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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
81/438

081:夢

せやさかい・081


『夢』 





 夢を見た。



 始まりはO神社の鳥居から。


 O神社は、この三月まで住んでた大阪市A区の神社。初詣に何度か行ったことがあるけど、特別の思い入れはあれへん。


 とにかく、O神社の鳥居を出て歩きはじめるところから始まる。足には約束のハイカットスニーカーを履いて南を目指す。バス通りを渡ると、城東運河に向かって上り坂。


 坂を上り詰めるとO橋、


 O橋は同じA区でも、うちの生活圏を区切ってる。通ってた学校は幼稚園から小学校まで、O橋の南側。三月に引っ越しせえへんかったら、中学も高校も、ここで済んだはず。


 O橋の北側は校区がちがう。


 小学生にとって、校区が違ういうのは違う街で、おおげさに言うとよその国。特別なことが無いと足を踏み入れへん。


 近所では間に合えへん買い物に行くとか、区役所に行くとか、それこそ初詣に神社に行くとかね。


 城東運河の上には高速道路がO橋とクロスして走ってる。車が通ると音がする。


 シューーーーーッ  シューーーーーッ って……。


 なんか昆虫系の化け物とか妖のようで、幼稚園のころは怖かった。小学二年生で高速道路が阪神高速やいうことを習たけど、たまに高速道路を車で走ったときは、ぜんぜん別の音がするので、O橋の下で聞いたのは別物いう気がしてた。


 橋を渡ると下り坂、小学校と高校が見える。


 小学校は、三月まで通ってたT小学校。その向かい、道路を挟んでA高校。両方とも鉄筋の巨大な校舎。道幅五メートルの一通を歩いてると谷底を歩いてる感じで圧迫感。

 風の谷のナウシカを見た時、この谷に似た景色があって、そう思たら素敵やと思えるかもと思たけど、ナウシカほどの根性はあらへんし、「姫さま」と呼んでくれる住人も居てへん。


 この街でのうちは完全にNPCやった、まるでアルゴリズムで決められてるみたいに同じ道を通って、先生やら同級生やらとは決まった言葉しか交わさへん。ここがFAOの世界で、キリト君と出会っても、この風体からしてNPCな少女には言葉もかけてくれへんやろなあと思う。


 谷に入る手前で右に折れる。


 A公園が見えてくる。


 隣接するA高校の敷地よりも広いA公園、その2/3は有料施設。サッカーコートやったら二面分はあるやろか、グラウンドはジュラシックパークかいうくらいの鉄のフェンスで囲われてる。むろん有料のグラウンドで、地元の子どもであったうちは入ったことが無い。もし、鍵が開いてても、NPCのうちのアルゴリズムでは入られへんような気がする。あそこは物語の主役が青春するとこやとNPCのうちは思たよ。


 一回だけ区民運動会、行きたかったんやけど、お父さんは失踪してたし、お母さんは「行けたら連れてったる」言うてた。お母さんが約束に「行けたら」とか「空いてたら」とか枕詞に付けるのは、頭から「あかん」言うよりは優しい気持ちからやねんけど、子どものうちは「行けたら」「空いてたら」に期待してしまう。


 四年の時に、見てるだけやったら小学生一人で入ってもええのに気づいた。クラスの男子はNPCのくせに入って、ちゃっかり競技にも出とった。「さくらも来いよ!」と、そいつは言いよった。けど、うちは首を横に振って家に帰った。


 NPCはNPCのアルゴリズム。アルゴリズムから外れたら、うちの家のアルゴリズムが崩れる。


 ほんまに崩れる。


 うちの家のアルゴリズムは、平凡な三人家族の生活やねんさかい。



 フェンスの角を曲がると、まるでキリトと待ち合わせしてるアスナみたいに佇んでる少女が居てる。


 少女は朝比奈くるみ。


「うっわー、おっひさあああああああああ!」


 そんなに素敵に再会を喜んでくれても、それにふさわしいリアクションはアルゴリズムで動いてるNPCのボキャブラリーの中にはあれへん。


「く、くるみちゃーーーーん(;'∀'#)!」


 それでもNPCなりの感動が湧いてきて、ハッシと抱きあう!


 ハグし合うと、うちの三倍はあろうかと思われる胸の感触!


 そこからは、まさに夢の世界。


 細かいとこは憶えてへんけど、お互いの半年を熱く語り合った。なによりも、お揃いのハイカットスニーカーが嬉しくて、並んで写真を撮る。


「おう、朝比奈、友だちか?」


 向かいの中学校からくるみちゃんの先生が出てきはって、自撮りでは撮られへん全身像のツーショットを撮ってもらう。


 ええなあ、うちも、このA中学に通うはずやったのに……そんなNPCの感傷を知ってか知らでか、くるみちゃんは堺でのうちの話をよう聞いてくれた。


 いっぱいいっぱい話したはずやのに夢の悲しさ、中身はちょっとも憶えてへん。


 

 目が覚めると、式神が一つ見当たらんようになってた。箱がちょっとズレてたし……きっと、うちの始末が悪かったから。



 ひょっとしたら、スマホに写真が……と思たけど、確かめたら、ほんまに夢が夢になってしまいそうで、そのままにしたよ。


 

☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 

酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。

酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主

酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生

酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母

ダミア         さくらが飼ってる猫

榊原留美        さくらの同級生

夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長

瀬田と田中(男)    クラスメート

田中さん(女)     クラスメート フルネームは田中真子

菅井先生        担任

春日先生        学年主任

米屋のお婆ちゃん

佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)

桂 米国        アメリカ人の落語家

ソフィー        ソフィア(メイド見習い)

イザベラ        メイド長&女王秘書(サッチャーの異名を持つ)

ジョン・スミス     ボディーガード

 



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