第8話 次の街と金策手段
あれから一週間後、俺と紫はクルーンの街にはいなかった。尾行されていた二人組は辺境伯の手先だと理解していたので予測されているであろうクルーンの街には向かわず途中で道を変え、ラムゼイの街へ到着していた。
ここはすでに辺境伯の領地ではなく隣の伯爵の領地、それもダンジョンと呼ばれる魔物が無数に自然発生するが貴重な資源も収集できる広大な地下空間を保有している色々な面で潤沢は街である。
腕に自信のある者、商人やコレクターなどは冒険者ギルドか商業ギルドに登録し、自力もしくは人を雇いダンジョンに潜る。そして持ち帰った魔物の素材や資源を売り生活している者が多い。…と宿のおばちゃんが訊いてもいない街の特色を話してくる。
「あらやだごめんねえ、おばちゃんひとりで話しちゃって。ええとお二人さんだね?一部屋かい?それとも二部屋かい?」
「一部屋で、とりあえず三泊。」
「はいよお、一部屋三泊で銀貨6枚ね。もし延長なら最終日の朝までに言っとくれ。」
部屋に案内され俺と紫はベッドにドサッと腰を落とす。
「あァーやっと街に着いたなァ、長かった!」
「蒼が『お偉いサンの目論見通りに動きたくねェ』って言うから…。」
「わかってるよ、悪かったよ。まァでも得るものもあったし悪いことばっかじゃなかっただろ?」
「まあね、特に魔術の成長はすごかった。魔素の用途がかなり広がったね。」
「だなァ、色々実験もして既に実用化可能だ。…でもまァとりあえずは飯だな。」
「そうだね、もうお昼近いし。…狼の干し肉は食べないからね。」
「アレは俺もいらねェ。」
宿のおばちゃんにおすすめの食事処を教えてもらいその場所へ向かう。道ですれ違う人たちはソーポートの街と違い武装している人が目立つ、宿のおばちゃんが言ってた冒険者ってやつなんだろう。腕に自信がありダンジョンとやらに潜って生計を立ててるやつら。
「気になるの?ダンジョンっての。」
「ちょっとな、金も貰った金貨だけだし稼ぐ手段は必要だろ?腕っぷしが重要な仕事なら俺らの十八番じゃん、有りか無しかでいうと有りかなって。」
「じゃあ食べ終わったらギルドっていうのに言ってみよっか?」
「だな。おっ、ここだな食事処『閑古鳥』。」
「…ひどい名前。」
「でもお客は結構いるっぽいな、なら味は期待しても良さそうだなァ。」
頼んだA定食は豚肉(?)の厚切りステーキに野菜スープ、硬い大きなパンというメニューだった。塩のみというシンプルな味付けだったが前に食べた肉がアレだったこともあってやけに美味く感じた。紫も美味くとは言わなかったが手を止めず食べきっていた。
★★★★★★★★★★★★★
「あの飯屋、結構イケたな。」
「うん、まあまあ。」
俺たちは食事処から出て大通りを冒険者ギルドに向かって歩いている、場所は大通りの北門出口付近にあるらしい。この大通りは冒険者御用達なのか武器防具を扱っている店が目立つ、人の出入りも多く活気を見せている。
「おっここだな、冒険者ギルドってのは。」
「ん。」
聞いた通り北門の真横に冒険者ギルドの建物があった。建物は大きくかなりの敷地も保有しているようだった。ドアノッカーもないので両開きの扉を開けて入っていく。
中は綺麗に掃除されておりカウンターがいくつも並び、その奥で従業員が作業をしている。部屋の中央には掲示板が置かれ、端には待合スペースなのか椅子が置かれ男たちが十人ほど集まって話をしている。
一通り室内を見回すと俺と紫がカウンターへ向かうと奥から従業員が一人応対のために出てきた。
「ようこそ、ラムゼイの冒険者ギルドへ。お二人はここ初めてですよね?」
「あァ、よくわかったな?」
「人の顔を覚えるのが得意ですので、私が見たこと無いってことは新顔さんで間違いないので。それでご用件は?」
「この街で金を稼ぐには冒険者ギルドがいいって聞いてな、俺と相棒は腕には自信があるからな。」
「なるほど、ダンジョンに潜って素材や資源の売却と。では詳しい説明はこちらの冊子を無料でお渡しさせていただきますのでそちらをご覧下さい。今は軽く口頭で説明させていただきます。」
厚さ10mm程の冊子を渡され受付係が軽く咳払いをする。
「まず素材や資源の売却ですがギルド登録しなくても可能です。ただ、未登録の方は手数料として売却額から1割引かせていただきます。登録されると全額お渡しできますし、ギルドのある街への入街税が免除されます。しかし年会費として金貨1枚をいただくことと、有事の際、国からの徴兵が優先してまわされる可能性があります。」
「徴兵ねェ、…それの拒否は?」
「基本的には拒否されても問題ありませんしペナルティ等もありません。しかし国の有事となればみなさん率先して参加されます。国がダメージを受ければ今の生活が守られなくなるので。」
滅多にあることではないですが。と受付係は付け加え説明を終了した。まあ登録した方がいいよなと考える、ダンジョンは街の外だし行く度に入街税払ってたんじゃいくら少額とはいえ馬鹿にならん。買い取り額一割引も痛いところ。デメリットも俺たちにはデメリット足り得ないし。
「じゃァ登録を頼む、俺とコイツの二人で。」
「かしこまりました、それではこちらの用紙に記入をお願いします。」
渡された用紙は名前、年齢、種族のみを書くかなり簡素なものだった。すぐに書き終える。
「書き終わったら微量でいいので紙に魔素を通してください、紙がタグに変わります。」
魔素を流すと紙が淡く光り、光が収まると銅色のドッグタグに変わっていた。それが俺と紫で二個ずつある。
「2つの内1つはギルド側がお預かりし名簿として保管します、1つはお持ちください。もし破損、紛失されますと再発行に手数料がかかりますのでご注意ください。」
「わかった。」
「以上で登録手続きは完了です。これからよろしくお願いします。中央の掲示板には依頼書が張り出されておりますので受けたい依頼があれば剥がしてカウンターまでお持ちください。」
「はいよォ。」
ドッグタグをポケットから次元収納に入れ掲示板の前でザッと依頼書を流し見る。鉱石の納品、薬草の納品および薬品調合補助、撥水皮膜の納品…etc。
「まァわざわざ受けなくてもいいかァ。」
「うん、それにまずは下見に行きたい。どんな魔物がいるかわからないし。」
「だなァ、じゃァ今日は準備にして明日行くかァ。」
「そうしよ、じゃあ行こ。」
ギルドから出ていった二人の背をいくつもの視線が追っていた。