072:ニャンコの正体・3・せやけどええねん!
せやさかい・072
『ニャンコの正体・3・せやけどええねん!』
ネットで地球の裏側のことまで分かる時代、あんがい近くの事は分からんもんや。
うちと留美ちゃんが、あやうく巻き込まれそうになった、ほら、ネコちゃんを救助した直後にトラックが突っ込んできた事故。学校に突っ込んできたいうのが珍しいから、テレビでもSNSでもやってたし。
あの事故、運ちゃん以外に怪我人も出えへんかったんで、近所の人でも知らん人がいてるらしい。
テイ兄ちゃんが檀家周りして「あの事故知ってはりますか?」と粉を振る。「ああ、知ってますぅ」いう人と「へえ、そんな事故がおましたんかいな!?」いう人に分かれる。勝手知ったる檀家とお寺やさかいに、ここから話が広がる。
「実は、ぼくの従妹が危うく巻き込まれるとこやったんですわ」
お茶をすすりながらテイ兄ちゃん。
「いやあ、怖いわあ」
檀家さんは眉を顰める。中には「さすが、お寺さん、阿弥陀さんが守ってくれはったんやねえ!」と感心する人も居てる。
「やっぱり、信心があるいうことは、ありがたいことですねえ」
と、テイ兄ちゃんはカマす。
ここが坊主のやらしいとこ。阿弥陀さんのお蔭で助かったとは言わへん。
浄土真宗では、阿弥陀さんは極楽往生を請け負うだけで、日常生活の安全を保証したりはせえへん。親鸞聖人に「交通安全にご利益おますやろか?」と聞いたら「それは、自分で気ぃつけなはれ」と返事する。
それではつまらへんのんで、こういう世間話をしたときに、やっぱり阿弥陀さんのお蔭やなあ……というとこへ話を持っていく。
けども、けして自分からは「阿弥陀さんのお蔭」とは言わへん。
これとは逆に、知らん話を聞いてくることもある。
「じつは、ごえんさん(浄土真宗では住職の事を『ごえんさん』とよぶ。テイ兄ちゃんは住職やないけど、二人称としては、こう呼ばれる)二丁目でお婆さんが刺されはりましてなあ」
二丁目と言うと学校の近所……。
「身内のもめ事で、なんや刺されたっちゅう話で。まあ、その時は、怪我しはっただけやったんで、新聞には載りましたんでっけどね、中学校にトラックが突っ込んだ事故に隠れてしもて。お婆さん、相手が刃物出してくると、自分の事よりも飼い猫を逃がしてやりたいと、四匹飼うてたんを逃がしてやって……はあ、いや、お婆さん、軽傷やったんが、お歳ですやろなあ……夕べ亡くなってしもたんですわ」
テイ兄ちゃんは、ピンときた。
「それでなあ、ネコちゃんの写真を見せたんや……」
すまなさそうというか、覚悟せえよいう目ぇで、うちの顔を覗き込むようにしよる。
「ええ、そんなあ……(;'∀')」
思わずネコちゃんを抱きしめる。コトハちゃんも真剣な顔で「それで……!」と兄の膝に詰め寄る。
「こ、こわいなあ、二人とも」
「「それでえ!?」」
「檀家さんも分からへんから、お婆さんの家まで行ってな。娘さんらが居てはったから聞いたんや……ほんなら『……この猫とはちゃいます』という返事やった」
「「よかったあ!」」
コトハちゃんと胸をなでおろした。
けど、思うねん。
ほんまはお婆ちゃんが飼うてたネコやけど、娘さんらは、いまさら雑種のネコを返してもろてもしゃあないんで、ろくに確かめんともせんと「ちゃいます」言うたんちゃうやろか……?
せやけどええねん!
これで、めでたく、ネコちゃんはうちのネコになったんやから!
せやさかい、名前を決めならあかんのんですわ。
いつまでも『ネコちゃん』ではあかんよってね(^_^;)。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原留美 さくらの同級生
夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
瀬田と田中(男) クラスメート
田中さん(女) クラスメート フルネームは田中真子
菅井先生 担任
春日先生 学年主任
米屋のお婆ちゃん
佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)
桂 米国 アメリカ人の落語家
ソフィー ソフィア(メイド見習い)
イザベラ メイド長&女王秘書(サッチャーの異名を持つ)
ジョン・スミス ボディーガード




