054:エディンバラ・10
せやさかい
054『エディンバラ・10』
名誉職やと思ってた……。
頼子さんが重い口を開いた。
ロイヤルマイルの地下、ソフィアさんが魔法の杖を爪楊枝にくらいにチビらせてがんばってくれた。
ソフィアさんはエクソシストたったんや!
てっきり、日本語を勉強中のメイドさんやと、頼子さんも思てたらしい。
せやさかい「用心にソフィアを連れて行ってください」とイザベラさんに言われても、そういう名目で日本語の勉強をさせてるんやと、頼子さんもうちらも思てた。
「わたしも、力を使うことになるとは、思ってませんでしたデス」
人数分のトワイニングを淹れながら落ち着いた笑顔でソフィアさん。
「やっぱりお茶は、ここで頂くのが一番ね」
あくる日の我々は、ヒルウッドのお屋敷のサンルームで休んでる。まあ、この一週間は精力的に観光してたから、こういうのんびりした一日を過ごすのもええもんです。
「それでは、ごゆっくり。ご用がございましたら、内線電話でお申し付けください」
翻訳機を通して挨拶すると、ソフィアさんはサンルームを出て行こうとした。
キャ!
悲鳴が重なった。
留美ちゃんが飛び込んできて、ソフィアさんと鉢合わせしたんや。
「オウ、アイムソーリー」
「すみません、わたしこそ。あ、さくらちゃん、これでいいのよね」
「あ、それそれ。ソフィアさん、ちょっと待って」
「はい?」
「これ、使ってもらえないかなあ。お守りにでもなったら嬉しいです」
留美ちゃんから受け取ったばっかりの箱をソフィアさんに渡す。ほら、合宿前にお母さんが持たせてくれたやつ。
「fur me? ありがとうございます……oh! これはニンバス2000!」
「うん、ソフィアさんのはチビってしもてたから、ほんの気持ちです」
「外国製は初めてです、試してみますね……um……」
ソフィアさんは、しばらくニンバス2000を彷徨わせたが、クルリンと回って、魔法少女のように叫んだ。
「リジェネ!」
ちょっとおかしくってクスっと笑って、頼子さんがシャキッと背筋を伸ばして立ち上がる。
「さ、がんばるぞ!」とガッツポーズをとった!
「おおーーー!」
「ありがとうございます、使わせてもらいますデス!」
ガッツポーズしながらソフィアさんはサンルームを出て行った。
「よし、魔法が解けないうちに!」
そう言うと、頼子さんは自分の頬っぺたをピシャピシャ叩きながら出て行った。
頼子さんが、なにやら叫ぶと、お屋敷中がスイッチが入ったように――イエス――イエス マム――アンダストゥッド――の声があちこちでして、なにごとか動き始める気配がした。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原留美 さくらの同級生
夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
瀬田と田中(男) クラスメート
田中さん(女) クラスメート フルネームは田中真子
菅井先生 担任
春日先生 学年主任
米屋のお婆ちゃん
佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)
ソフィー ソフィア(メイド見習い)
イザベラ メイド長&女王秘書(サッチャーの異名を持つ)
ジョン・スミス ボディーガード




