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今日はオブシディアン様と再び魔王城を訪れています。以前から魔王様が私に会わせるように言っているそうなのですが、なんだか過剰に期待させているようで逆に不安です。


「今日はこれから魔王様に君を紹介する予定だ。正確には仕方なく見せるのだが……」


オブシディアン様と一緒に屋敷を出てガーネット様と3人で魔王様の部屋に向かいました。魔王様の部屋はオブシディアン様の執務室のすぐそばです。


オブシディアン様が魔法で大きな扉を開けると、部屋の奥に水色の髪を伸ばした、長身の男性が立っていました。


「あちらが魔王様だ」


奥に進むとオブシディアン様とガーネット様が跪いたので、私もそれに倣いました。


「件の娘をお連れしました」


「オブシディアン、ご苦労だった。でも、お前が真面目にやっていると他の者が息をつけないじゃないか。堅苦しいのはやめないか?」


「ジェバイト、フランクな態度を取るのは君の勝手だが、臣下が最初から態度を崩すと他の者の手前良くないだろう」


オブシディアン様が立ち上がり、友人とでも話すような口調でそう言いました。


「ジェバイト、こちらの女性がベアトリスだ」


「魔王様、お初にお目にかかります。ベアトリス・テレーズ・マリアライトと申します」


私も立ち上がって挨拶すると、魔王様は至近距離までやってきました。近くで見ると、オブシディアン様に勝るとも劣らない綺麗な顔をした青年ですが、オブシディアン様と違って中性的な印象の顔立ちです。


魔王様は私を値踏みするように上から下まで見回しています。


「なるほど、綺麗なお嬢さんだ。でも、もうオブシディアンに心を奪われているのではないのかな?」


「なっ……」


何故と思わず声が出ました。そんなことをオブシディアン様に聞かれたくありませんでした。


「ジェバイト、初対面の女性に失礼だろう。……彼はこういった性格なのだ」


「これは失礼。私はエレーメージェバイト。この城とこの辺りに住まう魔族の主をしている。よろしく」


魔王エレーメージェバイト。容姿も名前も隠しルートでローザリア様と結ばれる魔王で間違いありません。


見ての通り一見何を考えているかわからなそうなキャラクターですが、甘いマスクと結ばれたらそれ以上に甘々に優しい彼氏になるとても人気のキャラクターでした。


私もですが、流されたらこのような素敵な方と出会えるなら流刑も悪くないのかもしれません。


ただし絶対死なない確証があるならです。私などは崖から落ちた時は運が悪ければ死んでおりましたので。


「それにしても、オブシディアンがこんなに素敵な女性を手に入れるくらいだ。私は大聖女を自分のものにするくらいでないと不公平だよ」


「君は何を言っているのだ」


「言ってるそのままだよ。ちょっと失礼」


魔王様は私の頭に手を置かれました。頭がじんわりと温かくなってきます。


「なにをされているのですか?」


「あんまり話さないでくれると助かるね。なるほど、大聖女ローザリアか。なかなか可愛いじゃないか」


割と短い時間でしたので、手を抜けようとした頃には魔王様は手を離していました。


「おいジェバイト、いくらなんでも冗談が過ぎるのではないか」


随分と怒った様子のオブシディアン様が魔王様に詰め寄っています。


「いいじゃないか。お前もやったんだろう?」


悪びれもせず魔王様がオブシディアン様を宥めています。オブシディアン様は何も言わなくなりました。


私は何をしているのかわからないので、首をかしげるしかありません。


「あの、なんの話をされているのでしょうか」


「少し魔法で君の中の大聖女に関する記憶を探らせてもらっただけだよ」


魔法で記憶を探るとは、また随分と便利な魔法があったものです。


なるほど。色々と随分と察しが良過ぎると思っておりました。


「それでオブシディアン様は、いつ、どなたの記憶を探られたのですか?」


「黙っていて本当にすまない。屋敷に帰ってから説明しよう」


「なら今日はもう下がって良い。ベアトリス、またおいで」


魔王様との邂逅は無事に果たすことができました。


ただその夜、オブシディアン様には二度としないと誓っていただきました。

この小説はアルファポリスに以前から投稿している作品です。全59話。

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