動き出す破術士 死刃衆と霊影会
皇国某所にある洞窟内。そこでは死刃衆の四人が一堂に会していた。話は慈雷が戦った理玖に及ぶ。
「ほう……。それほどの武者がおったか。それも隻眼とは」
「驚きではある。が、聞くに慈雷とは相性が悪い相手であった様だな」
「然り。我は渾身の力を込めての一撃必殺を旨とする故。ああも至近距離でまとわりつかれては、な。しかしそれでも強者である事に変わりはない」
「事が済めば是非ともその男、探しださねばな。俺の鋼黒薙皆具足を満足に振るえる相手やもしれん」
「どちらの体術が勝るか技を競いたい、か」
かつて皇国を荒らしに荒らした死刃衆。多くの武人術士、皇国軍も相対したが、ついに誅する事が叶わなかった。その理由の一つ、それは彼らが持つ武器にある。これらは十六霊光無器と呼ばれる、全部で十六ある皇国の霊具だった。
初代皇王の時代に作られた十六霊光無器には、いずれも大精霊の力が宿っており、神徹刀とはまた違った神秘の技を顕現できる。
そしてその最大の特徴は、霊力さえあれば誰でも使えるというもの。神徹刀は銘を視た本人にしか扱えないのに対し、十六霊光無器はその限りではない。元は皇国で厳重に管理されていたが、600年の長きに渡り様々な事情と共に失われていった。
現在、皇都で管理している十六霊光無器は四つ。それ以外は行方不明か、死刃衆の様な破術士が使っている。
誰でも扱える十六霊光無器は、傍若無人な輩が扱う事もあり、流石にこれはまずいと考え生み出されたのが神徹刀である。人格、実力共に相応しき者にその力が振るわれる様にと作られた。皇国の長い治世において、神徹刀持ちの犯罪者が少ない理由でもある。
そして今、十六霊光無器は傍若無人な破術士の手にある。特に死刃衆はその力で強者と戦い、これを叩き伏せる事に快楽を見つける類の集団である。
彼らが求めるのは強者との戦い。相手が武人や近衛と聞くと恐れるばかりか我先にと戦いたがる。若き頃の陸立錬陽や葉桐善之助もこれらと戦ったが、ついに仕留める事はできなかった。
「考えようによっては依頼の後の楽しみができたと言える。今は近く迫った決行の時に備えよう」
「然り。以前話した通りにいくのか?」
慈雷の確認に答えたのは、身の丈ほどもある直剣を背負った大男だった。
「ああ。まずはあの元楓衆の連中に予定通り動いてもらう。ある程度武人術士が減ったところを狙って件の姫をさらう」
「霊影会といったか。果たしてどれほど使える奴らなのか……」
「さぁな。すくなくとも長の五陵坊はそれなりにやるだろう。何せ我らと同じく、十六霊光無器を振るえるのだからな」
五陵坊が持っていた錫杖。あれも十六霊光無器の一つであり、その能力は五陵坊が波動法師と呼ばれる所以でもあった。
「それにあの男、皇国に対する怨念は本物であった。皇族の姫を狙うという此度の企みもよほど協力的よ」
「確かに。かつての主君に刃向けるのだからな。あの様な者達でさえ叛旗を翻させるとは、皇族の威光も地に落ちたというもの」
「それは帝国も同じであろう。何せあの男、そしらぬ顔で我らにこれを与えてきたのだからな」
そう言って慈雷の隣にいた男、確雅が懐から出したのは黒い杭であった。
「完成品だというこれ。さて、どうする?」
「くく、決まっておろう。それは今から俺が使う」
そう言って直剣背負う大男は立ち上がる。
「ほう……?」
「粗悪品とは違い、成るのに多少の時を要すると聞く。今からこの場で使う故、よく見ておけ。もしその時までに俺が成っていなくても計画は続行だ」
「ああ。元々二人もいれば十分な計画。それにしても、霊影会がもっと早く姫の情報を掴んでおれば、あらかじめ使っておく事もできたものを」
「そう言うな。元楓衆だけあって確かな情報収集力だったではないか。……では騨條斎」
「おう。……よく見ておけ。これより新たな境地へ飛び立つ俺の姿を! おおおおおお!」
そう叫び、直剣背負う大男、騨條斎は自らの心臓目掛けて黒い杭を突き刺す。瞬間、洞窟内に衝撃が走る。
■
「はぁ……。万葉様、なんとお綺麗な……」
「綺麗っていうか。恐れ多くてまともに見てられねぇよ……!」
「確かに……。なんと言うか、神気を感じるといいますか。万葉様の血に色濃く流れる、大精霊様のお力を直に感じている気持ちになりますね」
偕達三人は生天目領にある神殿で、例大祭を取りまとめる万葉を遠目に見ていた。生天目領の領主一族、それに多くの武人に術士達も参加しているが、皆巫女装束に着替えた万葉の荘厳な気配に押されている。
