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交彩アイソーン  作者: 矢口間也(やぐち まや)
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第13話 不機嫌な紫

早朝、俺たちは目を覚まし体調診断を行う。…異常無し。軽くストレッチをしながら今日の予定について話し合う。



「ダンジョンも攻略しちまったから本命の美食探しなんだけどよォ?」

「うん?」

「『閑古鳥』の給仕に聞いたんだけどよ、ルルディエルの街ってのが馬車で一週間程の距離にあるらしい。海岸沿いの街で魚が美味いってよ、この辺じゃァ魚なんて食えねェしどうよ?」

「賛成、魚食べたい。ししゃも食べたい。」

「…ししゃもは有るかわかんねェが決まりだな。」



陽が昇ると日持ちしそうな食糧を適当に買い次元収納にしまう。馬車に乗る気にはなれず歩きのまま街の出口へ向かう、ギルドの前を通りかかった時、男が一人こちらに向かって歩いてきた。



「冒険者アオイとユカリの二人組だな?話がある、ついてこい。」

「気安く呼び捨てにするんじゃねェよ、ヴォケ。」

「気安く呼び捨てにしないでくれる?気持ち悪い。」



俺は純真野太刀『無垢』を男の腹に突き付け、紫は背後に回り真斬短刀『幽谷』を首に添え薄皮を斬っている。男は身動きできず冷や汗を流す。



「要件のみを簡潔に話せ。」

「あっえっとっ、きっ昨日おまっ、君たちが冒険者十数人と争っていたと情報が寄せられてっ、それでっ副ギルド長に連れてこいと言われて!」

「俺たちはギルドには行かない、行く理由がない。奴らは自業自得だ、俺たちの正当防衛だ。そう伝えろ、いいな?」

「あっ、あぁ、わかった。そう伝える。」



刀をしまう、紫も俺の隣へ戻ってくる。男はびっしゃりと汗をかきその場に座り込んだ。それを放置して街を出てルルディエルの街方面へと歩き始める。



「さっきの男、ホント不愉快!ありえない!」

「初対面呼び捨て、上から目線はねェよなァ、あの職員さんが普通だと思ってたんだが違うっぽいなァ…。」



紫は俺の前を肩で風を切りながらズンズン進んでいく。紫はかなり根に持つからなァ…。昔、同期の(くれない)が紫の分のデザート食っちまった時なんか沈められてたもんなァ。もちろん湾に。



こうなっては他人に宥めることはできないので落ち着くのを待つしかない、話しかければ逆効果と学習しているから。俺は黙って後をついていく。数分後、後方から騎馬が三頭走ってきて俺たちの横につく。



「私はラムゼイ冒険者ギルドの副長、クロウという。冒険者アオイ殿とユカリ殿で間違いないか?」



馬上から屈強な体躯の大男がこちらを見下ろしながら聞いてくる。前を歩いていた紫がグリンっ!と振り返る。ヤベェ、全然機嫌直ってねェ。



……………(人にモノ尋ねる時は馬)……………(から降りろよ木偶の坊)

「ん?なんと言われた?」

「馬から降りろ!!」



紫から肌を刺すようなプレッシャーが発せられる。話しかけてきた男以外の二人と馬三頭は泡を噴いて失神し地面に転がる。唯一耐えた男も足が震えており立っているのがやっとのようだ。



「ったくギルドってのはロクに人材の育成をしていないようだな?えぇ?人を上から目線で呼び捨てにするし、馬上から言葉を投げつけるし。まともだったのは最初の職員だけだったな、レアケースとして名前聞いておけばよかったわ。それで?あなたは何か言うことは無いのかしら?今、この瞬間があなたの今際の際かも知れないから慎重に言葉を選ぶように。はい、どうぞ?何でもおっしゃって?」



口調まで崩れてる、相当だなこりゃ。男も本能で理解したのか地面に膝をつき呼吸を整える。



「改めて、私は冒険者ギルド副長、クロウと申します。この度は先日の冒険者同士の争いについて話を聞かせて頂きたく!」

「後ろにいる愚者に一度説明したはずですが?」



紫は気絶してる男を指差す、さっきギルド前で絡んできた男だった。



「こいつの言葉では要領を得ず…」

「つまり!お前たちが低能という理由でわたしを煩わせるということね!」



紫が右足で一度地団駄を踏む、ズドンッ!と音と振動が響く。



「も、申し訳ありません。」



副長は即座に頭を下げる、その姿を紫は極めて不快という表情で見下ろす。数秒の沈黙の後、紫は副長から視線を外しルルディエル方面へと向ける。



「蒼、後よろしくね?先に行ってるから。」

「はいはい、了解ですよ。」



振り返ることもなく紫は歩き始めかなり遠くにいくとようやくプレッシャーが消えた。



「ぶはぁぁあ、はっ、はっ、ふぅー。」



副長は一気に呼吸を始める。緊張の糸が切れたんだろうな、だがダメだな。まだここには俺が残ってる。



「さて、と。」



紫ほどじゃないが俺だって不愉快な思いをさせられている、軽くプレッシャーをかけていく。副長はまた体を強張らせる。



「俺は優しいから説明してやる、よく聞け。あいつらは俺たちに矢を射った、それで俺たちは反撃した。それで全部だ、住民も集まってたからな、探して聞き出せ。俺たちからは以上だ。」

「そいつらは…殺したのか?かなりの血が残っていたが。」

「殺しちゃいないさ、俺たちはな。強いて言えばあいつらは俺たちにちょっかいを出すという自殺をしたんだ。自殺を他殺に置き換えて有りもしない罪を擦り付けるなよ?」



そう言って俺は紫を追うため、歩き始める。



「待ってくれ、これだけ持って行ってくれ。」



副長は手に銀色のドッグタグを二つ持っている、俺と紫の名前が彫られている。



「副長権限でダンジョン攻略を果たした君たちを銅タグから銀タグへの昇格とさせてもらった。持って行ってくれ。銅タグは別の街のギルドに返却してくれればいい。」

「そうか。」



副長から紫のぶんのタグも一緒に受け取り今度こそ紫を追いかけた。姿はもう全然見えなくなっていた。





★★★★★★★★★★★★★





「なんなんだ、あの二人は?」



ギルド副長クロウは蒼が去った後地面に仰向けに転がっていた。足腰にロクに力が入らなかったからである。



「これでも元冒険者、それなりの修羅場はくぐったつもりだったが。」



まさか少女と呼称してもよさそうな見た目の人間を相手に死を覚悟するとは、想像だにしていなかった。



「これはもしかして、…一応報告書をあげるか。」



気合いを入れ直し未だに震える足で立ち上がる、そして、



「ああ、そうだった。」



失神している馬三頭と職員二人を見て深いため息をついた。




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