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9. 推しが何でもしてくれるって言ったからぁ!

 






「……は? 何? リゼ、彼氏欲しいの?」


「ッ!?」



 唐突に聞こえたメア様の声に驚いて上を向くと、メア様が苛立った様子でコチラを見ていた。



「え、メアどうしたの? 何か嫌なことでもあった??」


「嫌なことっていうかさ……。彼氏って何?? 好きな人がいるってこと?」


「何って……別に。メア、顔怖いよ?」


「別にって何? 僕より好きな奴でもいるわけ?」



 なんていうか、魔王様オーラが出てる。顔の綺麗な人が怒ると、何故こんなに迫力が出るのだろうか。


 そもそも、「何?」と聞かれて、「あなた様に笑われないように彼氏が欲しかったんです」なんて言えるわけがない。


 そう思ったのだが、メア様が睨むようにコチラを見てくるので、私はついつい白状してしまった。



「いないよ!? 私が1番大切なのはメアだし……えーと、何っていうか……。いつまでも彼氏出来ないのはあれだなって思って。やっぱり、精霊祭を歩いてるとさ……ね?」



 そもそも私、なんで推しに自分がモテない話しないといけないの? 泣きそうなんだけど。


 もうこれ以上いじめないで欲しい。


 そう思って、涙目でメア様を見上げると、メア様はなぜか顔を赤くしていた。



「え、いや、…そうだよね。早くしないと…」



 何を早くするというのか。よく分からないが、メア様は何故か決意したような顔をして呟いた。



「準備も大分整ってきてるし……。来年までには、頑張るから」



 えっと、何を…?


 私には何のことかよく分からなかったが、この流れで何を?とぶっ込めるほど空気が読めないわけではないし、何やら納得しているようなので、曖昧に笑って「そうだね」と言っておいた。


 生きていて1番大事なのは、「それな?」という同意の言葉なのだ、と言っていた親友の言葉を思い出したからだ。


 しかし、それでも、メア様と私の間の絶妙な空気は消えなかった。


 この空気、よくない。どうにかしてこの空気を断ち切らなければ。それに、このままだと焼きそばが冷めてしまう。


 そう思った私は、不自然に言葉を切り出すことにした。



「お、お腹空いたなぁ〜。メアはお腹空いてない? ほら、冷めちゃう前に焼きそば食べよ?」


「……そうだね、食べようか」



 焼きそばは、いつも通りとても美味しくて、しかも隣に笑顔で頬張る推しがいるから、1人で来ていた去年よりも美味しく感じた。食べている間に、ぎこちなかった空気も元に戻ってきてほっと胸を撫で下ろす。


 やっぱり、誰かと食べるご飯は美味しいのだと再確認する。もちろん、その相手がメア様だからだというのもあるのだけれど。


 焼きそばを完食した私達は、その流れで林檎飴、たこ焼き、かき氷と精霊祭ならではの食べ物を制覇する。


 そして定番の射的をやったり、金魚すくいをやったりと、いろいろ挑戦したけれど、私の戦績は全てメア様に負けていた。悔しい。


 でも、私に勝って、「当然でしょ?」と無邪気にニコニコしているのが隠せていないメア様がかわいすぎてもうそんなことどうでもいい。











 しかし、推しとお祭りを回る、という夢のような時間はすぐに終わってしまい…気がついたら夜になっていた。


 精霊祭の最後のメイン、花火の打ち上げの時間である。



「うわ……。人すごすぎない?」



 そう言ったメア様は、「暑苦しい」と付け足してパタパタとフードを仰いだ。


 この街の人はもうメア様の黒髪に慣れてきたらしく、最近では街を歩いていても何も言われないのだが、今日は祭りだということで他の街からもたくさん人が来ている。トラブルに巻き込まれるのは御免なので、今日はフード装備メア様なのだ。


 夏なのに、黒髪を隠すために深くフードをかぶっているメア様は随分暑そうだった。



「確かに暑いよね……。もう1個かき氷食べる?」


「ん。買ってこよっか」



 そうして買ってきた、本日2つ目のかき氷をしゃくしゃくと頬張りながら、花火が始まるのを今か今かと待っていると、メア様が口を開いた。



「……リゼの作ったポプリ持ってる人、いっぱいいるね」


「え、ほんとに!? 使ってくれてるんだ…! うれしすぎる…!」



 周りを見渡すと、祈るように私の作ったポプリを握っている女の子達がたくさんいた。これは、製作者冥利に尽きる。



「みんなに、効果があるといいなぁ……」



 恋する女の子の願いが叶いますように。きっとここには、今日に全てを懸けている女の子もいるのだろう。


 そんな彼女達の背中を、私のポプリが少しでも押せていたらうれしいな。そう思ってニコニコしていると、メア様が口を開いた。



「……リゼっていつも人のことばっかりだよね。ほんと、お人好しすぎ」


「そう? そんなことないよ」



 と、答えたはいいものの、だから私には彼氏が出来そうな兆しもないのか……と思い直す。


 今世は結婚したいです、精霊様!!!


