第3話 情報取得状況整理
「話を聞きにきた。」
両手を挙げ続ける男の前まで歩いてきてそう告げる。男はホッとした顔をした。
「ありがとう、ということは君たちはオルゼイ王国兵ではないんだね?」
「ああ、俺も後ろの相棒もオルゼイ王国兵とやらじゃない」
「まあ王国兵に向けて攻撃してくれたようだしそうだとは思っていたんだけど実際に聞いておかないとね、私も部下もビクビクしてるんだよ。」
「そうか。」
(だろうな。)
改めて近くで男の装備を見てみるが貧弱すぎる、これじゃあ俺たちの攻撃なんて何一つ防げないだろう。ただのプレートメイルなんてお話にならない。
「改めて名乗りと感謝を。私はチェスター女王国軍、第三大隊長ローエン=サマリエだ。オルゼイ王国兵の撃退に感謝の言葉を送らせていただく。」
そう言って男は深々と頭を下げた。
「いや礼はいい、それよりいくつか質問に答えてくれないか?」
「ああ、私に答えられることなら何でも。」
「ここはどこなんだ?」
「ん?ここはチェスター女王国とオルゼイ王国の国境、カダス平原だが?」
「…ここはどの大陸にあるんだ?」
「大陸?…すまないが言葉の意味がわからない。」
「合衆国礼和という国を知ってるか?」
「いや、聞いたことがないな。」
「……」
(意味がわからないってこっちのセリフだっつーの、百歩譲って祖国を知らねーのはいいとして大陸って言葉の意味がわからないってなんだっつーの。)
いくら未開の土人だとしても大陸を知らないのはおかしい、いやこの男の装備は貧弱だが少なくとも鉄を加工できる程度は技術力があるわけで、文化もある程度は発達しているだろう。なのに大陸を知らないってのは…。
「ねえ、蒼?」
「なんだ、紫?」
いままで黙っていた紫がコソッと小声で話しかけてきた。
「覚えてる?世界線理論。」
「ん?あぁ、平行世界は在るって唱えたナントカって博士の論文だろ?何百年か前に証明されたんだっけか。」
「そう、わたしたちの身体や装備に使われてる魔素だけど元々は世界に無くて、別の世界から落ちてきた生物から発生した。今のわたしたち、その逆に思えない?」
「…おいおい、マジかよ。」
Aという世界にBという世界から移動ができるならその逆もありえると、今の俺たちがその状況だと、ここは俺たちの知る世界ではなく、祖国も存在しない世界だと、紫は静かに分析していた。
「目の前の男が嘘をついててもいいけど、『万能端末』は壊れてないのに地図は白紙、通信機も反応無し、地球上どこでも使えるのがウリなのに。」
「少なくとも地球じゃねェってか?」
「うん、それに雲の中で見た強い光。あれが世界を繋ぐラインだったのかなって。」
「マジかよ?」
「勘だけど、状況だけみると否定はできないかなって。」
別の世界、平行世界に落ちた?…紫の言う通り否定はできない、だが完全な肯定もできない。現状だとまだ情報が少ない。
「あの、いいかな?」
「ん?何だ?」
目の前の男を忘れて考えて過ぎていたようだ。
「君たちさえよければ私の上官に会ってもらえないか?この戦争の総指揮官でチェスター女王国の辺境伯なんだ。今の戦いを説明しないといけないんだけど当事者がいてくれた方が助かるんだけど、どうかな?」
一国の重鎮に会う…か、会ったところで新しい情報が手に入るとは思えないが。地図が使えないから案内を頼むのもアリか。
「あぁ、いいぞ。」
「助かるよ、こっちだ、ついてきてくれ。」
俺たちは男に先導され遠くに見える砦まで歩いていった。
★★★★★★★★★★★★★
砦の中へ案内されその内の一つの部屋の前まできた。男がノックする。
「ヴァイゼル様、第三大隊長、ローエン=サマリエであります、入室願います。」
「入れ。」
「失礼します。」
部屋に入ると簡素なデスクに男が一人座っていた、両脇には兵を立たせている。
「さて大隊長、早速だが詳しい説明を聞きたい。伝令からは軽く聞いたがより詳しく頼むよ。」
「承知しました、ではまず、召喚陣が現れ……」
「……以上です。」
「信じがたいが私もその光はこの目で見た、信じるしかないようだな。して、その二人が?」
「はい、彼らがたった二人でオルゼイ王国兵を撃退いたしました……。」
「どうした?」
「そういえば名前を聞いておりませんでした。」
(そういえば名乗ってねーな。)
名乗りを受けただけで聞かれなかったしスルーしてたわ。
「オレは蒼だ。」
「わたしは紫です。」
「蒼殿に紫殿だね、この度は本当にありがとう。私はチェスター女王国で辺境伯の地位を賜っているニグレド=ギヌル=ヴァイゼルだ、よろしくね。」
爽やかなスマイルで返してくる辺境伯、こういうのを魔性のオジサンっつーんだろうな、祖国の上官にはいない人だなァとかボーッと考えていた。
「ところで、あの王国兵を撤退させた魔法について教えてくれないか?」
「断る、軍規に違反する。」
「あの魔法が我々に使えたならもう王国兵もちょっかいをかけてこなくなると思うのだが…」
「断る。」
「むう、そうか、残念だ。」
(チッ、銃を抜いたのは失敗だったな。)
この様子だとチェスター女王国とやらは戦争兵器に乏しいんだろう、それで俺たちの武器を欲しがると。このあたりはどの国も同じだな、滅ぼして奪い取る、人間の根幹も。
「ではこの件で君たちには報奨を支払うよ、この後ソーポートの街まで一緒に来てもらえるかな?もちろん馬車はこちらが用意するよ?」
「馬車?」
「ああ、街まで少し距離があるからね、徒歩はつらいよ?」
いや違う、距離じゃなく馬車ってのに驚いたんだ。やっぱり文明レベルが低すぎる。
「ああ、わかった。馬車だな。」
「よし、じゃあ早速行こうか。サマリエ大隊長、私は一旦街へ戻る。警戒を怠らないように。」
「はいっ!お任せ下さい。」
敬礼する大隊長を横目に部屋を出、砦を抜けると馬車が二台止まっていた。
「君たち二人は後ろの馬車に乗ってくれ、私の馬車が先導するから。では行くよ。」
乗り込むと馬車はゆっくりと進み始めた、初めて乗る馬車は乗り心地最悪だった。