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突然ふわっと身体に軽く何かが当たって通り抜けた感触があった。ああ、これが結界なんだなとわかった。
不思議な感覚に少し硬直していると、ふと、女性兵士と目があった。
「どうかされました?」
「今、結界を通り過ぎましたよね?」
「先程そのように上の者が言いに来ましたね?」
「ええ、そうでしたわ」
話が噛み合わなかった。恐らくこの人は結界の通過を体感しなかったのだと思う。
それと、さっきから身体の奥に力を感じる。不思議な感覚だけど、さっき出来なかった事が今ならできるかもしれない。
私はベッドに戻って、兵士にバレないように小声でもう一回『キュア』を頬に使ってみた。
『キュア』(小声)
あ、なんだか頬が暖かい。成功したかもしれない。
頬に手を当てて確かめるとヒリヒリした感じはなくなっているし、舌で確かめると口の中が切れていたのが治ってる。
やったー!なんとか魔の島でも生き抜けそう。
つい小躍りしてしまったので、また兵士に怒られた。
これって、ローザリアの結界の中だと魔法が使えないってことだよね。ローザリアとベアトリスってとことん相容れない存在なんだね。
ベアトリスは結界の外なら魔法が使えるのだから、もしかしたら流刑にされてもローザリアみたいに魔族に助けられてどのルートでも魔界で幸せな生活を送ったのかも。
そう考えると、私が出しゃばる必要なんてないのかもしれない。元のベアトリスと私は全く性格が違うし、私が身体を奪ってる気がしてちょっと罪悪感を感じていたんだよね。
もし元のベアトリスが引っ込んでしまっただけなら、また機会があったら身体を返してあげよう。私はもう私の人生を終えてしまっているのだから。
そう考えると少し涙が出てきた。私の人生ってなんだったんだろう。突然の病気で終わってしまったけど、一度くらいゲームじゃない本当の恋をしてみたかったな。
私はベッドに顔を埋めた。たぶん涙ぐんだり考え込んだりしてるから兵士に変な風に思われていたと思う。
船はついに魔の島、レッド・ベリル島に到着した。
牢にいた私は到着するまで外観を見れなかったのだけど、上陸してみると結構広い島だった。見渡す限りは人工物らしきものは見つからない。本当に人は住んでいないようだ。
植物の生態系が大陸とは違うようで、森が不気味な感じに仕上がっている。まさに魔界の門があるという雰囲気だ。
私はここに1人で捨て置かれるのだが、魔界フラグを立てる気満々の私とは違って、私を置いていく兵士達はものすごく気まずそうだ。
そりゃそうだ。こんなところに16歳の女の子を野垂れ死ぬのがわかっているのに1人放置していくなんて、直接手を下さないだけで自分達が殺すようなものだ。リモート殺人?保護責任者遺棄致死?
早く島を散策したくてウズウズしている私を尻目に、こちらをたまに見ながら何かヒソヒソと話している。
早く行ってくれないかなあ。
「じゃあ……じゃない、では、わたくしは失礼いたしますね。おほほほ」
私が出来る限りベアトリスっぽく挨拶をして立ち去ろうとすると、兵士達が慌てて追いかけてきた。
「お待ちください!どこに行こうというんですか。こんなところで迷ったら本当に野垂れ死にますよ!」
いや、あなたの上司はもちろんそのつもりだし、あなた達もそのつもりで連れてきたでしょうに。
私がそう直接言ってやろうか返答に困っていると、ずっと私を見張っていた女性兵士が手を握ってきた。
「私たちは話し合って、殿下を一度大陸の僻地かどこか安全な島にお運びして、そこで名前を捨てて生きていただくということで意見が一致いたしました」
あ、それはかなり正しい意味での流刑だよね。こんな無人島に放置するとか中世以降はなかなかされていないし。一応死ななけりゃあなた達の良心も痛まないよね。
でも、そんなことをされたら困るなあ。なんとしてもお帰りいただかないと。
「それはお断りします」
「何故ですか?ここに残っても絶対に死ぬだけですよ」
「わたくしは今回のことに納得しておりません。生き延びればどのような手段を用いても復讐に参ります。そのとき、逃したあなた方に必ず罰が与えられてしまいますよ?」
「う……静かに暮らすより復讐しか考えていないとおっしゃるのですか」
兵士達は項垂れた。いや、辛いの私だからね?
この小説はアルファポリス様に以前から投稿しているものです。