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交彩アイソーン  作者: 矢口間也(やぐち まや)
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第1話 プロローグ


カダス平原、広大で比較的肥沃なこの土地は大部分をチェスター女王国が保有しておりオルゼイ王国はほぼ毎年のようにこの土地を狙い戦争を仕掛けていた。



小競り合い程度だった去年と比べ今年は本気で()りにきているとこの土地を任されているニグレド=ギヌル=ヴァイゼル辺境伯は焦りと共に感じていた。



小競り合い程度とはいえ毎年のように戦争をしているのだ、資源や資金の消費、兵の士気も下がる一方であり戦線の維持も限界が見えていた。



オルゼイ王国も同じ条件、加えて相手は我らがチェスター女王国より資源に乏しいだからと高を括っていたがいざ開戦すれば相手は10万を越える大軍、ひいてこちらは6万程。平原での戦争では絶望的な戦力差であった。



「どういうことだ!?情報ではオルゼイ王国はせいぜい2万強ということであったろうが!あれは10万を超えているぞ!」

「ヴァイゼル様、その情報を持ち帰った斥候のチームですが全員姿を消しております。おそらくはオルゼイ王国の工作員であった可能性が高いです。」



ヴァイゼル辺境伯の副官が青い顔をしながら部下からの報告書を読み上げる、ギリッっと歯軋りの音が彼の耳に届き冷や汗が流れる。



「とにかく!今の軍で可能な限り持ちこたえろ!伝令を走らせろ!王都に援軍の要請だ!急げっ!」

「はっ!」



副官は走って出ていった、私は溜息と共に椅子に腰を下ろす。錬度の違いこそあれど6万の軍で10万超の軍は受けきれない。何日持ちこたえられるだろうか、援軍は間に合うか。いつもは冷静に計算できる頭が全く動かない、焦っていると自分で理解できるのに落ち着けない。



後方の街に避難命令も出さねば、最低でも…と考えていると副官が戻ってきた。



「失礼しますヴァイゼル様、間もなく両軍が衝突するのですが…1つ問題が。」

「どうした?これ以上の悪い知らせは聞きたくないんだが。」

「その…両軍の衝突地点に突如巨大な召喚陣のようなものが現れまして…両軍進軍を止めております。」

「なんだと!?」



私は指令部を飛び出し高台に登ると戦力差に目眩(めまい)がしそうになるが堪えて両軍の衝突地点を見ると召喚陣が回転しながら徐々に収束していくところだった。



「おい、召喚陣から何が出てきたか見えるか?」

「いえ、遠すぎて何も。前線からの報告を待ちましょう。」

「くそっ、オルゼイ王国の戦力ってオチだけは止めてくれよ。」



ヴァァンッ!!



高いような低いような、(つんざ)くようなくぐもったような音が響き召喚陣の消えた中心から太く青白い光がオルゼイ王国の軍に向けて走った。次の瞬間には光は消え、王国兵がごっそりと跡形もなく消え去っていた。



「…なん…だ、今のは?」



魔法なのか?いや、ありえない。王国軍は10万超、その端から端まで一閃して消し去るなどそんな魔法は存在しないはずだ。ただの一撃で1万人以上を殺す魔法など。



ヴァァンッ!!



「ッ!!」



同じ音が響き今度は太く赤黒い光が王国兵を飲み込み消し去っていく、そこから更に一回ずつ青と赤の光が走り王国兵は半数以上を失い、撤退を始めた。我らがチェスター女王国軍は一切の追撃をせずオルゼイ王国兵の背中を見送った。



「何なんだ、あれは?」

「…わかりません。ヴァイゼル様、追撃は…どうなさいますか?」

「できるかそんなこと!そもそも我らは何もしていない、追撃もクソもないわ!それよりも、あの光の正体が知りたい。報告はまだか?」



その時、高台の下に伝令の馬が到着した。私は急いで降りていき伝令兵を捕まえる。



「報告しろ、あれは何だ!?」

「か、閣下!報告します!前線に現れた召喚陣より人間の男女二人が出現、敵王国兵が二人に切りかかったところ、見たこともない武器からあの光が放たれ王国兵は壊滅、敗走いたしました!」

「人間!?しかも二人だと!?」

「加えて申し上げます!その二人ですが閣下への面会の為、大隊長と共にこちらに向かっております。」



一体何なのだ、溜息と共に私は椅子にドカッと座り込んだ。





★★★★★★★★★★★★★





高度15000m、雲を下に望む高高度を飛ぶ輸送機の中にはかっちりと軍服を身に纏った男女が上官の言葉を待っている。



「全隊員!聴け!」



ザッ!



一糸乱れぬ動き、徹底された訓練の賜物、我らが合衆国礼和国軍、第二期人類特殊兵装部隊、通称『(いろどり)』。全隊員18名という人数だけ見れば解体寸前の弱小部隊もいいとこだが個人個人の戦闘能力がズバ抜けて高い隊である。



人間にとって有害であったはずの物質『魔素』に適合した身体を持ち、それを操り『魔術』と呼ばれる絶大なエネルギーを扱うことのできる無二の存在、最新鋭の技術により身体の大部分の機械化。これらにより文字通り一騎当千の兵となった。



合衆国礼和はいち早くこれを実用化させ軍事に導入、領土を広げ、各国から危険視されている侵略性海洋国家である。そして今、『彩』は敵国の拠点に対しての急襲作戦の真っ最中である。



「Aチーム十名、本隊だ。敵通信指令部を破壊しろ。」

「はっ!」



敬礼をもって十人が答える。



「Bチーム六名、別動隊だ。武器弾薬庫を破壊しろ。」

「はっ!」



一切のズレなく六人が答える。



「Cチーム二名、一分先行して陽動だ。いつものように引っ掻き回せ。」

「はっ!」



アラームと警告灯と共に後部ハッチが開き風が吹き荒れる。



「いくぞ(ユカリ)!」

「ええ(アオイ)



相棒の紫と同時に後部ハッチから飛び出した。眼下には厚い雲が広がっており見失わないよう近くに寄り添い降下していく。雲の中に入り視界が真っ白になる、その時、強い光に包まれ目を開けてられなくなる。



「ッツ!?」



光が収まった後にはCチーム二人の姿は無く、通信も途絶え降下作戦は中止となった。Cチームの二名、アオイとユカリは作戦行動中行方不明として消極的な捜索が行われるも発見されることはなかった。




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