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ルーファス・フレミング。


二十八歳の若き侯爵であり、王立学院の教授だ。


甘さは無いが、端正な顔立ちと長身。

その美貌から一夜限りの関係を迫る学生や貴族令嬢が絶えないという。

事実、来るもの拒まずなのか、関係を持った学生も両手で収まらないという噂も聞く。


そんな節操の無い、ルーファス・フレミングと何故こんな事になっているのか———。


ローズ・ルーセルは寝台の上で、隣に眠るルーファスを見て頭を抱えた。













ローズは、学院理事長の娘だ。

ルーセル家は家格は伯爵家ではあるが、代々優秀な学者を輩出する名家だ。

実際にローズの兄も研究者として高く評価されているし、ローズの妹も学院を優秀な成績で昨年卒業し、今は史上初の女性官僚として王城で働いている。

しかし、真ん中のローズだけは、違う。

可もなく不可もなくで、どうにか家格の釣り合う侯爵家に嫁入りが決まり婚姻までの婚約期間に学院で事務のような仕事をして過ごしていた所謂腰掛け事務員だった。


()()()というのは、この度破談になったからだ。


というのも、相手側のガルニエ侯爵家の長子であるユージーンが、婚約から半年で若く美しい子爵の娘と婚姻したいが為に破談を申し入れてきたのである。

ローズは貴族令嬢としては当然ながら、男性経験も乏しく、イマイチ婚約がピンときてはいなかった。

しかし、他人からの拒絶は思いの外堪えた。

人並みに落ち込んだ。


そんな時、学院の教授や助教授、事務方。

それから学院の経営陣に、出資してくれている貴族等を招いたチャリティーパーティーが開かれた。

まだまだ傷心しているローズではあったが、理事長の娘でもある為に断れる筈も無く参加する事になったのだ。

そこで兄に同伴を頼むと、今は研究が多忙を極める為、友人に頼んでおくと返答された。


そして来たるチャリティーパーティーの日、ローズの前に現れたのはルーファスであった。

ローズとルーファスは数度話した事がある程度の関係でしかなく、伯爵家から会場までの間二人きりである事は大変緊張した。

その緊張に拍車をかけるように、ルーファスは無駄口を叩かず、無言であった。

きっと兄に頼まれて嫌々来たのだろう。

ローズは、馬車に乗ってからずっと窓の外を見つめるルーファスの横顔をそっと窺った。

端正な顔立ちで無表情だと、少し怖かった。

「あの……」

ローズが呼びかけると、無表情のまま視線だけを返された。

「今日はありがとうございます。会場に着いたら別で大丈夫ですから」

なんとか絞り出して言うと、ルーファスは綺麗な形の眉を眉間に寄せた。

「俺に友人の妹君を放って行けと言うのか?」

矢張り不機嫌そうなルーファスに、ローズは返す言葉も無く俯いた。

丁度、馬車が停車した。

到着を知らせる合図で扉をコツコツと叩かれた。

ルーファスはローズを見て溜め息を吐くと、さっと馬車から降りると、ローズに手を差し出した。

ローズが躊躇していると、盛大な溜め息を吐かれた。

「行くぞ」

呆れられたかしら?

ローズは不安になりながらも、唯ルーファスについて行くことしかできなかった。

緊張で足は縺れそうになるし、コンディションは最悪だった。


パーティー会場に着くと、辺りが騒ついた。

それはそうだろう。

今まで女性を伴ってパーティーに行くことの無かったルーファスが今回に限ってはローズと共に現れたのだ。

ヒソヒソと噂話を交わす空気にローズは辟易した。

苦手なのだ。

注目を浴びることが。

優秀な兄や妹に隠れるように過ごしてきたローズにとっては、今の状況は針のむしろのようであった。

暫くルーファスについて行くと、突然ルーファスが振り返った。

「何か飲む物をもらってくる。一人で大丈夫か?」

振り返ったルーファスの顔を見返すことも出来ずに頷くと、一瞬の間の後にルーファスは去って行った。


ルーファスの気配が消えてホッと溜め息を吐く。

ローズは、来たばかりで既に帰りたい気持ちで一杯だった。

ルーファスが離れてからも時折刺さる視線に気持ちが萎縮する。

改めてルーファスの人気ぶりを再確認した。


釣り合わない相手とパーティーに参加することは、とても気を遣うらしい。

きっとルーファスも嫌になったに違いないと思考が暗くなって落ち込んだ。

やっぱり無理にでも兄に同伴してもらえば良かった。

そうすれば、また優秀な兄の後ろに隠れていれば誰も平凡なローズのことなど気にしないだろう。

後ろ向きな気持ちがどんどんローズの中に降り積もって行く。

俯いて唇を小さく噛んでいると、そっと頰に触れられる感触があり、慌てて目線を上げた。

「噛むな。傷が付く」

ルーファスが、ゆっくりと左右に親指を動かす。

ローズは背筋に這い寄るぞくぞくとした悪寒のようなものを堪えて、ギュッと両手を握った。

まるで捕らえられたようにルーファスの瞳から目が離せなくなる。

暫く見つめていると、ルーファスは口端を持ち上げて笑った。

「飲め」

差し出されたグラスを受け取ると、ローズは慌てて両手で受け取った。

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