17 アルフレッド視点
僕はアルフレッド。トルマリン王国の第一王子だ。今年で18になる。
トルマリン王国はここ数年、酷い財政難に苦しんでいたが、いよいよ立ち行かなくなる前にマリアライト卿が資金を提供してくれた。
父上は大いに喜んで、マリアライト卿に望み通り公爵の地位を与え、マリアライト公爵令嬢ベアトリスと僕の婚約を認めたんだ。
そのとき僕には特別な女性はいなかったけど、まるで僕が金で取引されたかのような政略結婚をあまり良い気はしなかったね。
初顔合わせで実際会ったベアトリスは凄く綺麗で物腰も気品に溢れていた。身体付きもとても女性らしく魅力的だった。普通に出会えていたらと思わなくもなかった。
その直後に大聖女ローザリアが城に滞在することになった。初めて可憐で清廉なローザリアを見た時に僕の身体に稲妻が走ったんだ。一目で運命の人だと思った。
ベアトリスを正妻とした結婚が決まっている僕には、後ろ盾にマリアライト公爵が付いてくれる為、王太子としての地位はほぼ確定していた。
だから普通ならローザリアと結ばれる事は不可能だった。大聖女を第二夫人なんかにできないからね。
でもローザリアと初めて会った時、僕は前世の記憶を思い出した。そして、この世界が昔流行ったゲームの設定に酷似していることに気付いたんだ。
僕は前世では早死にしていて、なんで死んだか覚えていないんだけど事故だったんだと思う。
年の近い姉がいて、その姉が当時ハマっていたゲームを僕もやらされていたんだ。
男を攻略するゲームなんて乗り気じゃなかったんだけど、遊んでみたら意外と話が面白くてトゥルーエンドまでちゃんとクリアしたよ。
だから、ベアトリスと婚約し、ローザリアが城に来たことを僕は恐怖した。既にイベントが始まっていたんだ。
このままベアトリスと婚姻を継続すると、ベアトリスは僕とローザリアの仲を邪推してローザリアに嫌がらせをし、怒った教皇が父上に進言してベアトリスが流刑にされるイベントが発生する。
その直後に父上が急死するけど、その時までにローザリアがユリシーズかベルンハルトを選んでしまうと僕は死んでしまう可能性があるんだ。
ユリシーズや魔族と戦争になってもゲーム通りに僕が死ぬとは限らない。
ただ、不確定要素に僕の命を賭けるわけにいかないから、僕は早急にベアトリスと縁を切ってローザリアを攻略しなければいけないと考えたんだ。
踏ん切りがつかず何もしないうちに、ベアトリスとの結婚行事が進み、僕達は初夜を迎えてしまった。
ベッドに横たわるベアトリスはもの凄く綺麗で、僕はゲームのことを忘れてベアトリスの身体に夢中になったよ。
でも彼女は結局僕を拒んだ。まあわかるよ、僕も前世まで合わせたら長く生きてるから、貴族令嬢として完璧に振る舞えても若干16歳で箱入りの彼女が初めてのことをすぐに受け入れるのは難しいって。
僕は面倒になってしまった。ゲームのキャラのそういうのに気長に付き合う気がしなくてね。それに僕の命を守るためにもベアトリスは邪魔な存在になっていたし。
翌日から僕は動き出した。
ベアトリスが嫉妬してローザリアに嫌がらせをしていると教皇に報告して、ベアトリス流刑イベントの前倒しを計画したんだ。
教皇はマリアライトが持つ宝石の採掘権という餌に飛びついて、すぐ父上を呼び出してくれたよ。
最初は父上も半信半疑だったけど、マリアライト卿に金で公爵位を与えたことを上級貴族からは相当非難されて困っていたのと、財政も健全にはなったけど父上が使える金は減ってたから、僕個人への慰謝料という名目の大金には抗えなかったみたいだ。
父上も協力してくれることになったんだ。
それからは見ての通りさ。ベアトリスがローザリアの近くにいる時に、メイドにベアトリスの仕業に見せかけて嫌がらせをさせ、最後の仕掛けは侍女が上手くやってくれた。
メイドと侍女のおかげでユリシーズやベルンハルトも上手く騙されてくれて、無事にベアトリスを流刑に処すことができた。ここまでは上手くいったさ。
ベアトリスには少し気の毒になったよ。とても良い子だったからね。別の形で会っていたら大切にもしてあげられたんだろうけど。
それより、次の問題が発生しているんだ。
ローザリアが僕に興味を持たない。僕にというか、誰にも心を開かない。ユリシーズやベルンハルトにもなびく様子を見せないんだ。
普段は大聖女っぽい佇まいなんだけど、たまに挙動不審で何を考えているかわからない。
でも裏でユリシーズとできている可能性、つまり僕が死ぬ可能性はゼロではないからとても困った。
ローザリア攻略に早急に専念するためにベアトリスを処分したんだけど、そのせいでゲームと違う展開になってしまい先も読めない。
もうユリシーズを始末するしかないかもしれない。ユリシーズを直接殺すか、どうせ死んでしまう父上を殺してユリシーズに罪をなすりつけるか。
どうせやるなら後者が良いだろう。早めに実行しなくては。
そんな風に僕は毎日悩んでいるんだ。さて、不毛な気もするがまたローザリアに会いに行くとしよう。
この小説はアルファポリスに以前から投稿していたものを少し改変しています。