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2)仮面の下で願うモノ

「……というワケなんです」

「あ、はい」


 現在女神は魔神?改めカミナから彼の身の上の話と、これまでの経緯を聞き取っていた。目覚めるとファンシーな仮面を被った大筋肉ダルマがいた事にはびっくりしたが、自分を介抱していた形跡と一応ながら対話に歩み寄るその姿勢を読み取って、おっかなびっくりカミナの話を聞くことに決めたのだ。

 そして現在。


(こ、コイツ死んでないじゃない。や、やらかしたわぁ……)


彼女はひどく後悔していた。彼女は気づいてしまったのだ。カミナに死を追いやったのが自分自身であるという事に。


 アルメリアの女神としての権能の中に制約というモノがある。この権能は自他共に全ての嘘を許さない力で、彼女が若くして主神まで至った原動力の一つであり、もっとも女神の信頼する能力だ。その権能をもって話を聞けば誰にも真実は隠せない。


 だからこそ対話に挑んだ女神なのだが。そこで知れた事はあまりに彼女にとって都合の悪い事だった。


(まずいわね。自分の死の運命にすら打ち勝ってしまった男を他の世界から奪ったなんて知れたら、それこそ世界間の戦争になる。相手はあの極限世界。弱小のウチじゃ死あるのみ。だめじゃない。凄くだめじゃないの!!)


 これは大問題である。実は異世界転生や転移にもルールがあって、なんでも好きにやっていいワケではない。死ぬ事が未だ確定していない存在を、本人の同意なく異世界から奪ってはならないし、もちろん故意にそんな状況を作る事も禁止されているからだ。


(せ、制約の権能のせいで私はルールを破れない。私はコイツを接待召喚に切り替えなくちゃならなくなった!)


 接待召喚。つまり召喚された人間の方が権利を有する召喚の事である。

死ぬ事が未だ確定していない存在を、本人の同意なく異世界から奪ってはならない。このルールが彼女を縛る。彼女はもう彼の命を奪っている以上、もう契約はもはや破棄できない。女神でさえ異界の命の蘇生は不可能である。


この契約を彼の意思で承諾されなければ女神の不成約が成立し、自分の権能に従ってそれを異世界に申告するハメになる。……そうなれば世界の死だ。


 つまりカミナはここでごねればごねるだけ女神に力を貰えるチャンスを得ている。それを成立出来なければ女神とその世界に待っているのは絶対の破滅である。


まさに接待。

未曾有のチートフィーバーが来ていた。


(く、まずはそれなりに好条件を提示してコイツをいい気にさせてやらないと。そこからごねられたら事だわ。乗り切るのよアストレア。貴方なら出来る!

制約を乗りこなす私の力、とくと知るがいいわイリス カミナ!!)


 制約により嘘をつけず、ルールを破れない彼女だがそれは他者を騙せない事と繋がらない。彼女はその隙間をぬって他者を翻弄する天性の詐欺師である。


こうして女神が交渉の決意を固めた時。


(ああ、やはり女神様ともなると懐が広いもんだな。出合い頭に気絶までさせちまった俺の話を親身に聞いてくれるなんて人間が、いや神様が出来た御方だ。

もし俺にやれる事があれば出来る限り尽力しよう)


 カミナもまた決意を固めている。彼は自分の話をきちんと聞いてくれた女神様を高く評価していた。女神は彼の人となりを判断する材料としてしっかり聞き込みをしていただけなのだが、そんな事は極度に対人スキルが低いこの男にはわかるハズもない。


 むしろこの男の中では”ちゃんと話を聞いてくれる人”というだけで、恐ろしく評価が高い。だってそんな人10人もいないもの。だからお願いされたら大概何でもしてやれる。知らない子供にさえ命をかける男の何でもだ。割とホントになんでもなのである。


人の道から外れない範囲ならOK。やるよ?

……本当に心配になる男だ。


こうしてちょろすぎ男と、後がない女神の、世にも噛み合わない交渉劇が幕を明けた。



「実は貴方にここに来て頂いたのは他でもありません。貴方にはこれから私の世界に転生へと貰いたいと思っているのです」

「転生、女神様の世界に?」


(命令口調は使えなくなったわ。あくまでこれは私側からのお願いだもの。それにコイツが死んだ原因を想像させるような言葉も使えない。うまく情報を与えて誘導する)

(夢半ばで散った軟弱なこの俺に、女神様はチャンスを与えてくれるのか!)


