14. 解釈の余地がある奇跡
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「ルルカ〜!次の講義、何かわかる?」
「んー…次は魔法史だから、移動教室だったと思うわ」
「嘘!?準備してない…」
「早くしないと置いていくわよ」
「ひどい!少しは待ってくれたって…!」
私は慌てて教材を持って、友達であるルルカを追いかけた。
今日で、学院に入学してから3ヶ月が経つ。
すっかり友達も出来たし、授業にも慣れたし、カフェのご飯はおいしいし、楽しい学院生活を送っている。
周りはやっぱり貴族ばかりで、虐められないかと不安だったけれど、ここはアルトフェリア学院。平民でも、この難関学校に受かったすごい奴として認めている貴族が多く、そんなことにはならなかった。ルルカも貴族だけど、私と仲良くしてくれているし。
それに、学院内ではみんな平等だということで、やはり身分を意識してしまうことはあるものの、フランクな会話が許されているのも助かっている。
さらに、授業は難しいけれど内容はとても充実していて、この学院に入学できてよかったと本当にしみじみと感じていた。
これでメア様の供給が減らなければ完璧だったんだけど。
私は心の中で呟いて、そっと溜息をついた。
といっても、別に喧嘩をしたとかそういったことではない。
メア様は総合的に魔法を勉強する総合魔法科で、私は何か1つに特化した魔法を勉強する特殊魔法科であるため、クラスが違う上に選択授業も違うのだ。そのため、同じ学院に入学したのに接点がほとんどない。
毎日同じ薬屋さんで働いていたときは、24時間ノンストップでメア様を愛で放題だったことを考えれば、びっくりするほど供給が減ってしまったように思える。干からびそうだ。
そんな私を支えているのが、友達であるルルカの存在と『今日のメア様』のコーナーだった。
私は、先を歩いていたルルカの横に並んで真面目な顔でニュースキャスターのような口ぶりで話しかける。
「はい、今日も始まりました!『今日のメア様』」
「最早シリーズ化してるのね、それ…」
満面の笑みでルルカに話しかけると、呆れたように眉を顰めながらも話を聞いてくれる。
「今日のメア様はですね、朝ご飯に、美味しいパンケーキが出たから少しご機嫌でした。パンケーキで笑顔になるメア様を保護したいなぁ、と切実に思いました」
「今日も最初のエピソードから強いし、絶対にその人は私の知っているメアリクス様ではないと思うわ…」
「さらにですね、髪の毛が跳ねているから整えて欲しいと言われて死ぬかと思いましたが、震える手で直しました。美しかった、今日もいい匂いがしてしんどかった。あ、ちなみに今日もメア様の髪の毛はサラサラで艶々だったことを報告します。ありがたい…!」
「別にそんな報告はどうだっていいのだけれど…。それに、サラサラで艶々なら髪が跳ねるわけがないと気がつかないのは何故かしら」
「……えっ待って、その考えには気づいてなかったんだけど!?そうだよね、普段は寝癖なんてついてないもんね…。昨日は髪の毛が跳ねるような寝方をしたってこと?まさか寝不足とか…?そういや今日って総合魔法科のテストだっけ?
…まさか、眠い目をこすりながら勉強してたとか!?はい、もうかわいい。見てないけどわかる。愛おしい。解釈の余地がありすぎる…!!妄想が捗りますね!ルルカって天才!?」
「違うわね…。私が言いたかったのは誰かさんにとってもらうためにわざと…いや、これ以上言ったら殺されそうだからやめておくわ」
「誰に!?」
ルルカは呆れたように溜息をついている。
それでも、「それで?」と続きを聞いてくれるあたり、本当にいい子なのだ。
パッチリ大きな目、滑らかな肌、リップなんか塗らなくても薄く色づいている唇と、花が咲いたような美貌に、肩まで伸びた薄桃色のサラサラのストレート、モデルのようなスタイル、成績優秀、品行方正、そして伯爵家の令嬢ともなれば、文句のつけようがない。
そんなルルカと私が仲良くなったのは、ある授業がきっかけだった。
2人ペアで課題を仕上げる授業だったのだが、周りは貴族社会で知り合っているのでドンドンペアが出来ていき、焦っているときにルルカが声をかけてくれたのだ。
後でどうして私に声をかけてくれたのか聞いたら、自嘲気味に「私は成り上がり貴族なのよ」と言っていた。
どうやらルルカの家は伯爵家とは言えど、元々は子爵家だったのが、最近商会業で大成功して爵位の上がった新興貴族であり、成り上がり貴族などとひどいことを言っている人もいるようで相手が見つからなかったらしい。
ルルカの家の商会が台頭したことで被害を被った家も多いそうで、貴族はいろいろと複雑なんだなぁ…と思った。
