てて両手を合わせた。


「理術・霊魔無為法・消波句」


 手を叩くと同時に理術を発動、周囲の発光体はその姿を一斉に消失した。


「な……に……」


 これは自分の周囲で発動している術の類を強制的に消失させるもの。効果は一瞬だが、すでに発動している術を消すだけなら十分。もう少し持続させれば化け物の再生能力を奪う事も可能かもしれないが……。


「わざわざそんな疲れる事はせずとも、今の俺ならお前如き地を這う虫の様なもの」

「う……おおおおおお!」


 術が効かないと悟ったのか、または理術を発動させられると自分の再生能力が失われる事を理解したのか。化け物は俺に接近戦を挑んでくる。俺は今の理術の発動で、普段よりもどれくらい強力な術が行使可能か、ある程度のあたりをつける事ができた。


(こいつはいい。普段よりも数倍強力な術が撃てる。……ふん、こいつも運がない。万葉が側にいなければまだ勝ち目も……いや、ないな)

「理術・嵐轟破法・風双裁」


 一瞬で形成された風の力が化け物を襲う。風はその巨躯をものともせず化け物を宙に浮かし、その腕を、足を風の刃で切り刻んでいく。


 次々と傷が増えては再生されていくが、その度に止む事のない風の刃が容赦なく腕を、足を斬り落としていく。化け物の足元は大量の血で染め上げられていた。


「う……がああああああ!」

「ははは! なんて汚い叫び声だ! いいぞ、もっと聞かせろ! その声で俺の疼きを和らげろ!」


 ここまで大規模な理術、普段であれば大量の血を消失していただろう。そもそも強く風が吹いていない環境で、こんな規模の風の理術なんて使えない。


「どうした! 再生力が俺の術に追いつけなくなったが最後だぞ! そら、もう一つ! ……理術・滅灰撫熱法・暁炎衝」


 俺の真横に白い炎が生まれる。白い炎は槍の形状を形作ると空高く飛び立ち、宙で身動きの取れない化け物目掛けて降り注ぐ。


「おあああああああああ!!」


 炎の槍は真っすぐに化け物に貫通し、背中から突き刺さった。さらに刺したその対象を中から燃やし続ける。まさか火精がほとんど存在しない状況にも関わらず、ここまでの炎が扱えるとは。これはいい。


「ああ、ああああ! 熱いいいぃぃぃぃ! があぁぁぁぁぁ!」

「おいおい、どうした! 再生力が追い付かなくなってきているじゃないか! はははは! 宙で醜く踊りやがって! 無様さがより増しているぞ!」

「なぁ、なぜだぁぁ! 俺は! 完全体に成ったのではなかったのかあぁぁ!?」


 パンっと両手を叩く。瞬間、全ての理術は効果を失い、化け物は地に落ちた。かすかに再生しつつあるが、先ほどまでの再生力は発揮していない。


「ぐはっ……! はぁ、はぁ……」

「まだ再生するとは、本当にしぶとい奴だ。だが剣の力に頼り過ぎたな。肝心の剣の方がその力をほとんど失っているじゃねぇか」

「ば……! ばかな……!? 俺の破邪救心大剣が、力を失っている、だとぉ……!」

「死ぬ前に話せよ。お前をそんな化け物にしたのは誰だ? その杭とどんな関係がある?」


 ベックには杭が刺さっていなかったが、こいつからは同種の化け物である気配を感じる。となれば。あいつが……パスカエルが関わっている可能性がある。ぎりぎりのところで術を解いたのは、その事を確認したかったからだ。


「ふ、ふふ……! まさか俺以上の、こんな化け物がいたとは……!」

「最後だ。さっさと答えろ」

「ぐぅ……! だが最後に真の強者と死合えたのだ……! 我が人生に悔いなし……!」

「理術・滅灰撫熱法・焼塵訣」


 突如発生した白い火柱が化け物を焼き尽くしていく。至近距離でしか使えない理術だが、その火力は強力だ。


 化け物を跡かたもなく燃やし尽くし、後に残ったのは大きな直剣だけだった。俺は目を閉じるとゆっくり大精霊の力を封印していく。次に目を開けた時、その眼に刻印は浮かんでいなかった。


(なんだかんだでしぶとい奴だった。大精霊の代行者としての力が使えなければ、もう少し長引いていたな。これだけ強力な理術を数多く使ったんだ、そこそこ血も消失したか……)


 左目の疼きに身を任せて、少し調子づいてしまったのは確かだ。血が戻るまでしばらく理術は控える必要がある。早急に血を作るためにもまずは飯を食わなければ。


 まぁ指月からの報奨金もあるんだ、食うに困らないくらいの金は手に入るだろう。俺は改めて契約の対象者となった万葉に向けて歩き出した。





「見ての通りだ。お前の死の運命とやら、全て燃やしてやった」

「はい……! ありがとう、ございます……!」

「言ったろ。俺はお前の兄に金で雇われただけ。礼なら俺を雇った指月に言うんだな。それに俺を頼ったのもお前の意思だ」

「はい……! あの、お名前をお伺いしても……?」


 偕達も俺をじっと見ている。化け物と戦う前から偕達には気付いていた。何故か感じる若干の気まずさからあえて目を合わさない様にしていたが、ここにきて偕達とゲロ女、そして万葉の顔を改めて見る。