「はい。私の世界は未だ幼く、またまだ不安定な状況なのです。剣と魔法の力を秩序とし、人々は多くの魔物達に怯えて暮らし、さまざまな争いが絶えないそんな危険な場所です。

文明も貴方の世界でいう古代ローマ時代を魔法の力で少し栄えさせた位でしょうか。


私の世界は未だ1人でも多くの力ある者を望んでいるのです。その装備など貴方の生活が不自由無きように配慮させて頂きます。どうか貴方の力を貸して下さいませんか?」

「なるほど……」


(くっ、沈黙。やっぱそりゃ嫌でしょうねぇ。私だって嫌だものこんな条件でいちいち危ない世界で暮らすなんて。はいはいわかりました。あげますよチート。それでいいでしょ?)

(……ふむ。二度目の人生を送れるだけでもありがたいのに、至れり尽くせりだな。ありがたい事だ。なんと慈悲深い女神様だろうか(感動中))


「もちろん。それだけで唯貴方にそこに迎えと言うのではありません。貴方の望む力を1つ、なんでも仰ってみて下さい。無茶なモノでなければそれを差し上げましょう」

「そのような事までして下さるのですか?」


(はい喰い付いた。ええ。それですむならね。この条件じゃ2つも3つも要求されてもおかしくないもの。それにコイツ身の上を聞くとお人好しっぽいから変な願いはしないでしょ)

(……本当に言葉もないな。これからは決して神様を無下にしたりはすまい。しかし望む力か。ふむ。今一番したい事……。ああ、アレがある。)


「では自分の知り合い達に、自分が別の世界で生きている事を伝えて欲しいです。こんな俺でも少しばかりは、それの死を悲しんでくれてる人がいると思うんで。俺はその人達を安心させたいと思います。手紙でもなんでもいいんでお願いします」


(くっ、コイツ。未死召喚の権利に触れてきた! まだ死んでない魂を召喚した私には確かにそれを求められたら従わなきゃならない義務がある。面倒な事を。権利なんて知らなきゃないと同然なのに。ここはコレね)


「それでは手紙でなく、貴方の知り合いに霊体のままお会いして来てはどうでしょう? 1日時間を差し上げますわ。存分に挨拶をしてきて下さい。ついでにその方々に少ないながら祝福を授けましょうか。その人生に幸あらん事を祈ります。

それとこれらは貴方の願いとは別です。貴方を招いた私の当然の義務ですからね」

「なんと、女神様感謝します」


(印象操作。これでもっと面倒くさい疑似実体化や痕跡の残る手紙の配送は避けられる上、さも私がこの男に配慮したように見えた筈よ。

他は面倒だけど譲歩したげる。そこからこの男の死因を突っつかれらアレだしね。)


(……ありがたい。俺としてはそれが叶えば他に望む事なんてないんだが、せっかくのお心遣いだ。きちんと考えてみよう)


「なんでも構いませんよ。伝説の英雄の装備や、貴方の世界の品物を取り寄せる力など、貴方の望む事を仰ってみて下さい。例えば、貴方のその容姿を変えてみるとか」

「……出来れば姿はこのままでいたいです。死んだじいさんの口癖なんです。親から貰ったモンは大切にしろって。ソイツを俺は裏切りたくない」

「……そうですか」


(そんなモン大切にすんじゃないわよ!(張り付いた愛想笑い))


(嗤われてもおかしくないんだがな。ああ、この人どっかあの人に似てるんだ。全部受け止めてくれる感じとか。そりゃあすげぇや。どうやら俺の恩人は神様級だったらしい。


さて。……まぁ、俺の願いなんざ唯一つ。今も昔も家族だよなぁ。誰かを愛して、愛されたい。唯それだけだ。でも家族なんざ願って手に入れるのも違うと思う。そういうのは直接望んじゃいけねぇ気がする。だったらどうする。それ以外で考えるか。


努力すりゃ俺でもいつか掴めるか、家族。

いや、待て。


俺はこんな人にさえ引かれちまうような男だ。今はこの◯ンパンマンマスクがあるから会話できるが、これを外したらどうだ。こんな懐の広ぇ女神様にさえ怯えられる俺が、自力でそんなモン手に入れれるのか?


