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夜になるとオブシディアン様が帰ってきました。

きちんと歩けるようになっていたので、お礼も兼ねて挨拶に伺いました。


「オブシディアン様、おかえりなさいませ」


「ああ、君か。調子はいかがだろうか」


「おかげさまで歩ける程度には回復いたしました」


先日は確か疲労困憊で、小さな声でベアトリスとしか名乗っておりませんでした。よく見ず知らずの人間を助けてくれたものです。


「改めて自己紹介いたしますわ。私はベアトリス・テレーズ・マリアライトと申します。先日は命を救っていただき、ありがとうございました」


「こちらの都合でしたことだから気にしなくていい。今から夕食なのだが、君さえ良ければ一緒にどうだろうか」


お願いもありますので、丁度良かったです。

オブシディアン様と向かい合って夕食を摂ることになりました。


助けていただいた時は極限状態だったのであまり気にしていませんでしたが、見れば見るほど整った外見をしておいでです。


この人にずっと抱かれていたのかと思うとかなり照れ臭いです。あの夜は夢でも見ていたのではという気分になります。


「なんだか先日と雰囲気が違うな」


そんなことを考えていると、ご本人に話しかけられて私は現実に引き戻されました。


雰囲気が違うというと、話し方でしょうか。今の私が素の私なので、この話し方が自然に出てくるのですよね。


「いろいろと踏ん切りがついたものですから」


でもオブシディアン様が前世の話し方の方がお好きなようでしたら、少し複雑ですがそうした方が良いのでしょうか。


そう考えて、私の嫉妬が自分自身に向いているのが面白くて苦笑してしまいました。


「先日は元気な娘だと思っていたが、今はどこか気品が漂っていてそれも君の魅力だと思う」


なんだか嬉しい気持ちにさせられました。


オブシディアン様は必要なこと以外はあまり話さない方のようです。それからはお互いに黙々と食べていたので、気になっていたことを聞いてみました。


「オブシディアン様、軍師というお仕事はどんなことをされているのですか?」


「ガーネットから聞いたそうだな。君は私を転移門の門番だと思っていたとか」


オブシディアン様にちゃんと伝わっていました。私は思わずガーネット様を見ましたが、彼女は他所を向いていました。


「私の仕事は雑用だな。何をするというわけではなく、魔王様に指示されたことをするだけだ。非常に人使いの荒い方でな」


言われたことだけするイエスマンには見えませんので、謙遜しているか、はぐらかしておいでなのでしょう。


「すまないが、君を屋敷に運ぶところを見つかってしまい、魔王様に君と会わせるように言われた。後で話そうと思っていたが、近日中に城に同行してもらいたい」


「オブシディアン様がおっしゃるのでしたら」


「私としては君を隠しておきたかったところではある」


私としては彼らが口にする「魔王様」がローザリア様の攻略対象なのか一応見ておきたいのです。オブシディアン様の意図はわからないけれど、私は全く問題ありません。


まだ聞きたかったことを聞けていないので仕事についてもう少し聞いてみました。


「軍師とおっしゃるので戦争でもしているのかと思いましたわ」


「以前はそういうこともあったが最近は落ち着いている」


「人間が結界から出てこないからでしょうか?」


「確かにあの結界の中では魔力を行使することはできないが、侵入できないわけではない」


初耳でした。私もローザリア様の結界の中では魔法を使えませんから、あの結界はそれに特化したものだったのですね。


「ただ、転移門の向こう側など我々は戦争するほどの恩恵があると思っていない。我々が戦争をするとしたら、他の魔王の軍との縄張り争いになるだろう」


魔界は魔王同士の戦争があるようです。島を作ったり空を飛んだりしてしまう人達の戦争とはどういったものになるのでしょうか。


魔族は人間界に興味が無いようです。どのルートでも王国は魔族によって壊滅してしまうはずですけれど、やはり現実は少し違うのでしょうか。


復讐にご助力いただくアテが外れてしまうのではと不安になります。私はもう少しだけ食い下がることにしました。


「もし大聖女様の結界が消えたらどうしますか?」


魔族はローザリア様が魔力を失って結界を維持できなくなった時に侵攻してくるはずです。


オブシディアン様は何か考え始めたようです。


「先程から質問の意図がわからないな。君の冤罪の話と関係があるのか?もし復讐したい相手がいるなら協力しても良いが」


「え?」


いきなりオブシディアン様の方から復讐について言及され、逆に私が固まってしまいました。


私のような小娘の浅はかな思考なんてお見通しでした。しかも冤罪の話は先日ひとこと申し上げただけなのに覚えているなんて。素直に喜べば良いのでしょうか。


しかし、とてもありがたいお申し出です。私をあんな目に合わせた連中に復讐したい。それに手が届きそうなことを言われて、はしたないことに即座にお願いしてしまいそうになりました。


報復するとしたらまず教皇猊下か国王陛下でしょうか。彼らは100%関与しているのです。


次に王太子様、ローザリア様、ユリシーズ様のうちの誰かは使用人や侍女に指示を出していたはずです。


もちろんその使用人や侍女も、王族や大聖女の指示に歯向かうことができなかったにせよ、とても許せるものではありません。


私を力いっぱい組み伏せたベルンハルトも許せないし、私を殴り見捨てたお父様も許せない。


考えていると胸が張り裂けそうになりました。やはりまだ克服できていないようです。

泣き崩れてしまう前に、このくらいにしておきましょう。


「目つきが変わったな……図星か」


やはり顔に出てしまいました。これだけは自分でもどうしようもありませんね。あまり嫌な自分を見せたくないけれど、要望を伝えてみましょうか。


「確かに以前に申し上げた通り、私は冤罪で陥れられて魔の島に流されました。復讐に力を貸していただけないでしょうか」


「こちらから言い出したことだ。君に手を貸そう」


二つ返事で了承いただけで、逆に不安になりました。只より安いものは無いと申します。


「代わりに私に何かできることはございませんか?私にできることなら何でもいたします」


別に自暴自棄になっているわけではないのです。ここは私のターニングポイントだと考えています。


私に何が出来て、何の価値があるかわかりませんが。


「あまり軽々しくそのような事を言うのは感心しないな。そう身構えないでくれ」


「しかし無償で協力していただくのは……」


「逆に怪しまれているのだろうか?それならば、君を助けた理由でもあるのだが、君がこのままここにいてくれれば良い」


あまりにも虫の良い話だったのですが、これ以上追及して気分を害されても困りますので、私はそれを了承して食事を終えました。

この小説はアルファポリス様に以前から投稿している作品です。

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