第19話 同じ場所の別の国
「いやなに、俺たちは海で遊んでたんだがな?お宅の兵士が切りかかってきたんでお宅らの国の挨拶かと思ってね、見かけた兵士全員に挨拶して回ったんだが。俺の勘違いかな?それとも、お宅らの勘違いかな?」
「よかった、話はしてくれるのね。」
「『話』はするぜェ、『会話』するかどうかはお宅次第だ。」
俺はスコロペンドラとアラネアを、紫はマリンウルフとメリベを大量に生成し二人を囲む。女は大剣を構えるが顔色は悪く手が震えている。
「ふっ、ふざっけるな貴様!儂に歯向かいおって!おい!さっさと殺さんか役立たずが!」
へたりこんでた中年の兵士ががなりたてる。立ち上がらないところからすると腰抜かしてんじゃねぇか。
「少佐、わたしにできるのは『あなたを守る』か『敵を切る』かの二択です、両方はできません。命令とあれば敵を切りますが、あなたは守れません。よろしいですか?」
中年の兵士は顔を青くし黙り込んだ。俺はニヤニヤしながら中年の兵士に向けていた銃を下ろす。
「じゃァ問一、どこの国のモンだ?」
「……アーカム帝国よ。」
「問二、目的は?」
「侵略戦争、と聞いてるわ。」
「問三、オルゼイ王国と帝国の関係は?」
「オルゼイ王国はアーカム帝国の属国よ。」
「問四、海路で来たのか?」
「ええ。」
なるほどねぇ、正しく人間臭い国っぽいな帝国は。祖国もそうだったが侵略性国家ってのは戦争しないとなりたたないモンだ。
「じゃァ最後の問だ、…珍しい名前だなァ緑川奈月。どこの国の出身だ?」
「なんでわたしの名前!?…鑑定スキル持ち!もしかしてあなたも日本人!?」
「質問してるのは俺なんだけどォ?」
俺は女に銃を向ける。女も大剣を握り直すが刃先が揺れている。全く目の前に集中できていない。
「…ごめんなさい。わたしは日本人よ、アーカム帝国出身じゃないわ。」
「へェ。」
日本ねぇ、確か祖国が合衆国礼和を名乗る前の名が日本国だったな。同郷かと思ったんだが少し違うみたいだな。魔素を世界に持ち込んだっていう平行世界理論や世界線理論だな。この女は『向こう側』の人間かも知れねぇな。
「ねえ!あなたも日本人なんでしょ!?だったらわたしたちの…。」
「余計な話は終わりだ!」
「ぐむっ!」
中年が起き上がり叫ぶと女の黒い首輪に赤い模様が表れ言葉が遮られた。
「兵器は兵器らしく分相応に命令だけを聞いておればいいのだ!命令する!この者どもを蹴散らし儂を本国まで無傷で送り届けよ!」
女は震える大剣でマリンウルフに切りかかる。切られた個体は黒い靄になり霧散していく、レベル差がかなりあるし当然か。だがいかんせん数が違いすぎる。スコロペンドラのキバで振り抜き後の大剣を押さえつけられアラネアの糸が体に絡み付き引き倒される。もはや身動きがとれない。
「何をしておる!立て!立って殺せ!めいれ…。」
バクンッ!
中年は背後から近付いたメリベに丸呑みにされた。半透明の体の中で暴れているがこいつの実力じゃあ出られる可能性は皆無だろう。アラネアの糸で繭みたいになっている女に近付く。
「……。」
「これかァ、邪魔してくれたのは。」
隷属の首輪(魔導具)
魔力を流し装着した相手を強制的に隷属させる。
装着した本人以外には外せない。
赤い模様の首輪に触れる。
「万能解錠」
カキンッ!
赤い模様が消える。結合部が離れ女の首から回収する。
「…うそ、外した?」
「帝国はいいモン持ってんなァ?これで誰でも思うがままってか?って聞こえてねェか。」
中年はメリベの中で溺れかけている、紫に頼んで吐き出させる。
「ゲホッガホッ。」
「おー大丈夫かァ、可哀想に。可哀想なお前にはイカしたアクセサリーをプレゼントしてやろう。」
カチンッ
中年の首に女に着いていた首輪を着ける。
「なっゴホゥ、貴様!なんてことをし…。」
「声を出すこと、動くことを禁止する。」
「……。」
「はっ!喋らなくても顔に全部出てるぞお前。」
中年は顔を真っ赤にしている。
「あのー、いいですか?」
「んァ?なんだ?」
「首輪を外してくれてありがとうございます。後、もう切りかからないのでこの糸も外してもらえませんか?」
「あァ、それは無理だな。戦争に負けたんなら死ぬか捕虜かの二択だ、もうお宅ら二人以外は全員死んだからお宅は俺たちの捕虜、そこのおっさんはこの国の捕虜だ。」
二人の顔から血の気が引く。真っ赤だった中年の顔も青くなっている。忙しいなこのおっさん。すると遠くからたくさんの足音が聞こえてきた。チェスター女王国の国旗を刻んだ兵士が走ってくる。魔物は全て消しておく。
「動くな!貴様らアーカム帝国の兵だな!」
「俺たちは違うぜェ、ほらよっ!」
冒険者ギルドの銀タグを兵士に投げ渡す。
「…なるほど冒険者か、帝国の撃退に尽力してくれたと見る。してその二人は?」
「このおっさんは一般兵よりは上の立場だろうなァ、偉そうだったし。そこの女は帝国の奴隷兵だ、首輪付いてたからなァ。」
「…付いてないようだが?」
「外しておっさんに付けてやった。」
女王国兵の視線の先のおっさんの首に隷属の首輪がしっかりと装着されている。
「なるほど、後で詳しい者に見せよう。君たちはその二人を見張っててくれないか?我々は他の帝国兵の迎撃に向かう。」
「もう残ってないぜェ。」
「なにっ?」
「この二人で最後だ、残りは全員俺たちが殺した。」
「…まさか、かなりの数だと報告を受けてきたのだが。」
「信じなくてもいいぜェ、今お宅の仲間が街中走り回ってんだろ?しばらくすればわかるさァ。」
「……。」
どうやら目の前の兵士はここで待つことにしたらしい。別の兵士を呼んで何やら話をしている。もしかしたらこの男が指揮官かもしれない。…こいつにおっさん渡すか。