……まったく想像が出来ねぇ。


そんなら、アレだ。家族じゃなくて、なんかそれに近いモン手に入れれるような。そんな力を貰えりゃ、どうだ。それだって相当人の道に外れそうな力だが、目の前を女神様を見ていると、これがどうも俺に与えられた最後のチャンスのような気がしてくる。


だったら、そうだ。要は俺が愛されればいいんだから、そうだ!)


この時、普段考え込まない男が考えた超理論が、彼のこれからの人生を決定づけた。


「女神様決めました。俺は愛されたい(モテたい)です。

多くの人から愛されるように(モテるように)なりたいです」

「……なるほど」


(人から愛されたいって事だから、ようはモテたいって事だろう。着地点として上々かな)

(嘘がない。ああそう。コイツクズね。ゴミクズ。女神の前でこんな願い望む男なんて虫ほどの価値もない。腹ただしいわ。不敬が過ぎる。こんな願いこのまま叶えてやったら私の世界がぐちゃぐちゃになる。そんな事認められない。何か揚げ足を取れる言質を取らないと)


「もっと具体的に聞いていいかしら、貴方はどんな人の()を望むの?」


(……女神様はお見通しか。流石だな。なら無理にモテたいなんて言うことはねぇか。)


「はい。そうですね。自分は男ですのでやはり女の人から愛されたいです。出来れば醜くない人から。年は上でも下でも同年代でも構いませんが。

誰でも等しく愛したいと思います」

「なるほど。他にもありますか?

出来るならば全て仰ってみて下さい」


(俺は顔じゃあ散々苦労してきたからなぁ。出来りゃあ家族にこんな辛さ背負わせたくないし、ばあちゃんだろうが子供だろうが家族に違いなんてねぇ。どっちも尊いもんさ。

ああ、そうだな。あとは……)

(ふん、典型的なハーレム願望ね。醜くないってようは顔のいい女の事じゃない。年上だけでなく幼女まで手を出したいって?

死ねばいいのに)


「では。そうですね。その人達が身も心も健やかであれば嬉しいですね。飢えて痩せ細っているような事も、荒んだ言葉を使うような事もなければ言うことは有りません」

「(頷きながら)なるほど?」


(そんな家族の姿、見たくねぇもんなぁ)

(随分望みのお高いことね。世界中の極上の女を貴方のモノにしたいのかしら?)


「まぁ極論はどんな人でも、いいんです。気が強くて、回りに噛み付く事しか知らない人でも、陰のある人でもね。どんな人でも、愛し会えれば、それで、いいんです(ぽたり)」


 その時、仮面の下から雫が落ちた。それは心の底から誰かに愛されたいと思い続けた男の涙。自身も気付かずに流れた祈りの雫。震えそうな身体を必死にこらえる。


(どんな人だっていい。お互いに思い会えればそれだけで充分なんだ)

(結局ヤレればどんな女でも良いって事? なんて節操のない。しかもアレヨダレが仮面から垂れてるのかしら。ああ、今スグコイツ殺したい。でも手が出せない。……ストレスだわぁ)


「出来る事なら多くの人を愛したいし、愛されたい。そうして多くの幸せを、共に掴みたい。そしてその(幸せ)全部、掴み取れるようなそんな、そんな力が欲しいと思います」


(そうだ。そんな家族の幸せ全部、掴み取れるようなそんな大きな男に、俺はなりたい。そんな力が俺は欲しい。……まったく自分で言ってても呆れる程に都合のいい事ばっかいってんな。こんな望み、無理だよなぁ)

(ふふ、ついに掴んだわ。貴方の言葉尻。そうね。強欲な貴方にピッタリの方法で貴方の願いを全て聞き届けましょう)


「ええ、分かりましたイリス カミナ。喜びなさい。貴方の望みはきっと叶います」

「本当ですか!?」

「ええ、もちろん」


(まさかこんな望みが通っちまうとは……、この女神様の懐の広さは一体どれほどのモンだって言うんだ。すげぇな、神様ってのは!)

