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魔界に辿り着いたあと、夢の中で私はベアトリスと向かい合っていた。


ベアトリスは楽しそうに微笑んでいる。


ついにベアトリスに身体を返して私が消える時が来たのかもしれない。


「こんにちは、ベアトリスさん」

『ごきげんよう』


「なんとか無事に生き延びることができたね」

『貴女には感謝しなくてはなりませんね』

「役に立てたなら嬉しいよ」


『そろそろ前を向いて歩かなくてはいけませんわ』

「そうだね。やっぱり納得いかないからね」


『でもわたくしはお金で地位を買った王太子妃でしたから、皆さんに疎まれても仕方ありませんでした』

「それは貴女が自分で選べた道じゃないでしょ?貴女はそれを傘に着て尊大に振る舞ったりしなかったし」


『あの夜、王太子様を拒んでしまいました。嫌われて当然ですわ』

「こっちは初めてなんだよ?あんな下手くそ、こっちから願い下げでしょ」


『お父様もわたくしのせいで大変な目に遭いましたわ』

「娘を売って公爵位を得た父親だよ?おまけに娘に手を上げるどうしようもない奴じゃん」


『マリアライトの民はわたくしが上手くできなかったせいで飢えてしまいますわ』

「貴女の父親が欲を出さなければみんな平穏に暮らしていたはずだよ」


「はっきり言うけど、貴女は突然理不尽な目に遭わされて殺されかけただけで、貴女には何の落ち度もないんだ!」


私がそう叫ぶと向かい合っていたベアトリスが徐々に霧散していき、最後に彼女の声が響いた。


『その通りですわ。ですからそのように前世の人格の真似事などせず自分に誇りを持って、恥を知らぬ者達に然るべき罰を与え、ベアトリス・テレーズ・マリアライトの尊厳を取り戻しましょう』


そうでした。()()ベアトリスだったのです。


全てを失ったあの日から、前世の記憶と自分の力を出し切って死地を乗り越えました。


もう私は自分を見失いません。

目的ははっきりしたのですから。




見知らぬ天蓋のベッドで目が覚めました。

私はオブシディアン様の屋敷に運んでいただいたのでしたね。


窓の外では既に太陽が高いところにありますが、私はどのくらい寝ていたのでしょうか。


ガーネット様はいらっしゃるのでしょうか。お礼を申し上げなくてはいけません。


ベッドから降りて立ち上がろうとしましたが、よろめいて尻もちをついてしまいました。

なんだか身体がおかしいのです。すごくふらついてしまって立てません。


大きな音を立ててしまったからでしょうか、ドアをノックしてガーネット様が入ってきました。


「やっと起きたのですか。どうされたのです?」


彼女は床に座り込んでいる私を見て顔をしかめています。


「申し訳ありません、立ち上がることができなくて」

「そりゃそうですよ。貴女が来てから今日で3日目ですから」


ガーネット様が手を貸してベッドに座らせてくれました。


どうやら随分と寝過ごしてしまったようです。丸々2日は無駄にしてしまいました。


とりあえず私は彼女にお礼を言いました。


「ガーネット様、私はベアトリス・テレーズ・マリアライトと申します。昨晩……ではないですね、寝る前にはいろいろとありがとうございました」

「大したことはしていませんよ。まずは歩けるようになんとか頑張ってください」


ガーネット様はそう言ってから食事を運んできてくれました。再び手を貸して椅子に座らせてくれます。


「ありがとうございます」

「いいえ」


なんとなく警戒されている気がします。オブシディアン様にも素性をほとんど何も話していませんので、怪しまれても仕方ないですね。


主の命令とはいえ、こうして面倒を見ていただけるだけでも、ガーネット様には感謝しかありません。


せっかくなので用意いただいた食事を摂りましょう。寝ていた時間も合わせたら10日ぶりのまともな食事です。


寝る前に飲んだとても苦い栄養剤のおかげでしょうか、久しぶりの食事ですが胃は自然と受け入れてくれます。魔族は医学についても私達より進んでいるようです。


誓った復讐を必ず成し遂げる為には、私個人の力ではあまりにも非力です。相手は大国の王族や宗教の頂点にいる殿上人ばかりで、こちらもそれなりの用意をしなくてはならないでしょう。


オブシディアン様の素性は未だにわからないのですが、私が通常の流刑イベントで流された場合も彼に救われるのではないかと考えています。


王国は私を流刑にした後、健康なはずの陛下が必ず亡くなり、どのルートでも必ず魔族が攻めて来ます。


今の私の立場から考えれば、私を救ってくれる魔族に私が報復の助力をお願いしているのではないでしょうか。


良い反応が得られるかわかりませんが、出来れば早めにオブシディアン様にお会いしたいものです。

ガーネット様なら彼がどちらにいるか知っているかもしれません。


「オブシディアン様は今はいらっしゃらないのですか?」

「あの方はお忙しいので夜しか戻られませんよ」


オブシディアン様は魔の森の管理がお仕事と聞きましたが、なかなか多忙なのですね。


「また魔の森に戻られたのでしょうか」

「人間が言う魔の森とは、転移門があるところですか。あのような所には滅多に行かれません。ほとんど城にいらっしゃいます」

「魔の森の管理をしているとお聞きしたのですが、それが仕事じゃないんですね」

「はあ?」


ガーネット様は呆れたような顔をしています。


「貴女、何も知らずにあの方についてきたのですね。オブシディアン様は魔王様の軍師をされている、魔王の右腕とも呼ばれる側近中の側近ですよ」


屋敷の大きさや佇まいから只者ではないと思っていましたが、そこまでの立場の方とは好都合ですね。


「とりあえず早く食事を召し上がってください。終わったら着替えて歩行練習。いいですね」

「はい……」


それにしても魔王様の側近中の側近ということですが、なぜそんな方が私をここまで連れてきたのでしょうか。


それとオブシディアン様は軍師という肩書をお持ちだそうですが、魔王様の軍隊は何と戦うのでしょうか。私達人間は結界に700年以上閉じこもってるので、魔族と戦ったことはありませんし。


興味深いので、またオブシディアン様に窺ってみましょう。


食事を終えたので、着替えることにしました。来るときに着ていた服は処分されたようで、着替えは黒いワンピースが用意されていました。


「なんで女物のワンピースなんて常備しているのですか?もしかしてガーネットさんが貸してくださっているとか?」


「私達は大抵の物を魔法で作りますので。それはオブシディアン様が一昨日に置いていったものです」


……すごく便利ですね。

是非私も習得したいものです。


それから言われた通り歩行練習したところ、割とすぐに歩けるようになりました。ただ、筋力の低下は否めませんので、しばらくは習慣として運動はしっかりしようと思います。

この小説はアルファポリス様に以前から投稿しているものです。

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https://www.alphapolis.co.jp/
― 新着の感想 ―
[一言]  復讐を他人の力を借りて行うのは、虫のいい話ではないかと。  助けてくれた魔族に利点がないと思います。  話を切り出した時点で、見捨てるかと。
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