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気がつくと、私は柔らかい草の上にうつ伏せになっていた。身体中が痛い。


なんとか仰向けになろうともがくが、左手は激痛がして動かないし、足は感覚がなくどちらも全く動かすことができない。


それでもこのままでは呼吸がきついし『キュア』も使いにくいのでなんとか身体を捻って仰向けになった。


「コホッ」


何かが喉につかえたので咳が出てしまった。口を抑えた右手を見ると血がついていた。肺か消化器官かわからないけど内臓もやられているかもしれない。


『キュア』


とりあえず左手を治すために魔法を使った。左手は動くようになった。


身体を触ってみると、脇腹に痛みがあるのと足だけではなく腰から下に感覚が無い。


上を見上げると、ここは3階建てのマンションくらいの崖の下だった。崖の上には緑の急斜面が少し見える。恐らく足を踏み外してあそこを転がって崖から落ちたのだ。


これ、頭から落ちてたら死んでたやつだ。血の気が引いた。足腰周りをかなり損傷しているから、その辺りから落ちたのだろうけど……。


『キュア』で治るか心配だ。案の定何度唱えても脇腹の具合と下半身の感覚が戻らないばかりか、どこかの神経が治ったのか脇腹の痛みが強くなり耐えきれなくなってきた。


まずい、このままだと死ぬ。


『キュア』には上位魔法があり、ゲーム中でも使われたはずだ。ベルンハルトやアルフレッドのイベントで、大怪我を治す時に使った魔法だ。


でも何度もクリアしたけどノベルゲームだけに戦闘で操作するわけじゃないし、全く気にしていなかったので魔法のスペルなんて覚えていない。『キュア』の前か後ろに何かついてたような気がするけど。


そんなことを考えている間にも痛みが酷くなっている。とりあえず適当に唱えてみよう。


『ハイキュア』

『パワーキュア』

『キュアガ』


いろいろ試してみるが、『キュア』の部分に反応していつもの癒しが発動するだけだ。


『キュアガンマ』

『キュアダイン』

『ベキュア』


偏っている知識を総動員してみたけど、この世界では通用しないようだ。


内出血して腹膜炎みたいになってるんじゃないかな。脇腹に激痛が走り始めただけでなく、血を失ったのか身体が辛くなってきた。


孤独死のフラグが立ち始めていたし、ここで怪我でスパッと死ぬのも楽かもしれない。ここまで痛いのは非常に嫌なんだけど。


ダメじゃん。ベアトリスの身体なのに。

私はもう少し粘ってみる。


『エスクキュア』


再び幾つか試して諦めかけていた時。

適当なスペルが当たった。ご都合主義万歳!


身体の奥の何かをごっそり抜き取られたが、目で見える程の魔法の光を発して、下半身も脇腹も含めて全ての不調が全快した。


危ないところだった。


ただ、元々体力の限界だったのに血を失ったからだろうか、もう身体が動かない。


仰向けのまま、なす術がない。もし少し寝ても動けなかったら、本当にこのまま野垂れ死ぬかもしれない。


結果的に元のベアトリスに悪いことしてしまったので凄くつらい。兵士について行けば死ぬことはなかったのだ。私がゲームの知識を確かめたくてここに無理矢理残っただけだから。


それに、やっぱりもう一度死ぬのは嫌だ。せっかく可愛く生まれ変わったんだし、一度くらい恋愛してみたい。


ここに来て、自分の本音に気付いてしまった。


悲しくて涙が溢れてきた。


「うええええ……」


涙だけでなく嗚咽が止まらない。別に誰もいないのだから気にしなくていいのだ。


こんなに泣けたのはいつ以来だっけ。病気の時も宣告された時に諦めるしかなかったけど、家族も病院の人もいたから感情も全ては出せなかったんだよね。


解決には繋がらないけど、泣くのって気持ちがいいなって思ったらますます泣けてきた。


ふと、辺りの雰囲気が変わった。


ローザリアの結界を通り抜けた時のような圧迫感を感じる。


「そんなに泣いて、どうしたんだ?」


いつの間に現れたのか、知らない男が私を見下ろしていた。

この小説はアルファポリス様に以前から投稿しているものです。

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