(それが貴方の望む形とは、言わないけれどね)


「それでは貴方の願いを叶えた上で、貴方は私の世界に転生して頂けますね?」

「もちろんです、こちらこそお願いします!」


(そっか、俺、家族、出来るかもしれねぇ。ありがてぇ話だ。無念に死んだ俺を引き止めて下さったばかりか、俺の悩みまで解決させて下さるとは。もう女神様には足を向けて寝られないな。向こうについたらさっそく神棚か仏像(間違い)かなんか作ってお祈りしないと)

(よし、言質とった。契約完了。なんとか無茶じゃない範囲内で契約まとめられたわ。こうして私の世界は救われましたと。……後は貴方の処分だけよね?

成長した貴方の魂を私の世界の力にしたかったけど、もういいわ。こいつ死んだほうがいいもの。幸いそのまま殺しても黒字だし。問題ないわね)


「それでは貴方に親しいモノの元に貴方の魂を送る準備をするので貴方は一度眠りにつきなさい。貴方との絆の糸が、彼らの元に貴方の魂を導くでしょう。

そしてそれが終われば貴方は私の世界で目覚めます。私はいつでも貴方を見ていますよ?」

「はい、本当に色々とありがとうございました。この御恩は生涯忘れません!!」


(ええ、見ててあげるわ。貴方が破滅するまで、ね?)


 こうしてちょろすぎ男と、狡猾な女神の、噛み合わない交渉劇が幕を閉じた。

結果、女神の警戒と勘ぐりは、別に取り付けなくともさっくり転生してくれた筈のカミナに多くのモノを与え、彼をその地に送り出す事になる。


 そして幕間で女神は1人、舞台に立った名優の如く言葉を綴る。


「ええ、貴方の望みどおり。

掴み取った全部、女に変わる力をあげるわ。これから貴方の掴んだモノは衣服も食事も何もかも貴方の望みどおり美しくて健康的な女に変わるでしょう。

そして貴方自身もね。


満足でしょう。

だって貴方が望んだ事ですものね?


それら全てから貴方は愛される。

でもその時には、きっと貴方も女になっている事でしょう。

それはとても楽しいと思わない?


汚らわしい不敬の獣!!


ああ、でも。その結果貴方が自分を愛しすぎて変な考えを持ってしまってはいけないから、そこは当然考えてあげましょう。


そうねぇ。貴方だけもっと、それで代わりに美しくなってしまうなんてのはどうかしら? そして貴方は多くの男から狙われるようになるの。そしてそのゴミどもまで女に変えるの。それはとても素敵な劇になると思わない?


悍ましい化け物め!!


でも、足りないわ。

だから私が貴方に、試練を与えてあげるわね。きっと気に入ってくれると思うわ。

貴方が冷たくなってから、ね?


楽しみねイリス カミナ!!」



そうして物語は巡り始める。

その世界で転生を表す流星を見て、動き出す者達がいる。



「……見えたかスティングレイ?」

『ええ、誰かがまたこの世界に転生するみたいね?

