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15. かわいさと尊さがマイジャスティス

 




 歓声と同時に、隣の席から声が聞こえてきた。



「レオンハルト様とユーフェミア様よ!!」


「今日もとても麗しいわね…」



 それと同時に、金髪と銀髪のキラキライケメンがカフェテリアに入ってくる。


 勿論、攻略対象の方である。


 金髪の方が、この国の皇子であるレオンハルト様で、銀髪の方が、この国の筆頭公爵家の次期当主であるユーフェミア様だ。


 2人は幼なじみでよく一緒に行動しており、家柄だけではなく、容姿も最高レベルであるため、学院で最も目立つ2人組だろう。


 叫んでいたのは、彼らのファンクラブの方々だと思われる。ちなみに、ヒロインがこの2人どちらかのルートに入ると、ファンクラブに応援されるか虐められるかはミニゲームと課金アイテムで稼げる魅力値による。


 美しい人ならば、2人の隣に並ぶことも認めるということだろうか。世知辛い。


 目の前で、



「うるさいわね…。こっちは疲れてるってのに…!」



 と呟いているルルカは、完璧に魅力値が足りているが、残念ながら、どうやら2人には欠片も興味がないらしい。


 理由は、ファンクラブの勢いが怖いということと、成り上がり貴族だと馬鹿にされたから死んでも嫌、とのことだ。


 レオンハルト様はファンクラブのことを誇らしく思っているナルシストキャラだし、ユーフェミア様は冷徹、身分重視キャラだけれど、根はいい子だから許してあげてほしい。


 前世の親友が言うには、レオンハルト様は「世界で1番俺が美しいと思ってたけど、今日からお前が俺の1番だ」というセリフがいいらしい。レオンハルト様ルートをクリアした友達が、深夜に「レオンハルトくんは自尊心回復サプリメントなんや…」と送ってきた時は若干引いた。


 ちなみにユーフェミア様推しの友達は、「自分の貴族の血にしか価値がないって思ってたユー様が、それを投げ捨てて、ヒロインのために危険を冒して助けに来るんだよ…。尊すぎない!?これは恋…」と送ってきた。どっちもどっちである。


 私には全く分からないが、友達の性癖にはザクザク突き刺さったらしい。まぁ、刺さる人には刺さるのでしょう…。


 確かに2人も顔がいいけれど、やはり私のメア様が1番だなぁ…と思ってしみじみとテラス席に座った2人を見ていると、後ろから聴き慣れた声が聞こえた。



「リゼ。偶然だね」



 メア様である。今日も顔がいい。今日のメア様も圧倒的優勝である。朝ぶりのメア様の供給に、ついつい頬が緩んでしまう。



「メア!カフェに来るの珍し……あっ」



 私は、うっかりいつものように話してしまったので、口を押さえてすぐに言い直した。



「メア様、カフェにいらっしゃるなんてどうなさったんですか?」


「……別にいつもみたいに話してくれたらいいのに」


「いや、これは私のけじめですので…!!」



 私は、ぐっと握り拳を強く握った。


 そう、これは私のけじめなのである。


 メア様にはこの学院で好きな人を見つけてもらって、その人に本当の婚約者になってもらわなければならないのだ。それなのに、私がメア様と親しげにしていたら妨げになる。


 そのため、私が婚約者だということは周りには秘密にしているし、私がメア様の屋敷に住んでいる理由も、ブランシェット家が庶民である私の支援をしてくれているからだということにしている。


 だから学院内では、メア様には敬語とメア様呼びで、距離を表すことにしたのだ。しかし、心の中ではいつもメア様呼びだし、泣く泣くタメ口にしていたので少しも苦ではない。いや、むしろ本来の姿がこれだ。



「メア様もお昼休憩ですか?」


「そうだよ。…リゼも?」


「はい!そういえば、総合魔法科は今日テストがあったんですよね?お疲れ様でした!」


「ありがと。ここ座っていい?」


「勿論です!」



 そう言って、メア様はルルカにも一緒に座ってもいいかを確認して私の隣の席に座った。

 ちなみにルルカは、私のお向かいに座っている。


 そして、それを見て周りの女の子達が少し騒ぎ始めた。そうでしょう。私のメア様は最高にかっこいいでしょう。彼、私の推しなんですよ…ふふふ…。メア様が褒められると、私まで誇らしい。


 最初は黒髪だということで避けられていたメア様だったが、何せ顔が最高だし、家柄もいいし、成績もいい。そんなメア様に、ファンクラブとまではいかなくても、密かに憧れている女の子は多いのである。これならすぐに本当の婚約者も見つかるだろう。私の一推しはルルカですけどね!!


