激戦開始! 近衛と霊影会、死刃衆
霊影会の長、波動法師五陵坊。彼と菊一は、領都を荒らす配下たちを遠目に見ていた。
(楓衆にいた頃はこの様な光景、見れば黙ってはいられなかっただろう。それが今や、皇族に弓引く立派な逆賊。……思うところがない訳ではない。だが腐敗したこの国に忠を尽くすことなどできん)
思い出すのは今から約十年前、自分がまだ楓衆で栄六たちを部下に持っていた頃。あの時は武人や皇国軍の垣根など越えて、皆で皇国のために尽くせるのだと信じていた。あの様な事が起こるまでは。
(……いや。元々どこかで、いつかこうなるという予兆は感じていたのかもしれない。それでもあの頃の俺は。想いがあれば身分や生まれなど関係ないと信じていた)
配下を失い、汚名も着せられ。だが全ては失わなかった。自分について来てくれた者達がいる。今も自分を慕ってくれている者達もいる。いつか来るその日に向けて。自分は復讐を諦めない。
「五陵坊。どうやら神殿からのこのこ戻って来たようだぜ」
「む……」
菊一の声で意識を現実に戻し、正面に視線を送る。なるほど、確かにいくらか部隊が戻って来ている。配下たちと部隊が衝突を始める。
「一般兵など相手にはならんだろうが、あの辺りは難しそうだな」
「おそらくは領主一族の精鋭部隊か。それに術を使っている者もいるな。もしかしたら近衛もいるかもしれん」
「はっ! それなら好都合だぜ!」
「そうだな。だが退き時は誤るなよ。あくまで俺達はここに注意を引き付けておけばいい。それもある程度の時までだ。ここで投げ出す様な命はないぞ」
「わかってる! 行くぜ!」
より長い時間、敵の戦力を自分たちに引き付ける。そのために二人も前線へと身を投じる。
■
偕達は東に向かって走り出し、霊影会の構成員とぶつかった。数はそこまで多くはなく、むしろ一部隊率いてきた偕達の方が多い。これなら直ぐに取り押さえられるかと思ったが、そうは上手くいかなかった。
「お兄ちゃん! あいつら、全員破術士よ! 皇国軍じゃ厳しいかも!」
「何だって!?」
皇国軍はそのほとんどが平民出身、つまり霊力を持たない者である。さすがに破術士相手となると、数で勝ろうとも苦戦する。
「僕らも前へ出よう!」
「おう!」
皇国軍の消耗を押さえるためにも、偕達も戦列に加わる。だが偕達が前へ出ると破術士達は避けて行き、代わりに栄六と鷹麻呂がその姿を現した。
「おおっと、近衛だな? お前らは俺たちの相手をしてもらおうか」
「栄六! それに鷹麻呂!」
「うん? どこかで会ったか?」
「私はそちらの女性には見覚えがありますが。まさか辺境で会った方と皇都近くで会う事になるとは思いませんでしたよ」
直接清香とやり合った鷹麻呂はともかく、栄六が偕と清香を見たのはもう五年前である。栄六が覚えていないのも無理はない。
「血風の栄六……! 戦闘力だけなら霊影会で五陵坊に次ぐという……!」
「鷹麻呂は私と雫が! 二人は栄六を!」
「はいっ!」
「了解だ!」
二対一で確実に抑え込む。だが不利な状況に追い込まれたはずの栄六も鷹麻呂も笑みを崩さず、その表情には余裕が残る。
「またあなたが私の相手ですか」
「毛呂山領の時の様にはいかないわ!」
「清香さん、支援はお任せを!」
「で、俺の相手がお前たちって訳かい」
「へ、二対一だ! 悪く思うなよ!」
「誠臣さん、数年前とはいえ葵さんでも捕えられなかった相手です。気を付けて!」
領都に続き、ここでも霊影会との戦いが始まる。
■
「葵さん。まだ来ると思いますか」
音葉は隣の葵に語り掛ける。神殿では葵、音葉を中心に一部の戦力が残っていた。戦力的にはいささか心もとないものの、葵、音葉共に偕達より近衛としての実績も経験も上。付近にまだ敵が潜んでいる可能性もある以上、下手に万葉を動かすよりは神殿に匿い、その警護に自分たちが付くのは防衛の面からも上策と言えた。
「分からない。でも霊影会の中でも、戦闘能力の高い者たちのところにはそれぞれ相応の戦力を割り振った。仮に残った霊影会の幹部がここに来ても、私と音葉なら十分対処できるはずよ」
「そうですね。その点は私も同意です。……明日には皇都に帰れるはずだったのですが」
「帰れるわよ。元楓衆だか知らないけど、今日仕掛けて来た事を後悔させてやるわ」
葵は以前に一度、栄六と戦っている。あの時は、霊力は自分の方が優れていたのに倒しきれなかった。だが数年前より今の自分はさらに強くなっている。これ以上誰が攻めてきても負けるつもりはなかった。
「……そう言えば葵さん。お子さん、二歳になったんでしたね」