「予定通り、明日には皇都に向けて出発できるな。今日まで何も無くてよかったよ……」
「誠臣。声が大きいわよ」
「あ、葵さん!」
かつて偕達と皇族歴督を救った水篠葵。彼女は今回、万葉の警護につく近衛のまとめ役だった。この数年で多くの経験を積み、近衛の中でも非常に頼りがいのある姉御的立ち位置である。
彼女も万葉の事情、そして今回万葉の警護が厳重な理由を理解していた。皇都を出た時から常に気を張り巡らし、決して油断していない。
「さぁ万葉様が領民たちにお顔をお見せになるわよ。しっかり周囲を警戒なさい」
「はい!」
万葉の後ろを巫女達が続き、遠巻きに偕達も移動を開始する。巫女の中には雫の姿もあった。巫女の血筋でもある彼女は万葉を間近で警護するため、術士兼巫女として万葉の祭事に協力していた。そして万葉が神殿を出ようとしたところに楓衆の怒号が轟く。
「報告、報告ー!」
「何事か! 今は神聖なる儀式の最中であるぞ!」
「はっ! 破術士の襲撃にございます! 警護の薄くなった領都で狼藉を働いており、その中に五陵坊、菊一の姿もあるとのこと!」
「なんだと!?」
神殿は生天目領領都から少し北上したところにある。例大祭のため多くの戦力が領都を離れたところを狙っての襲撃だった。
霊影会と聞き偕達に嫌な予感がよぎる。かつて毛呂山領で霊影会が襲撃してきた際、妖となった六角と戦っているのだ。万葉が皇都から出たところに重なる霊影会の襲撃。偕でなくとも、事情を知る者であればこの状況を強く警戒する。
「葵さん!」
「待ちなさい! まだ状況の把握が済んでいないわ。万葉様は神殿の奥に!」
葵が状況の確認と近衛への指示を出す最中、新たな伝令が飛ぶ。
「報告! ここより東に破術士の集団有り! 中には鷹麻呂、栄六の姿が確認できます!」
「えぇ!?」
近年、皇国内にあって霊影会はその存在感を高めていた。また鷹麻呂の分析により、万葉に以前ほどの予知能力がない事も把握されており、最近増々その活動が活発になっている。
その霊影会の幹部が四人。一方は領都に、もう一方は今まさに神殿目指して邁進中。そして霊影会といえば妖と何らかの繋がりがあるのは明白。今日を万葉の運命の日にさせないため、葵は叫ぶ。
「生天目殿! 手勢と共に急ぎ領都へ! 近衛から一人と術士も付けます!」
「承知した! 行くぞ、お前たち! これ以上賊を我が領都で好きにさせるな!」
「清香、偕、誠臣! それと雫! あなたたちは一派の者達、それと皇国軍一隊を率いて東の賊に当たりなさい! 音葉! あなたは私とここで万葉様の警護よ!」
「はい!」
返事をしたのは立津音葉。葵の後に近衛入りを果たした偕達の先輩である。葵と音葉は万葉の側へ、偕達は一隊を率いて東へ向かう。
「栄六に鷹麻呂。どちらも私たちにとって因縁の相手ね」
「だが俺たちはあの時とは違う。今や近衛となり神徹刀もある。……絶対に万葉様をお守りするぞ」
「はいっ!」
偕は嫌な予感が止まらなかった。この襲撃に妖が関係あるのか、ないのか。万葉の夢見た日が今日なのか違うのか。何も分からない。だが葵の指示の理由にはどこか納得していた。
(万葉様に迫る妖には二刀振るう近衛、すなわち僕が立ち向かうという話。これまで予知夢の内容が変わらない以上、僕と万葉様を離してしまえば少なくとも万葉様の見た夢の通りにはならない)
万葉の夢の再現を避けるため、あえて偕を万葉から離した。一方で、万葉の見る未来は些細な事で変わる事も知られている。このまま自分が万葉の側から離れるのが正しい選択とは限らない。だが万葉の警護に付くのは一騎当千の近衛、その実力者二人。戦力の分配も非常に調和がとれている。
(……迷うな! やる事は変わらない! 今は栄六と鷹麻呂だ! 早く決着を着けて神殿へ戻る!)
領都では波動法師五陵坊と烈火の菊一。これから向かう神殿の東には無刃の鷹麻呂と血風の栄六。どちらも霊影会では、かなりの戦闘力を誇る元楓衆。
そして神殿で万葉を守るは葵と音葉。仮に姿の見えない残りの霊影会幹部、必中の佐奈と言運びの五十鈴が神殿を襲撃しても、その二人では葵と音葉の守りを崩す事はできないはず。
嫌な予感はあれど布陣は固い。そう思いなおし、偕は走る。
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