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「お姉様!久しぶりね!!」


妹のクラリスは明るい表情で屋敷のエントランスホールに降りたローズに駆け寄って来た。


「クラリス……久しぶりね」


ローズはマリアンヌから言われた通りパーティーの支度をした。

そして、久々に宿舎から帰ってきたクラリスと対面していた。


「あとは、婚約おめでとうと言うべきかしら?それにしても顔色が冴えないわね。おめでたい事の筈なのに。もしかして、望まぬ婚約だったかしら?」


クラリスが心配そうにローズの顔を覗き込む。


「いいえ、お相手は本当に素晴らしい方で……素晴らしい方なばかりに、私が相応しくないのよ」


肩を落とすローズ。


「相手の方がそう仰っているの?」


「そんな事は仰らないわ。ただ……分かるでしょう?私はあなたやお兄様の様に賢くもないし、容姿もこんな感じでしょう?」


クラリスはローズの物言いにややむきになって反論する。


「お姉様!そんな事ないわよ、お姉様は素晴らしい女性よ!お姉様の価値を認めない人間は、以前の婚約者のユージーン様か、お姉様くらいよ!自信を持って」


秀才の妹に慰められて更にローズは落ち込んだ。


「こら、ローズが困っている。クラリス、それくらいにしなさい」


エントランスに降りて来たランドールがクラリスを制止する。


「お兄様、お久しぶりです」


ローズの顔を一瞬心配そうに見てからランドールは笑顔を作る。


「ローズ、婚約おめでとう。ルーファスはさぞ喜んでいるだろう。今日のパーティーには二人で行くのかい?」


「いいえ、お声掛けしていません。急に声を掛けても迷惑かと思いましたので」


「何を遠慮しているんだ?会場で会った方が気まずくないか?」


ローズは緩く首を振り、俯いた。


「まあ、いいか。行こうか。父上と母上は先に出たらしいから、兄妹水入らずで行こう」


今日のパーティーにはルーファスも来るらしい。


何事も無く終わればいいのだが、そう考えた。










パーティー会場は大層な賑わいを見せていた。


父母と合流し、揃って主催者夫婦に挨拶をしてからそれぞれ付き合いのある人物へと挨拶へ散った。


一番付き合いのある人間が少ないローズは、早々に壁の花になってしまった。




「ローズ・ルーセル嬢、少しお話よろしいですか?」



ローズが飲み慣れない酒のグラスを口も付けずに持て余していると、可愛らしい女性から声を掛けられた。


「私、ユージーン様と仲良くさせて頂いている、ミモレ・ノワールと申します。ローズ様とは浅からぬご縁があると思いましてお声掛けさせていただきましたの。今日もユージーン様と二人で来ましたのよ」


見下す様な自信満々のミモレと名乗った少女の視線。


「はあ、わざわざありがとうございます?」


よく話の筋も分からず疑問で返してしまった。


「ミモレ!急に急いでどうしたんだ?ん?こちらの美しいご令嬢は?」


ミモレの背後から焦って現れた青年には覚えがあった。

ラッセルから婚約の打診を受けた際に見せられた姿絵にそっくりだった。

いや、そっくりなのは姿絵の方なのか。

その人物はユージーン・ガルニエで間違いないのだろう。

と、するとミモレと名乗った少女は、ユージーンとの婚約が破談した原因になった子爵家の娘なのだろうと、ローズは推察した。


「初めまして、ガルニエ様。ローズ・ルーセルと申します」


ローズは、挨拶するべきかかなり迷ったが、何もしないのも不自然な気がして結局自ら名乗った。

奇妙な関係だ、と思った。

半年という短い期間にしろ、互いの顔も名前もあやふやな元婚約者。

勿論ローズの姿絵もユージーンに送っていたが、見てもいないのだろう。


「君が……、ローズ?」


「ユージーン様!ちゃんと見つけてくれて嬉しいですわ。今ローズ様に、ユージーン様と仲良くさせて頂いてますとご挨拶していましたのよ」


ユージーンの腕に絡みつきながら愛らしく話すミモレ。

これが本当の恋人同士なのか、とローズは何となく感心して見惚れてしまう。


「ローズ、君は誰かと来ているのかい?ご家族と一緒かな?少し話せるかな。出来れば、二人きりで」


「ユージーン様!」


ユージーンがミモレの絡めた腕から離れ、ローズの腰に腕を回そうと近付いて来た。

ローズは咄嗟に身を固くしてしまう。

ルーファスには感じない嫌悪感が背筋を這うのを感じた。


「いえ。少し気分が優れないので、兄や妹と帰ろうと思っていますので。お誘い頂いて恐縮ですが」


ローズがユージーンの腕を避けながら拒否する。

ユージーンは不愉快そうに、舌打ちをする。


「たかだか伯爵の娘がお高く止まりやがって」


吐き捨てられた台詞にローズは凍りつく。


「ユージーン様。彼女、男性の扱いを知らないのよ。身の丈に合わない男性ばかり選ぶって先日から噂で持ちきりなんですのよ」


ミモレが嫌らしい嘲笑を含んで扇で口元を隠す。


「へえ、その話よく聞きたいな」


ユージーンが笑いながらローズを見下ろす。

ローズは唇を噛んで黙るしかない。


「なんでも、ユージーン様に破談にされた後、自棄になってルーファス・フレミング様に卑しくも迫ったらしいのよ」


「本当かい?こんなに純情そうに見せかけて、実はとんだ阿婆擦れだったって訳だ。笑ってしまうな」


耳障りな笑い声を二人が上げながら、ローズを責める。

ローズは涙が溢れそうになるのを懸命に堪えた。


何故自分が責められなければならないのか。


婚約してから一度も会ってくれない婚約者。

手紙だって何度も出した。

返事は一度も来なかった。

ならば、と贈り物をした事もあったが、未開封で送り返された。

どうにもならずに時間だけが過ぎ、結局ユージーンはミモレを選んで婚約自体を取り消されてしまったのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、全部届いてなかったぽいな。 破談になったのも現婚約者の策略とか? 全力で逃げて!もう遅いか(爆
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