46:エディンバラ・2
せやさかい
046『エディンバラ・2』
エディンバラは空港の東10キロほどのとこにある。
家から大阪城くらいの距離かなあ、高い建物が一つも見当たれへん。
見渡す限りの緑の中に二階建てくらいのこじゃれた、たぶん今風と思われる民家が並んでる。ほとんどは百坪ほどの敷地に三十坪ほどの家。ネットで調べた石造りのエディンバラとは印象が違う。日本同様にイギリスは島国やから、もっとゴチャゴチャしてると思ってた。
なんやろ、このスッキリ感は? イギリスいうよりはアメリカの郊外いう感じ。感じやねんけど、そんなに違和感がないんよね。初めての外国の風景にキョロキョロしてしまう。
「車が左側を走ってる……」
留美ちゃんがつぶやく。
そうなんや、日本と同じ左側通行の右ハンドルやから違和感がないんや!
「目の前に丘が見えてきたでしょ」
頼子さんが指差した方向に、ごりょうさん(仁徳天皇陵)と生駒山を足して二で割ったくらいの丘が見えてきた。
「ヒルウッドって言うんだよ」
「ハリウッド?」
「ヒルウッド、森の丘ってな意味ね。全体がヒルウッドパークって公園に指定されててね、ゴルフ場とか動物園があるの、というか、それ以外は住宅しかないシンプルなとこよ」
なるほど、日本語の地名をつけたら森丘。
「なんでしたら丘の上で停めますが」
ジョン・スミスさんが気を利かせた提案をしてくれる。
「ううん、真っ直ぐ家に向かって、十三時間も飛行機だったから」
「承知しました」
すると、エディンバラに続く道を、あっさり右に曲がった。え? 真っ直ぐ頼子さんの家にいくんだよね?
左側にヒルウッドを見ながら五分ほど走ると、丘の中腹に三階建てのお城みたいなんが見えてきた。
ジョン・スミスさんがヘッドセットのマイクに喋ってるんやけど、英語なんでさっぱり分かりません。
「やだぁ、大げさな出迎えなんていらないから」
「サッチャーさんに叱られますから」
「サッチャーさん来てるの( ゜Д゜)!?」
「はい、気合いが入っておられます」
「ウウ……分かった……ちょっとの間だから辛抱してね」
そう言うと、頼子さんは、いつになく大人しくなって姿勢を正した。
ハンドルが左に切られると、景色が右に流れて車は丘への道を上り始める。しばらく行くと電飾を付けたらルミナリエになりそうな鉄の門扉が現れ、そこを潜って、お城みたいなんの車寄せに近づいていく。
ギョエ!?
なんと、二十人ほどのメイドさんや執事みたいな人らが居並んで、一番奥にはハイジに出てくるロッテンマイヤ―さんみたいなオバハンが……あれが……?
「ミセス・サッチャー…………」
唸るように呟いて頼子さんはシートに沈んでしもた。
☆・・主な登場人物・・☆
•酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
•酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
•酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
•酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
•酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
•酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
•榊原留美 さくらの同級生
•夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
•瀬田と田中(男) クラスメート
•田中さん(女) クラスメート フルネームは田中真子
•菅井先生 担任
•春日先生 学年主任
•米屋のお婆ちゃん
•佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)