 私は、自分の分にと持っていたポプリを握って念をこめた。すると考えていることが見抜かれたのか、メア様はクスクスと笑い出した。



「そこがリゼのいいところなんだけどね?」



 そして、スッと私の手を握る。



「離れたらヤダから、手、握ってていい?」


「……!?い、いいけど」


「ふふ、よかった」



 なんだ。なんなんだ、この生き物。顔が真っ赤に染まるのがわかる。


 こんなことされて生きてる人いるの??? メア様が女誑しになってしまわないか、私はとっても不安ですよ!?!?


 そんな私の考えが伝わったのか、メア様が何かをポケットから取り出して空いている手に握り、こちらを向く。



「リゼ」


「……な、に?」



 そのメア様の顔があまりに真剣に見えて、なんだが口を開けなくなってしまった。


 なんで私、こんなに緊張してるんだろ。


 ドクドクと心臓の音が耳に響く。


 まさかポプリの効力が私にも効いているのだろうか、と思ったが、推し様と手を繋いでるんだから緊張して当然か、と思い直す。


 画面越しでも限界だった私に、3Dメア様は刺激が強すぎるのだ。


 私は、自分を強引に納得させてメア様の目を見つめる。すると、見つめたメア様の目は熱に熟れたようで、何だか妙に緊張してしまった。



 この空気は、確実に心臓に悪い。



「あのさ、」ドォオオオオオン



 しかし、結局その言葉の続きを聞くことは出来なかった。


 早く言ってくれないかな、と思っていると、メア様が何かを言いかけたタイミングで大きな音が響いたからである。


 慌てて空を見ると、空一杯に光の花が広がっていた。花火が始まったのだ。



「わ、メア、上見てみて! すっごい綺麗じゃない!?」


「あーー…。うん、そうだね……。もうどうでもいい……」



 と、興奮気味にメア様の方を向くと、メア様は何だか不満そうな顔をしている。返事もなんだか、投げやりだ。


 メア様はそれからも、少ししかめ面をして花火を見上げていた。


 さっきは何か大切なことを言おうとしていたのではないか、と後で聴いてみたけれど、「もういい」と言ったメア様は完全に拗ねてしまっていた。とても気になったけれど、結局私には教えてくれないままだった。









 それからさらに買い食いをして、家に帰ったころにはメア様の機嫌もすっかり直っていた。まだ少し不服そうだったけど。


 そして、休憩してから今日のポプリの売り上げを調べていると、去年の8倍近くの儲けになっていた。ぼろ儲けである。


 しかし、



「まさかこんなに儲けが出るなんて……。来年はもっと数を増やして売っちゃおうかな〜! 私ったら天才!」



 と、鼻歌を歌いながらメア様に言うと、



「リゼ。このポプリ、効果ないから来年は違うのを売ろう。こんなの意味ないよ」



 と言われたことは解せない。

 メア様の何に気が障ったというのだろうか。


 私としては、学費のために来年も売りたいのだが、メア様が猛反対するのでは仕方ない。


 来年はポプリではなくて、より効果をあげて、恋に効く薬草を練り込んだ、恋が叶うケーキとかクッキーとかを売ろうと思う。












 それから、数週間後。


 試作品として作った、恋の叶うフォーチュンクッキーは完売。


 さらに調子にのった私は、ついにお店で『恋が叶うシリーズ』のレギュラー販売を始めた。そしてそれが予想以上のヒットを出してしまい、メア様と連日大忙しになったのである。


