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男は闇のような漆黒の髪を肩まで伸ばした、恐ろしく端正な顔をした長身のイケメンだった。軍服のような服を着てマントをしている。


耳がとんがっているので魔族で間違いないでしょ。

私は感極まって再び涙腺が壊れたんじゃないかってくらい泣いた。


「君、本当に大丈夫か。自分で癒せるようだが、まだどこか痛むのか?」


男が困った顔をしている。

ごめんなさい、困らせるつもりは無くていろいろと感情を整理できないだけなんです。


私は気持ちと身体を落ち着けようと静かに深呼吸した。


「私はこの島の管理をしているオブシディアンという者だ」


これ以上黙っているのも失礼なので、私は体力の限界を感じながらなんとか声を絞り出した。泣きすぎたのが良くないんだけど。


「ベアトリスです。いろいろあって体力の限界で、こうしているのも辛くて」


本当に余裕がないので、そのくらいで口を動かすのが難しくなった。

失礼かもしれないけど黙っているよりはマシかな?


「ひゃっ」


オブシディアンが私の額に手を当て、次に脈を取った。思ったより冷たい手に思わず声を上げてしまった。


「失礼、見た感じ体力というよりは、魔力の枯渇による症状のようだ」


オブシディアンはマントから小瓶を取り出すと瓶の蓋を取り、私の上半身を支えて起こしてくれた。


「ゆっくりで良いからこれを飲みなさい。これは効果は薄い薬だが、話すくらいはできるようになる」


何の薬だろう。ちょっと恐かったけどちびちび飲んでみると、ほんのりと甘くて美味しい。


目を閉じると身体の奥に温かいものが少しだけ満たされた気がする。


さっきよりマシになったかも。


「ありがとうございます。えっと、オブシディアン様でしたっけ。私、本気で死ぬかと思いました」


私は今オブシディアンに支えられて上半身を起こしている。支えてくれないと、また地面に寝そべることになりそうだ。


「まだ自分では起き上がれないようだな。いろいろ聞きたいことがあるが、まずは休んでもらった方が良さそうだ。念のため聞くが、帰るアテはあるのか?」


魔界に連れて行ってもらえるみたいだ。でも、嬉しそうにしていたらまずいよね。


「帰るあても場所もありません」


嬉しくて仕方なかったけど、出来る限り沈んだ感じで答えてみた。


オブシディアンは少し厳しい目をして私を見ている。


「実を言うと、私は君をずっと見張っていたのだ」

「え、いつからですか?」

「君が島に来る前からだ。君は島の近くで魔法を使っただろう」


船の中で『キュア』を試した時かな?そんなに島に近くもなかったはずだけど。


「微量の魔力を探知した私はこの島に近づく船を発見し、船から君達が降りてきた。しかし君を残して船は去って行ったのだから驚いたよ」


完全に筒抜けでした。でも私この数日結構大変だったんだけど、見てるだけって酷くない?


「どうしたんだ。何か不満そうだが」


「どうして見てるだけだったのかなって。その、深い意味はないんですよ?」


オブシディアンの眉間のシワが増えた。この人、綺麗な顔してるけどちょっと怖いなあ。


「私に現れて欲しかったようだが、まさか君は人間が送り込んできたスパイじゃないだろうな」


「違いますよ!私、結構大変だったから、女の子がこんな目に合ってるのに見てるだけなんて薄情だなって思っただけです!」


スパイ疑惑よりはマシなので、もう本音をぶっちゃけてみた。焦ったので声が裏返ってしまった。


「なんだ、そのようなことか。島に迷い込んだ人間の救済など我々の領分ではないので、微弱な魔法を使う程度なら捨て置こうかと思っていただけだ」


一応スパイ疑惑は保留してくれたみたいだけど、そんなこととか言われたら複雑だよ。


「私が君に接触したのは君が強力な魔法を使ったからだ。人間であれ程の魔法を使えるのは大聖女しかいないはずだ。君は大聖女なのか?」


なるほど、隠しイベントでローザリアが拾われたのも復活した大聖女の力のおかげだもんね。


しかし随分とこちらの事情に詳しいよね。こちらは魔族についての知識はほとんど失われているのに。


「私が大聖女だったらこんなところに捨て置かれるわけないじゃないですか」


「それは道理だな。そこで最初の質問に戻るのだが、一緒に来た彼らは迎えに来ないのか?」


「私、冤罪で流刑にされたんですけど、話したらオブシディアン様は私を信じてくれますか?」


だいぶ疲れてきたのでちょっとマジな顔になってしまったかもしれない。

少しは自分で座ろうと力を入れてたんだけど、多分どんどん力が抜けてると思う。


オブシディアンは眉間を押さえると、観念したように私を抱き上げた。


「きゃわあ!」


所謂お姫様抱っこだ。そんなことをされたのは生まれて初めてだったので変な声がでてしまった。


オブシディアンの顔がすぐそばにある。私ろくにお風呂も入ってないし、服も1週間着替えてない。いろいろと恥ずかしすぎる!


「とりあえず保留だ。私の屋敷に運ぶからもう少し詳しく話を聞かせてくれ」


オブシディアンは空に舞い上がった。

さっきの崖より高く飛び上がり森に着地する。

魔族って空を飛ぶんだね!夜風が凄く気持ちいい。


遠くに淡い光の集まりが見えた。落ちる前に見たのはやっぱり魔界の門の光だったんだ。


「もう質問はいいんですか?」

「君からは邪悪な感じはしないから、一旦信用しよう。不調の君にここまで話をさせてすまなかった」


そんなオブシディアンの言葉を聞きながら、私は別のことを考えていた。


ローザリアの隠しルートの攻略対象はオブシディアンというキャラではなかった。攻略対象とはいっても攻略要素は無く、読むだけで勝手にエンディングまでいくのだけど。


この人は何者なのだろうか。


「オブシディアン様がこの森の管理をしているってどういうことですか?」

「ああ、起きていたのか」


返事をしないから寝ていると思われたようだ。考え事をしていました。


「この森は転移門をカモフラージュするために私が作った。森にあるものは全て魔力で作ったものだ。私も忙しいので四六時中見ているわけでもないが」


魔族は転移門って言うんだね。

ローザリアは魔族の王様に拾われるのに、私は門番に拾われるのかあ。大聖女優遇されすぎだよ。


すぐに、淡く光を放つ転移門に到着した。

この小説はアルファポリス様に以前から投稿しているものです。

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