しかし私は庶民で、しかも他国から来ているため、ルルカに何の恨みもなく、むしろ「綺麗だし頭もいいし、優しいし、私が隣に並んでもいいんですか?本当に?いいの?推せる…!」といった感じだったため、すぐに仲良くなれたのだ。
最初は貴族様ということで遠慮したりもしていたのだが、今では私のメア様語りを聞いてくれるほどに仲がいい。
しかし、ルルカのスペックを聞いて察した人もいるだろう。なんと、私のメア様語りを聞いて呆れたように笑っている彼女は、『マイプリ』のヒロインである。
マイプリのヒロインのデフォルトネームはルルカ=クレセントだったのだが、ルルカが入学するのは総合魔法科だったはずだ。何故なら、攻略対象は1人を除いてみんな総合魔法科だからである。
ちなみに、除いた1人は特殊魔法科の生徒だが、その攻略対象はあまり授業に出ない奔放キャラで全然授業にいないため、出会う場所は学院内ではない。
それに、ゲーム内ではルルカ視点で話が進むため、ルルカ=自分であり、ルルカの姿は画面に映らない。映っても、スチルに後ろ姿が映っているだけだったりする。だから、容姿が不明だったというのも言い訳として言わせて欲しい。
だからこそ、油断していたのだ。
あの"ルルカ"が、特殊魔法科にいるわけがないと。そして、家名を聞かずに仲良くなって、メア様語りをし始めた頃に、本物のルルカ=クレセントだと気がついた。最早手遅れである。
それにしても、私が『ヒロインのルルカ』に抱いていた通りの容姿で感動した。解釈一致すぎる。マイプリの制作会社に感謝状を送りたい。
ちなみに、ルルカが転生者の可能性も考えて、どうして特殊魔法科を選んだのかを尋ねてみた。すると、総合魔法科にも受かっていたのだが、魔法庁に勤めるよりも家の商会を継いだ方が家のためになるし、自分はそこまで魔法が得意なわけではないから、といった理由らしい。
ゲームでは問答無用で総合魔法科に入学したところから始まるため、そんな裏設定があったのか…と素直に驚いた。いや、確かにこんなにかわいいヒロインなのに、全然友達が出てこない理由は何だろうって思ってたけどさ。
実は、彼女は魔法が不得意なわけではなく、適性のある人が少ない治癒魔法が使えるから他の魔法が使いにくいだけなのだが、それは特定のルートで魔力が覚醒した時の話でしか明かされない話なので、私が伝えるわけにはいかないと思って黙っておいた。
本人は今の道を選んで満足しているみたいだし。ルルカにも意志があるのだから、ルルカがどの道を選んでも自由だ。
という訳で、どうやらルルカは転生者ではないらしい。いや、そもそも転生者ならば、私のメア様語りを聞いた時点で私に転生者かどうか確認をするだろう。
そして、まさかヒロインにメア様を語っているとは思わなかったため、やめようと思ったのだが、ルルカ自身が「意外と楽しくなってきたから聞いてもいいわ」と言ってくれたので続けている。
あわよくばルルカが私の話からメア様を気にしだして、恋をしてくれるなら大成功だ。
だって、私はどっちのことも好きだし。
2人なら家柄も釣り合っているし、画的にも完璧なコラボレーションだ。想像しただけで尊い。泣ける。
それに、ルルカになら安心してメア様を任せられる。ゲーム内でも、最後のメア様を抱きしめるシーンは最高だったし。前世では本当にお世話になりました。
多分、60周ぐらいやり直しました。いや、贔屓目じゃなくて、本当にあれは神シナリオだったと思う。
そう思って、うんうんと頷いていると、魔法史の教室についていた。さぁ、今日も勉強、勉強!と気持ちを切り替えて、私は教材を机に広げた。
「疲れた体にカフェオレが染みる…!!」
「そうね…。魔法史は眠くなる自分との戦いだから、私も疲れたわ…」
午前中の授業が終わった私達は、学院併設のカフェに来ていた。ちなみに、ゲーム内では課金ショップになっていたため、何度も訪れている馴染みの場所である。
現実ではちゃんと食べ物を売っていて安心した。いや、もちろん、限定ストーリーとか、ガチャ石とかを売ってくれてもいいんですけどね…。買いますけどね…!!いくらでもお布施、しますけどね…!
私はカフェオレとキッシュを、ルルカはコーヒーとサンドイッチを注文して、空いている席を見つけて席についた。
魔法史はおじいちゃん先生がひたすら魔法の歴史を語る授業なので、本当にルルカの言うとおり睡魔との戦いである。午後の授業は魔法実験学で体力を使うため、ここで回復しておきたい。
そして、息抜きにたわいないことを話しながら昼食をとっていると「キャーー!!」と、女の子の歓声が聞こえてきた。
今回はメア様要素少なめになってしまいましたが、次回はちゃんとメア様が登場します…!!