行くのかしらレイブン」

「ああ、転生者ってのはみなオレらの世界に大きな災いをもたらす。どんなヤツか見極めて、必要ならば早めに潰すさ」

『熱心だこと。では行きましょうか我が竜騎士殿?』

「ああ、もちろんだ棘持つ者の王よ。魔物達の平穏はこの俺が護ってみせる!」

『星は西に落ちた。あそこならアデルの森って所かしら?』

「お前ならこの南の果てから2日もかからん

飛ばすぞスティンレイ!!』

『仰せのままに我等が騎士よ』



それは険しき山脈に囲まれた魔物達の王国を守る異端の竜騎士であり。



「お父様、神託が降りたというのは本当かしら?」

「ああ本当だミリア。また神の威光を汚した者が誤って世界に降り立ったらしい」

「それは大変ね。ねぇお父様。その者の討伐、私に譲ってくださらない?」

「ほう、どうしてだね愛しい娘よ」

「私ももうすぐ王都の学園にあがる頃でしょう? 誇らしい功績の1つも欲しいじゃない。領民達の献身のおかげで立派な服も宝石も揃ったけれど、それだけじゃ足りないの。

ねぇ良いでしょお父様?」

「ほほ、仕方ないなミリアは。わかったわかった。好きにしなさい」

「やったぁ。……あら場所はリーヴァイの近くなのねぇ。ならついでにリザイア男爵の所で所で新しい宝石でもおねだりしてみようかしら?」

「彼もきっと喜ぶよ。ははは、私はいい寄子を持った!」

「うふふ、楽しみね♪」



領民の血で出来たワインを飲み干す悪徳公爵の娘であり。



「おお、なんという事だ!」

「どうされたのですか学園長?」

「光が見える。全てを束ねる優しい光が降臨なされる」

「まぁ、予知が見えたのですね!」

「同時に光を覆わんとする嵐も見える。いけない。

そうなれば世界は変わらず暗がりのまま。

このままでは世界は希望を失うかも知れぬ」

「その方はどこに降りて、どのような方なのです?」

「虹だ。虹を形にしたような御方

西の深き森の中、世界に虹の橋が架かり始める」

「調和の象徴……。

アデルの森にそのような方が」

「マリアベル。星詠みの目を持つ我が弟子よ」

「はい。私が参りますベリル様。

叡智の塔の賢者たる貴方の弟子に相応しき働きをしてみせます」



予言の賢者とその心優しきその愛弟子であり。



そして現代。

 とても女性の部屋とは思えないどこかの研究室のような部屋の中で、端に置かれた飾り気のないベットの上に寝そべりながら1人愉快そうに笑う少女。


「はは! なんだ、やっぱり生きてたじゃないか依里朱くん?」


(世界を全て数字でしか見られない私が唯一認識出来たようなデタラメな男が、あの程度の状況で死ぬわけがないだろうさ。そして彼の認識をこの私が出来なくなる筈がない。

わかっていたさ。だがうれしくはある。けどな)


「あれだな君、流石にダメだぞ。あれだ。父の後に私って順番だけは頂けない」


 そういって肩に架かる程の綺麗な黒髪を頭の後ろで結んだ少女は、つけていた眼鏡を外す。そうするだけで委員長然としたその真面目そうな容姿が、整いすぎて恐ろしい程の、清楚さと妖艶さを混ぜ合わせたモノに変化する。


彼女は親指の根本に挟んだフレームの端に唇を当てながら、少しだけ頬を膨らませた。


「さて、忙しくなるな」


目を閉じながら先程見たものの数値を思い浮かべる。


 彼女は生まれついての異能者であり、破綻者である。長らく彼女の世界は数字のみだった。彼女は人間を識別できるが、それはそれぞれの顔や姿を認識しての事ではない。その人それぞれの数的差異を見ての事である。


 彼女は自分の異常を偽装してきた。面倒が嫌いな彼女は自分の異常性を騒がれる事をよしとしなかったし、世の事全てを数値で知れる彼女にとってそれを行うのは簡単な事だった。人の感情すらも、彼女にとっては数値の集合体でしかない。


 その為彼女は長らく人を人と思えなかった。父や親族も同様に。唯の数値が動いている世界で孤独のままに生きてきた少女は、ある日父から話に聞いた不可思議な少年に合いに行く。


その時少女は始めて数値以外のモノがこの世にある事を知る。


「君が生きているなら話は早い」


(その核はきっとこの先にあるのだろう? 君の残した痕跡の、このおかしな力量偏位の先に。ならば後はそれを追う方法を探るだけの話だ。女神とやらにも挨拶(・・)せなばな。

……異世界帰りなどというお祖父様の与太話がどうやら役に立ちそうだ。思えば失踪した私の母とやらも、それを追ったのかも知れんな?)


「さて、生まれて始めて全力とやらを尽くすとしようか」


ベットから身を起こしながら、どこまでも冷淡な魔女は呟く。


(依里朱くん。いやカミナ。

君は学園で私が君に接していた事を責任感の強い委員長だからだ、などと思っていたようだけどね。いやいや違う。それはひどい勘違いだ。私は君が学園に訪れると聞いたから委員長になっただけなのさ。その方が君との時間を作るのに、効率がいいだろう?


なに。それと今回も同じさ)


「……舐めるなよ魔神殿。学園でお前の巫女などと言われた女は、必ず君にたどり着くぞ」



真性の魔神である。



流星が1つ落ちた。落ちた先は深き森。数多の命が生まれ、死にゆく天然の大迷宮。


アデルと呼ばれる大森林で、男は女神へと生まれ変わる事になる。


閲覧ありがとうございます。

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