表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

2

その一杯が駄目だった。


酒が強い訳でも無いローズは、ルーファスに差し出された酒に口を付けると、燃える様な熱さを感じた。

かなり強い酒だと分かった。

しかし、ローズが驚く顔をどこか可笑しそうに見つめるルーファスに断ることが出来る度胸がローズには無かった。

冷や汗をかきながらゆっくり飲んだ。

喉が焼けるように熱い。

たちまち身体が熱くなるのを感じた。

酩酊感が襲った後は、身体から力が抜けていった。

足元から崩れ落ちる感覚が襲い、ふらつくと、ルーファスが腰を支えてくれた。


「酒に弱いというのは本当らしいな」


霞んでしまい、暗くなりかけた視界でルーファスを仰ぎ見ると、思いの外近くにルーファスの顔がある。

ぼんやりと思考を放棄した頭でローズがルーファスを見つめると、ルーファスの形の整った唇が笑みを描いた。


「ここで倒れられては面倒だ。顔を出したから義理は果たしただろう。行くぞ」


ルーファスに腰を抱かれたまま、ローズは歩く。


「どこへ?」


回らない頭で何とか言葉を紡ぐと、ルーファスが耳元で囁いた。


「二人きりになれる所へ」


甘い低音がローズの耳をくすぐった。

まるで恋人に愛を囁くようなルーファスの声をもう少し聞いていたいな、とローズは思った。

しかし、婚約もしていないにもかかわらず、二人きりなど、あり得ないと頭の隅で思った。


「それはいけません」


考えていることがアルコールにより素直になってしまった口から溢れると、ルーファスの指先がそっと塞ぐ。


「どうして?」


いつも氷のように冷たい顔ばかりしか見せないルーファスが瞳の奥に炎を灯したような情熱的な表情でローズを見る。

一応ローズの意見を聞いてくれる姿勢は取っているが、足は止めずに、馬車に連れ込まれた。


「私などと噂が立ってはこまるかと」


呂律の回らなくなってしまったローズはなんとか言葉を紡ぐ。


「困る事は俺には無い。……それとも貴女は困るのか?」


抱き抱えるようにローズを座らせ後ろから囁かれると頸がゾクゾクとした。


「いいえ、でも」


身体を離そうとするが、逞しい腕で捉えられる。


「逃げないで。何も考えなくていい。ただ俺に任せてくれたらいい。でなければ貴女を無理矢理酔わせた甲斐が無い」


そのままルーファスに頸を舐め上げられた。

感じたことのない快感が背筋を襲う。

回されたルーファスの腕に、縋るようにしがみ付くしかローズには出来なかった。


「心配しないで。優しくする」


「い、いけません」


ちゅっと音を立てながらルーファスに頸を愛撫される。


「どうして?」


もう答えられなかった。











翌日、目を覚ますと大変なことになっていた。


隣で眠るルーファスを見て頭を抱えた。

勿論裸だ。

途中から記憶が無い。

しかし、言い逃れの出来ない状態だ。

困ったことになってしまった。

きっと昨日ローズが抱き抱えられるようにしてルーファスと会場を去ったことも知れ渡っているに違いない。

もうまともな結婚など無理だろう。

温厚な父母であるが、きっと許してはくれないだろう。

兄や妹も幻滅するに違いない。

なんて軽はずみな行動をしてしまったのだと自らを呪っていると、ルーファスが身じろぎした。

ローズは慌てて寝台から降りると、其処彼処に脱ぎ散らかした服を拾った。


「もう帰るのか?」


気怠げに半身を起こしたルーファスに声を掛けられる。


「え、ええ。長居して申し訳ありません。帰ります。辻馬車が捉まる場所を教えて頂けると有り難いんですが」


ルーファスをなるべく見ないようにしながら衣服を着ていく。

もたもたとドレスの後ろのボタンと悪戦苦闘していると、ルーファスが回り込んで留めてくれた。ローズの後ろ髪を持ち上げて首筋にキスを落として言った。


「待っていろ。一緒に行く」


全裸のルーファスが部屋から消えたのを確認してからローズはヘナヘナと座り込んだ。

一夜を共にしただけのローズを送ってくれるらしい。

ルーファスは意外と紳士だなと酒に酔わして手篭めにされたにも関わらず、ローズは明後日のことを考えて感心していた。


間も無く戻ってきたルーファスに、ローズは驚いた。

正装だ。

どこかへ出かけるのだろうか?

ローズは疑問を口に出来ないままにルーファスに促されるまま帰路へと誘われた。


馬車の中では相変わらず無言だったが、妙な緊張感があった。

とてもでは無いが、昨夜の事をルーファスに聞けるような空気では無かった。

なにを考えているのか、ぼんやりと馬車の小さな窓から外を眺めている横顔からは何も読み取れなかった。

不意にルーファスがローズの方を見る。

すると馬車が止まり、到着をコツコツと扉を御者が叩いて報せた。

ルーファスがスカーフタイを外し、広げてローズの首元に器用に巻きつけた。

理解出来ないルーファスの行動にローズが首を傾げる。


「着けておいた方が良い」


トン、と自らの鎖骨の辺りを一度指先で叩く仕草をルーファスはした。

訳がわからず、頷いた。


「送ってくださり、ありがとうございました」


ローズが馬車から降り、深く礼をするとルーファスは不機嫌そうに口をへの字にする。


「挨拶くらいさせてくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