第14話 ルルディエルの街と海
あれから五日経ち、俺と紫はルルディエルの街へとたどり着いた。道中、紫の機嫌が悪いときに運悪く出くわした魔物は一匹残らず駆逐された。早送りだから!とか言っていきなり走り出したりしながら、我ながら振り回されてるなぁと思う。
だがこれでいい、口を挟もうモンならそれはもう大変なコトになる、昔、何を思ったか紅があの状態の紫に口説き文句を聞かせたらスイカ割りの練習に付き合わされてたモンなァ、…スイカ役として。
「はぁー着いた着いた、魚食べに行こ?」
「はぃよォ、でも先に宿取ろうなァ?」
今はすっかり機嫌は元通りだ、ホントよかった。街中じゃあ建物壊しちまうからなぁ。俺の心のアップダウンを知らず、紫はもう魚料理で頭がいっぱいのようだった。俺もサッサと切り替えねーとなぁ。
ラムゼイの街ではルルディエルは海岸沿いの街って聞いてたんだがしっかりとした港街だった。大きな木造船が停泊しており積み荷が降ろされている。海路で輸送か貿易をしているのは確実だった。
裕福な街のようで露店にも活気があり種類も豊富だった。途中で大きめの宿を見つけ入る。
「いらっしゃい、何泊になさいます?」
「三泊で頼む、あとおすすめの飯屋はあるか?魚を扱ってるトコでな。」
「それなら『アニサキス』とかおすすめですよ?ちょっとお高めですけど質も味も一級品です。前の通りを行けば左手に見えますよ。」
「…そ、そうか、ありがとう。」
支払いを済ませ部屋を確保しとりあえず教えてもらった飯屋へ向かって歩く。
「行くの?『アニサキス』。」
「…まァ所詮店の名前だろォ?大丈夫だってェ。…っつーかこの世界のネーミングセンスどうなってんだ?」
「まあインパクト強いから忘れないよね、狙い通り?」
「…これが経営戦略か、客商売は大変だな。」
そんな会話をしていると着いてしまった『港食堂アニサキス』
「いらっしゃいませー!お二人さん?テーブル満席なんでカウンターでもよろしければどうぞー?」
給仕の女の子が忙しそうに店の中を動き回っている、俺と紫はカウンターに座る。酒も取り扱っているのか奥にはビール樽とワイン樽が見える。
「お決まりですかー?」
給仕の子が声をかけてくる。お決まりも何もメニューがわからないんだが。
「あァ、おすすめの魚料理を頼む。二人で別々のメニューで。」
「はーい、魚おまかせでー。」
「ねえ?ししゃもって魚ある?」
「ししゃもですかー?んー聞いたことないですねー。」
「そう、ありがとう。」
「はーい。」
給仕の子はささっと行ってしまう。そんなに食いたかったのか、ししゃも。紫は仕方ないか、と言いながらも残念そうだ。いつか食わせてやりたいと思う。それから15分後、料理が運ばれてきた。
「はーいおまちどー!ホワイトアスパラマスの蒸し焼きとグリーンアスパラマスの焼き物だよ!」
並べられたのは細長い魚と野菜がたくさん乗ったシンプルな料理だった。なるほどアスパラね、フォルムはそっくりだ。…一応詳細解析。よし、寄生虫はなし。俺はグリーン、紫はホワイトを食べる。
「…うめェな、これ。」
「うん、こっちもいけるよ。」
交換してホワイトも食べるとこっちも美味い。ここは正解かもしれない。俺も紫もゆっくり味わって残さず食べた。
「ありがとーございましたー!またどーぞー!」
『港食堂アニサキス』を出て銅タグを返すために冒険者ギルドへ向かう。ダンジョン直近のラムゼイのギルドと違って大きくはないが造り自体はしっかりしており潮風が当たるのに傷んだ様子もあまりないきれいな建物だった。
中に入ってみるも冒険者はおらず、職員もカウンターの奥で二人いるだけだった。俺たちに気付いた女性職員がカウンターにつく。
「ギルドへようこそ、ご用件は?」
「銅タグの返還だ、銀タグを貰ったんでな。」
二人分のタグをカウンターに置く。
「おや、ギルドの外で受領されたんですね。珍しい。あぁ、確認だけさせてください、お連れ様も一緒に。はい、名前とラムゼイのギルドの刻印を確認しました。問題ありません、ではこちらの銅タグはこちらで引き取ります。他に何かご用件はありますか?」
「そうだなァ、温泉とか遺跡とかこの辺りでないか?」
「温泉は、ないですね、かなり遠いです。遺跡ならあるにはあるんですが…。」
歯切れが悪いな、何か問題でもあンのか?
「一応両方聞かせてくれ。」
「ええと、温泉ですがずっと北のキララの街にあります。一ヶ月程かかりますがここがルルディエルからは最短です。」
「それは遠いな。」
「ええ、それで遺跡なのですが地上ではなく海底にならあります。」
「は?海の中?」
「ええ、最近発見されたばかりのもので沖で漁をしていたときに偶然発見されたんです。でも海底ということで調査を行えず、現在王都に連絡を送ってまして。知恵と力を貸してほしいと。」
「なるほどねェ。そりゃ無理だわ。」
「あまりお役に立てず、すみません。」
「いやいや、ありがとなァ。」
職員に手を振りギルドを後にする。やってきたのは港の端っこ、人目は全くない。
「いけると思うかァ?」
「大丈夫でしょ?作戦で何回もやったじゃない。」
「だなァ。空気膜」
俺の周りを透明な膜が覆う、そのまま海に飛び込む。ずぶ濡れにはならず空気の膜が海水を遮断し海中散歩が楽しめる。本来は上陸奇襲用の魔術なんだが。紫も降りてくる。
「この世界の海は綺麗ね、遠くまで見通せる。」
「廃棄物とか船のせいだろォなァ、この世界は科学がほとんど発展してねェし当然っちゃあ当然か。」
俺と紫の周りを小魚がくるくると回る、珍しさに惹かれてきたのだろうか。だが空気膜の中には入れないので表面をつつくに留まる。
「で、どうする?海底遺跡、このまま行く?」
「いんや、宿取ったんだし戻ろォぜ?遺跡はまた明日な。」
「ん、わかった。」
陸にあがり宿に向かう。ラムゼイよりも質の良いベッドで明日に備えて眠った。




