040:のりちゃんと頼子さん
せやさかい・040
『のりちゃんと頼子さん』
つまらないところに意義があるのよ。
一学期最後のお茶を淹れながら頼子さんが言う。
今日は終業式の日。
体育館の終業式が終わって教室に戻って、菅ちゃんから、いろいろの配布物をもらっておしまい。
配布物のメインは通知表やねんけど、これも出席番号順に配って、特に論評も説教も夏休みの意義とか諸注意とかもなしで解散。体育館での校長先生の話もつまらんかったから、菅ちゃんの話もつまらんと覚悟してた。
それが、なんにもなしで「はい、解散」でおしまい。
「学年末ならともかく、一学期の終わりってだけでしょ。菅井先生って、お話へたという噂だし、いっそ言わないほうが気持ちよく夏休みが迎えられるって、先生なりの気配りだと思えば意義があるわよ」
部室に行って「あら、早いわねえ」と遅れて来た頼子さんに説明したら、この感想。
う~ん、そういう考え方もありか。
そういえば、菅ちゃんが喋ることって——あ、それ言わんといたらええのにぃ——ということが度々あった。ポーカーフェイスを決め込んでいたけど、菅ちゃん本人も、自覚があったんかもしれへん。
つまらん原因は、もう一つある。
留美ちゃんが休みや。
お家の都合で、パスポートの手続きが終業式の日になってしまって朝からお休み。
八月になったらエジンバラ合宿。これは、めっちゃ楽しみやねんけど、三人だけの部活が二人になるのは寂しい。
「え、二人だけですけど?」
頼子さんは、いつものようにティーカップを三つ出してる。
「さくらが連れてきた人、どうぞ、座って」
「え?」
頼子さんの視線を追うと、入り口のとこにのりちゃんが立ってる。
「え? 頼子さん見えるんですか?」
「うん、ぼんやりと。うちの制服、幽霊さんよね?」
『あ、あわわわ(;゜Д゜:)』
のりちゃんが慌てる。
「あ、消えちゃった。さくらには見えてるんでしょ?」
「は、はい。え? あ、さきに家に帰るって言うてます」
「お茶も淹れたことだし、居てもらってよ。わたし、部長の夕陽丘・スミス・頼子。さくらほど能力高くないから、いつでも見えるってわけじゃないけど、よろしく」
ペコ
のりちゃんも恐縮して頭を下げる。
「こちらこそよろしく。と、言うてます」
「えと、悪い幽霊さんじゃないことは分かる。よかったら、事情聞かせてもらえるかなあ?」
『「それは」』
のりちゃんと声がそろう。けど、のりちゃんの声は頼子さんには聞こえへん。
「うちが説明するわね」
コクコク
のりちゃんが頷いて、かいつまんで説明する。
「え? え!? じゃ、法子さんは記憶が無くなっちゃったの?」
わたしの蘇生法が遅れて、酸欠みたくなって記憶がおぼろになったことを説明する。
「そう…………なにかやり残したことがあるのねぇ……うん、こうやって気配を感じられるのも何かの縁。わたしで役に立つことがあったら言ってね」
…………………?
「あ、そこの千羽鶴はなにかって聞いてます」
「あ、それそれ。千羽鶴、数えたら二百ほど足りないのよ! ちょっとがんばって折ってくれる!」
『「は、はい!」』
のりちゃんといっしょに返事する。のりちゃんが返事しても仕方がないんやけど……と思ったら。
ビックリした!
のりちゃんは、ちゃんと折り鶴が折れているやおまへんか!
☆・・主な登場人物・・☆
•酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
•酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
•酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
•酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
•酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
•酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
•榊原留美 さくらの同級生
•夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
•瀬田と田中(男) クラスメート
•田中さん(女) クラスメート フルネームは田中真子
•菅井先生 担任
•春日先生 学年主任
•米屋のお婆ちゃん
•佐伯さんのお祖母ちゃん 釋良袋(法名) 法子(俗名)