「ええ。家に預けて来ているから、早く帰って顔を見たいわ。まぁ近衛なんてやっていると、普段もなかなか家には帰れないんだけどね」
葵はこの五年の間に結婚し、出産していた。妊娠中は近衛を離れていたが、落ち着いたところでまた復帰したのだ。余談だが葵が結婚した時、誠臣は本気で残念がっていた。
「そういえば音葉は結婚したばかりなんだったっけ」
「……はい。このお役目が終われば、一度お休みをいただく予定です」
「そう。なら尚更この程度の事で狼狽えてなんてはいられないわね」
「はい。必ず万葉様をお守りし、生きて帰ります」
皇国の貴族は葉桐一派を除いて結婚が早い。葉桐一派はお役目次第で皇国内を走り回る時も多く、なかなか落ち着かないから……という他にも、皇護三家で最も死亡率が高いからという理由もある。
嫁に出しても直ぐに未亡人になるという可能性を避けたい家は多いし、逆も然りだ。そのため跡取りはともかく、次男以降は結婚に苦労する者も多い。
立津音葉は立津家の三女。当初、親はどこかへ嫁に出す気でいた。ところが葉桐一刀流を修め霊力の素質にも恵まれ、兄や姉をも超える剣才を発揮。そしてとうとう若くして近衛まで上り詰めた。
そんな中、薬袋一派の家と縁があり、結婚が決まった。もし子供ができたら近衛は一度引退しようかとも考えている。
近衛に任じられるは武人の名誉ではあるが、最近は明らかに自分より才溢れる若い三人も近衛に入ってきた。将来子供の面倒も見たいし、無理に近衛の地位に固執しなくてもいいのではないか、と思っているのだ。そんな漠然とした未来を考えている時に葵の鋭い言葉が耳に届く。
「音葉っ!」
「……!」
大きめの足音が近づいてくる。それも隠そうともしない、堂々とした足音が。この状況で特に焦っている様子もないというのがまずもって怪しい。そして姿を見せたのは、その期待裏切らぬ風貌の大男二人だった。
「ほう……。まだしっかりと戦力は残っていた様だな」
「ふふふ……。女が二人、か。我らの相手になればいいがな」
身の丈ほどの鎚を背負う大男に、両足に黒い具足を履く大男。葵と音葉は二人の正体に気付く。数日前、もしかしたらと葉桐善之助より生天目領まで、急ぎの手紙が届けられていたのだ。
そこには死刃衆が潜んでいる可能性があるという事が記されていた。かつての近衛でもってしても誅殺できなかった破術士達が。
「何奴!」
「我らは近衛! ここを天駄句公の御前と知っての狼藉か!」
葵たちの叫びに複数の皇国兵も駆け付けてくる。まずは数で優位に立つ。だが葵たちの言葉を聞いた男達は満足気な笑みを浮かべていた。
「ほう! 近衛とな! これはいい、まさかそれほどの獲物が残っていたとは!」
「てっきり皇国の猪武者など、奴らにおびき出されて全員いない者かと思っておったぞ!」
「……! やはり霊影会の襲撃は陽動!」
「その通りよ。陽動などなくともよかったが、な」
ここに来て葵は、自分の想定外の出来事になってしまった事を悟る。襲撃を企んでいたのは霊影会だけではなかったのだ。まさか死刃衆と手を組んでいるとは思ってもいなかった。
(霊影会が戦力を引きつけ、その間に死刃衆が神殿を襲撃する! まさか死刃衆が他の破術士組織と手を組むなんて! でも死刃衆は四人のはず! あと二人は!? 狙いは何!?)
襲撃はされているものの、今の所妖らしき姿は見えない。狙いも不明。だが油断はできない。
「例大祭の時を狙って仕掛けてくる無礼者よ! 名を名乗りなさい!」
「ふっ。我が名は慈雷。これなるは十六霊光無器が一つ、全てを砕く大蔵地砕槌よ。近衛であれば手加減する必要はなし! 初めから全力でいくぞ!」
「俺の名は摩鷲。これなる具足は十六霊光無器が一つ、鋼黒薙皆具足! 俺の蹴撃に壊せぬものなし! 女といえど近衛、手加減はせぬ!」
やはり死刃衆。ここで倒す事ができれば皇国の安寧に繋がるだけではなく、十六霊光無器を取り戻す事もできる。だが決して様子見で戦ってはいけない相手だという事を瞬時に理解する。葵と音葉は同時に刀を抜いた。
「皇王を恐れぬ無礼者よ、よく聞け! 私は近衛が一人、水篠葵! 我が神徹刀、否花正宗の輝きを恐れぬのならかかってこい!」
「同じく近衛、立津音葉! 我が神徹刀、銘を春霞! それ以上寄らばその胴と首、明日まで無事に繋がっていると思うな!」
「ふふ、いいぞ。さすがは近衛、気迫が違う。だがこれほどの近衛が二人も残っているのだ、予言の姫も中にいるな?」
「! まさか……狙いは……」
「慈雷! やるぞ!」
「応っ! 近衛よ、覚悟!」
ここ神殿前で三か所目の戦いが始まる。
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