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ルーファス回です
★★★
あれは、ルーファスが十八になったばかりの頃だった。
友人のランドール・ルーセルは変わった男だった。
頭脳明晰で、斬新な発想。
変わったところもあるが、ルーファスはランドールを気に入っていた。
そんなランドールの話に度々妹の話が出てくるのが兄弟のいないルーファスは羨ましかった。
一番末の妹はまだやっと八つになったばかりというが、ランドールにそっくりらしく、少々煙たがっているようだった。
しかし、それはお互い様だと言っていた。
そしてもう一人、ランドールのすぐ下の妹は内気な十歳の少女だという。
殊更可愛がっている様子がランドールの口調からも窺えた。
ルーファスがランドールの十歳の妹の話でよく覚えている話がある。
少女は色白で日に焼けるとすぐ真っ赤になってしまうそうなのだが、研究の合間に帰宅したランドールと少しでも一緒に居たいらしく、ある時ランドールの趣味の釣りに付いてきたそうだ。
その時にランドールは何度も木陰に入るように勧めたそうだが、少女はとうとうランドールが帰ろうと声を掛けるまで離れなかったそうだ。
すると、夜には体中が真っ赤になり、熱を持ってしまい、皮が剥けてしまった。
ランドールは罪悪感で妹の世話をかって出た。
少女は枕元にいるランドールに、痛みで涙をいっぱいに溜めた瞳を向けて笑ったそうだ。
妹は、結果はどうあれランドールが側にいてくれることが嬉しかったようなのだ。
そう締まりのない顔でランドールは言っていた。
ルーファスはその話を聞いた時に、心底羨ましいと感じた。
愛らしい妹が居れば、そんなに良い思いが出来るものかと羨ましく感じたのだ。
———会ってみたいな。
ポツリとルーファスが洩らすと、ランドールはとっておきを自慢するような得意げな顔をしてルーファスを屋敷へと招待してくれた。
果たして出会った念願の【妹】にルーファスは敢え無くハートを打ち抜かれた。
初夏に似合いの淡いイエローの膝丈のドレス。
ふわふわのウェーブがかったブラウンの髪。
スッと通った鼻筋に小さな小鼻。
唇は薄く、壊れそうなほど小さく、ふくふくとした頰。
肌は白磁のように白い。
瞳は深いグリーン。
その瞳を潤ませて不安げにランドールの足に隠れながらもルーファスを見上げて覗いている。
———か、可愛すぎる。
悶絶したい気持ちを抑えきれずに、スッと目線を逸らしてしまった。
思いっきり。
横目で、そっとローズを見る。
瞳にいっぱい溢れそうなほどに涙を溜めている。
どうしたというのか。
自分に幼女趣味など無かった筈だ。
しかし、この有り得ない動悸はなんなのだろうか。
一瞬で様々な事が駆け巡った。
「は、はじめまして。ローズ・ルーセルです。お兄様のお友達、ようこそ」
自信なげに、たどたどしく真っ赤になって自己紹介をした十歳のローズに撃沈した。
———手に入れよう。この子は俺のものだ。
すぐに伯爵に婚約を申し出た。
冗談だろうと若干引かれながらも有耶無耶にされてしまった。
そこから事あるごとに婚約の話をすると、流石に危機感を持ったのか、年頃の近いガルニエ侯爵の息子との縁談を纏められてしまった。
ルーファスは、怒り心頭した。
しかし、ルーファスは諦めなかった。
彼女が婚約を結んだ頃から学園の事務方で働き出したが、接触をしないように心掛けて彼女に興味が無くなった様を演じた。
その裏、知り合いの伝手を辿ってユージーンが良く顔を出すという紳士クラブで顔見知りになった。
ガルニエの息子は、ルーファスが手に入れたくて堪らないローズを無視し、若い子爵の娘に手を出してしまったらしい。
子爵の娘は一度見た事はあったが、大した娘では無いと思った。
あの愛らしいローズを捨ててまで手に入れる価値があるとは思えなかったのだ。
だからルーファスは、愛の無い婚約者とは別れるようにユージーンを説得した。
表ではローズに興味が無い素振りを続けた。
理事長であり彼女の実父ラッセルの警戒が緩むのを日に日に感じた。
ユージーンと比較的仲のいい人物とも接触し、思い切る切っ掛けの為にローズの姿絵を焼いてやったらどうだと持ち掛けた。
ユージーンの元にローズの姿絵がある事さえ不愉快だった。
ルーファスでさえ持っていないのに。
少しの付き合いで分かったが、ユージーン・ガルニエという男は面食いだった。
そのユージーンがローズに興味を示さないという事は、姿絵を見ていない可能性が高いと思ったのだ。
後から聞いた話によると、矢張り姿絵は部屋の隅に布をかけられたまま放り出されていたという。
危ない所だったと話を聞いて安堵した。
程なくしてユージーンはローズとの婚約を破談にしたと紳士クラブで自慢気に語っていた。
ルーファスは思う。
今度こそ逃しはしまい、と。
そして、チャリティパーティーの日。
事前に調べておいた通りに、到着早々に酒に酔わせて彼女を連れ去った。
酒の所為か、行為の所為か真っ赤に染まった頸に胸元、首、普段はドレスに隠された彼女の身体。
あらゆる場所に所有権を主張するように跡を付けた。
もう誰にも奪わせはしない。
ルーファスは不敵に笑んだ。
★★★