 そう思ってルルカとメア様が話せるような話題をふり、にこやかに話している2人を見てうっとりとする。


 スチルだ。動くスチルが目の前にいる。しんどい。眼福すぎて楽しい。お布施を、お布施をさせて欲しい。


 しかし、拝むように両手を目の前で合わせた私を見て、ルルカもメア様も呆れたような目をしていた。どうして。


 するとメア様が、何かを思い出したような顔をして口を開いた。



「そういや僕、今日のテストも満点だったんだよ」


「そうなんですか!?流石です…!」



 やっぱりメア様はハイスペックすぎる。


 私の言葉にふふん、と得意げな顔をしたメア様が今日も最高に愛おしい。私にはキラキラのエフェクトやフィルターがかかっているように見えた。尊い。やっぱり、他の攻略対象の方とは輝きが違うように思えてしまう。



「だからね、ご褒美欲しいんだ」


「…ご褒美ですか?」


「うん。……僕の頭撫でて褒めて?」


「〜〜ッッッ!?」



 はい、でました。メア様お得意の上目遣い。


 習得されたんですか、今日も完璧ですね、そうですか、尊いですか…。


 銃で撃たれたように胸を押さえる私を、ルルカは残念な子を見る目で見ていた。きっと私の考えていることがわかっているのでしょう……。いや、撃たれたんですって。ほんと。メア様にやられたんですって……!!


 しかし、ここは学院のカフェ。私とて周りの目が怖い。


 毎回毎回、メア様の上目遣いにやられている私だけれど、今回ばかりは…!!



「あの…メア様。ここはカフェでしてですね…?」


「そうだね。カフェだね?だったら何でダメなの?」


「えーと…」


「なんで?褒めてくれないの…?

リゼのために頑張ったのに…??」



 …ッやっぱりダメだ。どう足掻いても、私はこの顔と声と…最早メア様という存在そのものに弱くできている。オタクは治らない。


 気がついたときには、私の口は動いていた。



「とっ、とてつもなくすごいです!!

 すごい!!天才!!!!かっこいい!!」


「ふふ…。ん」



 すると、私の言葉を聞いたメア様がとろけるように笑って、撫でろとばかりに頭を差し出してくる。


 くっ、顔がいい…。そして逃げられない…!!



「メア様はすごいです!偉いですね、頑張りましたね…!」



 まさに全肯定オタクである。


 震えて動かない手を強引にもう片方の手で動かして、ぎこちない動きでメア様を撫でると、メア様は気持ちよさそうにスルリと私の手にすり寄った。ひぃ…仕草までかわいい…。


 泣きそうな顔でルルカを見つめると、ルルカはしれっと午後の授業の予習を始めていた。最早私のことなんて見ていない。見捨てるのが早すぎる…!!私達、友達じゃん!!!


 しかし、そろそろ周りの目が痛いのは確かだ。



「あの…メア様、これはいつ止めればいいんでしょう…」


「んー…いつまでも?」


「はい!?」


「うそ。満足した。ありがと」



 メア様はペロリと舌を出して、すました顔でコーヒーを飲み始めた。


 はーーーっ!その仕草、好きすぎる!!

 御馳走様です、しかし、軽率にやられると死んでしまうので、イケメン度致死量保持者の自覚を持っていただきたい…!!


 と、悶え死ぬ一方で、『また今日もしてやられてしまった…!』と思っている自分もいたりする。


 帝国に来てから、メア様にからかわれてばっかりだ。メア様がかわいすぎて私が怒れないことが悪循環になっている。


 だって、こんなかわいい生き物に注意できる!?出来ないよね!?かわいいと尊いがマイジャスティス。

 最早、私をからかうことでメア様が笑顔になってくれるならプライスレスか…とまで思っているのだが、流石に私の心臓がもたない。


 ルルカに相談したら、「別にどうでもいいし、野放しにしてるリゼが悪いんじゃないかしら」と言われた。あれ、ルルカと私って友達だよね…?


