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「僕の婚約者に何か?」


ユージーンの背後から喧騒を引き連れて、少しも物怖じせずに、ルーファス・フレミングは現れた。


「ルーファス様……」


ルーファスの氷の様な冷たい眼差しを見た時、ローズは奇妙にも安堵した。


「もう一度伺いますが、僕の婚約者がどうかしましたか?」


ルーファスは、驚きに声の出ない二人を見てピクリと眉だけ器用に動かしながら、同じ言葉を繰り返した。


「き、君と彼女は婚約したのかい?僕に散々家の決めた婚約なんて馬鹿馬鹿しいと吹いていたのに」


ユージーンは取り繕う様に言葉を絞り出した。


「ええ、ですからお互い手に出来ましたよね?愛する女性を。漸くルーセル伯爵からお許しが出ました。私は以前から彼女に求婚しておりました。彼女の様な聡明で美しい女性と婚約を結べて大変光栄です」


高い上背からユージーンとミモレを見下してルーファスは返答している。


「彼女で大丈夫なのですか?私、ルーファス様が心配です!」


ミモレが愛らしく心配そうな声を出した。

甘える様な仕草でルーファスの左腕に右手を添える。

ルーファスは不愉快そうに眉を寄せてミモレの手を払うと、左腕をぱっぱと払い、


「手袋が汚れてしまった」


と言って嵌めていた右手の黒革のグローブを外した。


「ローズ」


甘さを含んだ声でルーファスがローズの名を呼ぶ。

あの夢の様な寝台での一夜を思い出させる様な声音にローズは胸が高鳴った。


「こちらへ」


誘われるままにルーファスの近くに寄ると、腰を掴まれ、抱き寄せられた。

ちゅっと纏め上げた髪にキスを落とされる。

ざわざわと喧騒が大きくなる。


「君が手放したおかげで僕は彼女を手に出来る。ありがとうと言うべきか。彼女を傷付けた君に礼を言うのは不本意ではあるが」


ルーファスはそう言うと、両腕の中にローズを閉じ込めた。

腰を密着させて隙間無く抱き込められると、恥ずかしさが襲い、ローズは真っ赤になってしまう。


「ルーファス様……」


羞恥心はあるが、それよりも安堵が優ってしまう。


「瞳が潤んでいるな。俺以外が貴方を泣かす所など想像もしたくない。尤も、貴方を泣かす事も寝台以外では有り得ない話だが」


蠱惑的な笑みを浮かべたルーファスに首まで赤くしてローズは絶句する。


「少々刺激が強過ぎた様だ。これ以上可愛い君の姿を他に見せたくは無い。まあ、今更君を再び欲したとしても俺が君を手放す事は二度と無いがな」


行こう、とローズを半ば抱き抱える様にルーファスは歩み出した。


「ルーファス様、どちらへ」


ローズは、困惑のまま尋ねる。


「早く君と二人になりたい。俺の理性を試しているのか?先日のドレス姿も美しかったが、今日のドレスは更に似合っている。まるであの時の可憐な少女時代の様だ」


今日のドレス?

ローズは首を傾げる。

着ているドレスは別段変わった作りでは無い筈だ。

ルーファスは時々ローズには理解出来ない言動がある。

兄のランドールや妹のクラリスも自己完結してしまうのか会話が飛び飛びになる事が間々あった。

しかし、二人の間では整合性は取れているらしく、ローズは時折寂しく感じていた。

物思いに意識を取られていると、グッと抱き寄せるルーファスの腕に力が籠る。


「俺と共にいる時に、他へ気をやるのは感心しないな」


「すいません、兄と妹の事を考えていました」


素直に謝罪すると、ルーファスは少し不機嫌そうにする。

この端正な余り表情豊かとは言えない男性の機微が分かり始めた事に、ローズは少しの喜びを覚えた。


「彼らはあちらにいる。今日は君を我が屋敷に連れて帰る。婚約者の屋敷だ。構わないだろう。話を通してから帰ろう」


決定事項とばかりにルーファスが言い切るので、ローズは否と言えないまま流される。


「やあ、ルーファス。うちの姫をありがとう」


呑気にランドールが手を挙げてルーファスに話しかける。

クラリスはランドールの背後からペコリと会釈する。


()()()()では無い。もう()()()だ」


「呆れた独占欲だ。ローズ、本当にルーファスで良いのかい?この男は大抵完璧だが、ローズの事に関してはネジが飛んでいるらしい。あの日、ルーファスにローズを会わせたのが間違いだったなあ」


やや呆れ気味にランドールがローズに問い掛ける。


「あの日?もしかして、初めてルーファス様にお会いした日の話ですか?」


ローズが問い掛けると、ランドールは大きく頷いた。


「そうだよ。あの日からルーファスはローズにご執心なのさ。十八の大人の男が十歳の少女の個人情報を探る様はホラーだよ」


半笑いのランドールの脇をルーファスが肘で突く。


「お父様とお母様の話は本当だったのね。当時八歳の私でも覚えているわよ。良からぬ男に狙われているからローズお姉様を一人にしないようにって凄い剣幕でお父様が屋敷の警備を強化しだしたのよね。ルーファス様が一枚上手だったわけだけど」


可笑しそうにクラリスは笑う。


「学園では必要最低限の接触で抑え、父上にもうローズに興味が無いと勘違いさせた上、ガルニエ侯爵の息子と破談が決まってすぐにこれだもんな。認めざるを得ない状況に追い込んでガブリなんて、人の皮を被った狼だ」


ヘラヘラと笑う二人にルーファスは不服そうだ。

ローズは種明かしをされた手品を見ている気分になる。

そんなに以前から慕ってくれていたのかと驚く。

父母が以前話していた話は本当だったのかと奇妙に納得した。


「今日も腹が空いている。帰宅してゆっくり味わいたいのだ。彼女は連れ帰るが、構わないな?」


有無を言わせないルーファスの態度にランドールとクラリスは溜め息を吐いて呆れていた。

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