「リク、だ。ただのリク。姓は無い」

「リク……様」

「兄さま!」

「理玖!」

「やっぱり理玖なのね!」


 偕達も俺に詰め寄ってくる。こうして言葉を交わすのはいつぶりだろうか。


「久しぶりだな、お前ら。……そうか、近衛になったんだな」

「兄さま……! 一体いままでどちらに……!? それに、そのお力は一体……!?」

「そ、そうだぜ! 霊力……ではないよな!? 一体何をしたんだ!?」

「理玖……! 万葉様をお救いしてくれた事、礼を言うわ。積もる話もあるでしょうし、一度一緒に皇都に来てくれないかしら……!?」


 三人は幼き頃の誓いの通り、近衛となった。国を出る前に何か話した間柄でもないが、途中で脱落した身としてはやはり気まずいものもある。


 だが胸を張れない生き方をしてきたつもりはない。とはいえそれはそれ、これはこれ。このまま皇都までこいつらと一緒というのは避けたい。単に意地ではあるが、やはり近衛に付き従ったと捉えられる様な真似はしたくなかった。


「俺は罪人だ。お前らと行動を共にする訳にはいかんだろ」

「そんな事……! 万葉様をお救いしたのよ、罪なんて関係ないわよ!」

「そうです、兄さま! 一緒に行きましょう!」


 はぁ、と溜息を吐く。


「断る」

「え……」

「今更お前らについて行って、葉桐の連中と顔を合わせたら碌な事にならん」


 親父にも重症を負わせているしな、とそっと呟く。


「騒ぎ立てた連中が向かってきたら、俺は躊躇なく立ち向かう。刀を抜いて襲い掛かってきたら容赦なく殺す。すでに誠彦と涼香、それに親父も切りかかってきているしな」

「え……!?」

「たまたまお前らの血縁だったから一度は見逃しただけだ。次は無い。だがまぁ、後日どこかで顔を出す。もちろん葉桐の家以外でな。詳しい話はその時でいいだろ」

「理玖……」

「どちらにせよ指月から報酬をもらうため皇都へは行かなきゃいけないんだ。……そうだ、万葉」

「はい」


 俺に呼ばれた万葉は何の疑いもなく側に寄ってくる。


「腕を出せ」

「はい」


 これまた何の警戒もない。俺は万葉の腕をとると袖を捲り、その露わになった白い肌に触れた。


「ちょ、ちょっと、理玖……!?」


 まぁ皇族の、それも未婚の女の肌にこうも易々と触れれば普通は即不敬罪に問われるだろう。だがすでに罪人で皇国籍のない俺からすれば、どれだけ罪状が増えようが今更だ。


 俺は万葉の腕に指で文字をなぞっていく。万葉は抵抗する素振りもなくそれを受け入れた。


「あの……?」

「ああ、これか。まじないの様なものだ。何か身に危険を感じたら、その腕に向けて強く俺の名を呼べ。どこに居てもお前の側に駆け付ける」

「……! はい……!」

「後日、指月と二人になった時に一度俺を呼べ。お前の兄から今回の報酬を貰わなければならん」

「わかりました。……ご希望される時間帯はありますか?」

「それも好きにしたらいい。だが早い内に頼むぞ。貰えるものはさっさと貰っておきたいんでな」

「はい。皇都に戻り次第、お兄様と相談いたします」


 俺と万葉のやり取りを見ていた誠臣が驚いた声を出す。


「す、すげぇ……。呼べば飛んでこれるのかよ、理玖……」

「誰でも、という訳ではないがな」

「本当に……どこでそんな術を身に付けたんだ……?」


 誠臣の追求を躱す意味も込めて俺は話を変える。


「ああ、そうだ。俺の使った術は他人に言わないでくれ」

「え……?」

「人に恥じる様なものではないが、あまり知られたくない力ではあるんだ」

「……分かりました」


 万葉が頷いた事で偕達もそれに従う。


「……どうやらお迎えも来たようだし、俺は行く」

「え……」

「もうこんな化け物は他にいないだろうが、お前らも皇都まで油断はするなよ」


 そう言うと俺は駆け足でその場を後にした。


「あ、ちょっと理玖!?」


 そしてほどなくして、万葉の行方を追っていた皇国軍がその場に姿を見せた。

ご覧いただきまして誠にありがとうございます!

明日も正午を過ぎたくらいに投稿できると思います!

万葉様の悪夢は終わりましたが、二章はまだ続きます。毎日更新は続けていきたいと考えておりますので、引き続きご覧いただけましたら幸いです!

また面白い、続きが読みたい!等思っていただけましたら、下の☆☆☆☆☆より評価いただけますと、とても大きな励みになります!

これからも皇国の無能力者をよろしくお願いいたします!

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