 それからしばらく、予習をやめてくれたルルカとメア様と、今日あったことや趣味の話をして楽しんだ。


 そして、話していると喉が渇いたのか、メア様が私のカフェオレに手を伸ばした。



「リゼ、カフェオレちょっと貰っていい?」


「はい!?自分の飲み物があるじゃないですか!」


「だってカフェオレ飲みたい気分だもん。…ダメ?」



 首を傾げてカフェオレを持つメア様があざとい。「ダメな訳がない」と言いたくなるが、こればっかりは即答できなかった。



「…ダメというか…!!」



 それ、私が口つけちゃってますが!?


 私は何を言い出したんだとメア様を見つめたけど、メア様は何でもないような顔でこちらを見ている。え…?おかしいの私…?


 それとも、もしかすると私のことをまたからかってるのかもしれない。そうだ、メア様はリゼ(私)をからかう常習犯なのだ。私が断固拒否したら、また「冗談だよ」とからかわれるかもしれない。


 それなら、逆に許可したらメア様も慌てるのではないだろうか。私だって、やられてばかりではないのだ!

 そう思って、「ダメじゃないです。飲んでいいですよ?」と、目一杯表情を殺して言うと、



「ありがと」



 と微笑んで、あっさり私のカフェオレに入っていたストローを口に咥えた。意味がわからない。


 えっ、それ、間接キスですよ!?と思ったし、叫びそうになったのだが、メア様に何も変わった様子は見れない。それどころか、「カフェオレも美味しいね」とか言って笑っている。理解が追いつかない。


 いやいや、メア様にとっては、薬屋で一緒に住んでいたときに私と食べ物をシェアしていた感覚と同じなのかもしれない。家族的な意味で。えっ、でもストローだよ?食べ物シェアとは話が違くない…?


 すごい速度でいろんな考察が頭の中を駆け巡るが、解決案はでない。


 もう1度ちらりとメア様を見てみたけれど、涼しい顔で昼食のパイ包みを食べている。


 え…。もしかして、間接キスとか意識してるの私だけ!?それならもっと恥ずかしいんですけど!


 熱くなる頬を、パタパタと手で扇ぐけれど、何も風がこない。そんな私を見て微笑むルルカとメア様。2人とも顔がいいだけに、心がとてもしんどい。


 ルルカはまだいいけど、私の顔が熱くなってるのはメア様のせいなのに、メア様のせいなのにッ…!!


 その空気に耐えられなくなった私は、



「ちょっとデザート食べたいから買ってくる!」



 と叫んで席を立って、カフェへアイスクリームを買いに行った。頬の熱さが収まらない。何かで冷やさなければ……!!


















「何でメアリクス様が、あんな顔を一般生徒に向けてるの…?あり得ない…!」







 早くクールダウンしたいと急いでいた私は、呟かれた小さな声に気がつくことはなかった。








〜リゼが席を立った後の会話〜




「メア様、お顔が赤いようですが大丈夫ですか?」


「……うるさいな。それに、メア様って呼ばないで。リゼにしか許可してないから」


「申し訳ありませんわ。リゼと話す時だけメア様と呼ぶのは混乱してしまって」


「それにしても、何でいつも君がいるわけ?空気読むって言葉知ってる?」


「さぁ…。元々は私とリゼで昼休憩を過ごしているのですから、メアリクス様がご遠慮なさればよろしいのではないかしら」




実は2人は、リゼを争って水面下でバチバチしていたりします。


ルルカがメア様に敬語?貴族語?なのは、学院内では皆平等と言えども爵位の差がそこで出ているからだったりします。リゼがルルカにタメ口なのは、ルルカ本人の強い希望と、咎める人間が周りにいないからです。2人とも、他に知り合いがほとんどいないので…!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 大げさ過ぎるアンチがおらず みんなかわいい‼ [気になる点] 全編拝読しましたが 〜リゼが席を立った後の会話〜 前の呟かれた小さな声が 誰だったのか分からず(>_<) 読解力が無くてスミ…
[一言] 毎話楽しく、ノーストレスで読めている貴重な作品なので、メア様狙いの嫌な女が出て来ないといいな~と、ちょっと不安に思いつつ(^o^;) 続き楽しみにしてます♪
[良い点] メア様!それ濃厚接触ですよ! [気になる点] でっ、でたー! キャラゲーあるある「うちの子が一番尊い!」現象だー! [一言] リゼさん?友達に引いたって… ご自分の行動思い出してみ? やは…
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