 メア様は、「こんなものに効果はない」と、苦々しい顔で時折吐き捨てるように言っていたが、ちゃんと薬効のあるものなので詐欺ではない。


 それは、商品を買ってくれた人への聞き込みでも確実なのだが…彼は、何故そんなに恋愛グッズシリーズに厳しいのであろうか…。








 そして勿論、あの約束も叶えてもらった。



「ねー、メア。あの約束、忘れてないよね?」


「約束?」


「ほら! ポプリ作りきったら、なんでもお願い聞いてくれるって!!」



 そう、推しがオタクに言っちゃいけないセリフランキングぶっちぎりの一位の約束のことである。


 メア様は、「そっちこそ忘れてなかったの?」と笑って、私の隣に座った。



「いいよ、リゼのお願い聞いてあげる。何がいいの? 手つなぐ? 抱きしめる?? 僕に出来ることなら何でもしてあげるよ」


「え!? あ、ちょっ…」



 メア様はそう言って、私の手を握り、私の背中にスルリと手を伸ばそうとした。


 祭りの時は緊張でよく分からなかった、メア様のスベスベの肌の感触が伝わってきて顔に熱が集まるのがわかる。


 私は慌てて立ち上がって、メア様を避ける。



「ちょ、ちょっと!!! メアさん! ?自分の安売りはしちゃダメだよ!?」


「えー? 安売りじゃないけど? リゼだったら、僕に何してもいーよ」


「なっ!?」



 それなのに、メア様はそう言って、クスクス笑っているから困ってしまう。どうしよう。私のメア様、いつからこんな子になっちゃったの。


 まぁ、そんなメア様も勿論、尊いオブザイヤー優勝なんだけど。いつもは愛おしくてかわいいメア様が、何だか色っぽく見えて、心臓がドクドクと音を立て出すのを感じる。


 繋いだ手の先から、熱が伝わってくるような気がした。



「メアは綺麗で最高に顔がいいんだから、そんなこと言ったらダメだよ…!!」



 そんなこと言われたら、自分を抑えられなくなりそうだ。そう思って手を振り解こうとするが、メア様は一向に手を離してくれない。



「何それ、またベタ褒めじゃん。なのに、何で…?」


「え?」


「いや、なんでもない。ほら、早く願い事言いなよ。僕がなんでも叶えてあげるから」



 そう囁く、メア様の美しい顔を見ていると、何だかクラクラしてきた。




「本当に、いいの…? それなら、それなら…!!!!」




 私は、メア様の手を強引に振り解いて部屋に駆け込んだ。そして、クローゼットから数着服を引っ張り出してリビングへ戻る。



「……何それ」



 メア様は、私が手にしているものを見て顔を歪めた。



「何って……メアに着て欲しい衣装、ベスト10だよ!!! 自信作ばかりなの!!」



 私はそんなメア様に気づかないふりをして、手にしていた衣装を広げた。


 目の前に最高の推しがいるので、溢れる創作意欲が止まらずに、メア様が着てくれなくなっても作り続けていたのだ。



「なんかスケール上がってない?」


「ふふ、創作意欲が止まらなくて…! だってメア、なんでもしてくれるんでしょ?」



 メア様はすごく嫌そうな顔をしているけど、私がこのチャンスを逃すはずがない。


 だって、執事服とか、騎士服とか、軍服とか、ゲームでは見れなかったメア様の新衣装がたくさん見れるということなのだ!


 今まで、メア様に迷惑をかけてはいけないと隠してきたけど、今日やっと日の目を見るときがきたのである。


 ね、ね! と、ジリジリとメア様に迫ると、「こんなはずじゃなかった」や、「いや、やっぱりこれでよかったのかも」と、意味のわからないことを呟きながら結局は着てくれた。


 新衣装のメア様はどれも最高にかっこよくて、鼻血を出さなかっただけでも褒めて欲しい。


 特に軍服は、メア様に軍服を着せたい会のリーダーをやっていた親友に写真を撮って送りつけてあげたいほどの出来だった。


 私だけ楽しんでごめん! どうか許して…!!!


 こうして、悲鳴や奇声をあげながら夢のような時間は過ぎていった。


 徹夜をしてでもポプリを作った甲斐がありました、本当に。今日のことはきっと、一生忘れないだろう。









 他にも、2人で薬草を取りに少し遠くへ遠足に行ってみたり、マークス、ナナリーのバカップル幼なじみと出かけたりと忙しくしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。



 そしてそうこうしている間に、記念すべきメア様15歳の誕生日当日になっていた。




 そう、生誕祭という名の祭りの幕開けである。










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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと積極的にはなれてたからきっちり奏功してますぞメアくん
[一言] 初めまして!すごく面白かったので、感想書かせて頂いてました! 最初からここまで一気に読んで、続きがすごく気になりました(*^^*)メアは、リゼへのアプローチをこれからどのようにしていくのか…
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