第2話 ヌルい戦場
光が徐々に収まっていく、すぐに異変に気付いた。
(地に足が着いてる?高高度からの降下中だったのに…。それに濃い草の匂いがする。…バカな。一呼吸置いてハッとする。)
「紫!?いるか!?」
「…ええ、いるわよ蒼。」
すぐ後ろからの声に振り返ると相棒の紫が自分と同じように座り込んでいた、俺はすぐに立ち上がり手を引いて立ち上がらせる。
「異常事態、周囲警戒、銃を抜け、戦闘準備。」
「了解。」
俺は腰の刀に手を添える。周囲の光が収まると周囲は平原だと確認できた、だが前方および後方に武器を携えた歩兵が多数見受けられる。後方の歩兵は歩みを止めたので紫に警戒させ、俺は前方から進んでくる歩兵を待っていると二騎の騎馬兵がこちらに走ってきた。
「貴様ら、何者だ!我らがオルゼイ王国兵ではないな?格好を見るにチェスター女王国兵でもあるまい?答えよ!」
馬上から圧の強い物言いで槍を持った男が聞いてくる。
(オルゼイ王国にチェスター女王国だ?聞いたことねェな…。それにとっさに兵士だと判断したがこの貧弱な装備に騎馬兵とか…。何百年前の話だっつーの。)
俺が少し黙っていると馬上の男は更に言葉を続けてきた。
「それに先程の召喚陣は何だ!貴様らはそこから現れたようだが?誰の差し金だ!答えよ!」
そう言って馬上の男は槍を俺に向け……槍を腕ごと地面に落とした。
「は?……ぁっ、あぁぁぁあ!!!!」
俺が斬り落とした断面から鼓動に合わせてドクドクと血が吹き出ていき男は悲鳴を上げながら落馬し痙攣し始めた。
「なっ!?マーカス!?貴様ッ!」
もう一人の男がロングソードに手をかけるが遅すぎる、俺はもう刀を納め銃を抜き、男に向けている。男の後方にはこいつらの仲間と思われる多数の兵士、丁度いい。
「『収束射出』」
ヴァァンッ!!
青白い光が男を飲み込み後方の兵士たちも同じく飲み込み、光が消えた後には欠片すら残さず男たちは消えてしまっていた。
「前方の兵から攻撃を受けた、排除対象だ、追撃する。そっちはどうだ?」
「動かない、現状維持ね。」
「だったらこっちに撃ってくれ、数が多い。警戒は解くなよ?」
「了解。」
ヴァァンッ!!
赤黒い光が群集の中央を削り取る、パニックになっているようだ、揃っていた隊列がぐちゃぐちゃだ。俺と紫で更に一発ずつ撃ち込むと背を向けて撤退していった、銃を納める。
「紫、オルゼイ王国、チェスター女王国ってのに心当たりあるか?」
「知らないわ蒼、あと通信機が反応しないわ、受信も送信も。…地図も白紙になってる。」
「マジかよ!?…やっべぇ。」
俺たち二人の陽動がなければ後の二チームが動きづらくなる、それに無断で作戦を抜けたのなら厳しい罰則、最悪なら処分すらあり得る。冷や汗が浮かぶ。
「蒼、後方から歩兵が一人向かってくるよ。」
「ぁん?チッ、状況が整理できねェ。」
見れば遠くから両手を頭より上に挙げ、ゆっくりと男が歩いてくる。罠か、話し合いか。待っていると男がやって来た。
「私はチェスター女王国軍、第三大隊長ローエン=サマリエ、君たちがオルゼイ王国兵でないなら話がしたい!」
10mほどの間を空けて男が叫んでいる。
「どうする、蒼?」
「どうするっつってもなァ…。」
男を見る、武器は腰の剣一本のみ、両手を挙げて敵対の意思なしと告知、表情からは緊張が読み取れる。こちらは状況不明、情報不足。正直向いてないが話し合いしかないな。
「しょうがねェ、行くか。」
「うん。」
俺は紫と連れ立って男の方へ歩き始めた。
(しかしまァ、『収束射出』だけであんなに削れるとは思わなかったなァ)
至近距離の騎馬の男は納得だが後方の群集はある程度は耐えると思っていたが耐える者はおろか避ける者もおらず、大半が飲み込まれたのには顔にこそ出さなかったが少々驚いていた。あれぐらい避けれないと戦争になど勝てないってのに。