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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
96/438

096:『留美ちゃんが暗い』 

せやさかい・096

『留美ちゃんが暗い』 





 二時間目が終わってから留美ちゃんが暗い。



 理由は音楽のテスト。


 二時間目は音楽の授業やねんけど、授業の終わりに「来週、歌のテストをやります」と音楽の池田先生が宣告。


 留美ちゃんは人前で自己表現するのが苦手。


 それも歌を唄うなんて、あたしらに置き替えたら人前で裸になるのも同然。


 

 どうしよう……どうしよう……



 昼休みになっても、呪いの言葉を吐くように呟いてる。


 給食も半分食べたとこで止まってしまう。知ってる限り、留美ちゃんが給食残すのは初めて。白身魚のフライなんか、手付かずで残ってる。別に大食漢というわけとちごて―― 残したらあかん ――という義務感で食べてる。その義務感が吹っ飛んでしまうほどに気に病んでるんや。


「榊原、調子悪いんか?」


 なんと、田中が心配して聞きよる。


 田中が言うことは、たいていからかいのネタにしてやるんやけど、今日はいつになく真面目に小さな声で聞いてきよるんで「うん、ちょっとね」と答えておく。


 田中は、つかつかと留美ちゃんの横に行くと「食べへんねやったら、もろとくぞ」と宣告。留美ちゃんが「え?」と反応に困ってると、あっというまに、フライを手づかみにしてムシャムシャと食べてしもた。


「せふぁ、ウラウンドひふぞ」


 フライを咀嚼しながら瀬田を引っ張って教室から出て行きよった。


 時間にして、ほんの数秒。


 教室に残ってたもんで、気ぃついたんは、あたしと瀬田ぐらいやと思う。


「トレー持って行こ」


 普通に言うと、留美ちゃんは、何事も無かったようにトレーを片付けた。


 ほとんど瞬間の事やったし、留美ちゃんの頭は来週の歌のテストで一杯やったから、驚くとか怒るとか恥ずかしがるとかの反応をし損ねたいう感じ。


 田中がやったことは、まかり間違うとナンチャラハラスメントとか変態とか言われかねへんこと、軽くても「キモーー」とかのヒンシュクをかう行為や。



 田中本人に聞くのもお礼を言うのもはばかられるんで、休み時間に瀬田を掴まえた。



「オレもびっくりしたけど、えと……小学校でな、給食残すなあ! て、よう怒られとったんや田中。とことん食べられへんかったら残してもええねんけど、圧の強い先生でなあ、無理くり食べてリバースしてしまいよったんや。それから、ちょっとイジメ的にな……そんで、ちょっと飛躍しよったんやと思う。まあ、なかったことにしといたってえや」


「う、うん」


 昼からの授業は、いつも通りやった。


 さてさて、問題は音楽のテスト。


 簡単な方法はテストの日は学校を休むこと。


 むろん休んでも別の日にテストがある。あるけど、授業の枠ではでけへんから、放課後とかに音楽室でやらされる。先生とのマンツーマンやから、授業中にみんなの前でやらされるよりはマシやねんけど。留美ちゃんは、テスト嫌さにずる休みなんかぜったいせえへんしなあ……。


 これは、やっぱり頼子さんに相談かな。


 


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