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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
4/438

004:突然の家庭訪問とご近所巡り

せやさかい・改(増補改訂版)


004:突然の家庭訪問とご近所巡り  





 プルルル プルルル プルルル


 キッチンで朝ごはんの片づけしてたら廊下の電話が鳴って、エプロン外したばっかりのお母さんが出た。


『はいタナヵ、じゃなくて酒井です……はい……』


 それから、ほんの10秒ほど話すとキッチンまで引き返してきた。


「なんや、先日のお詫びと新学期のお話とかで先生きはるてぇ……しゃあない! 午前中休みとるわ。さくらもおらんとあかんで!」


 そう言うと、スプリングコートを脱いでピアスも外して、スマホで電話を掛けた。会社に半休の電話や。


 いっしょに食器洗てたことはちゃんが美しく眉を寄せる。


「午後はクラブあるから、町内見学は、また今度やね」


 今日は、午前中は近所のあれこれを詩ちゃんに教えてもらうことになってた。


「あ、せやね。また今度、よろしくぅ」


「うん、それはいいけど、先生がお詫びって、なにかあったのぉ?」




 ヤンチャやった子どもの頃の目ぇで聞いてくる詩ちゃん。


「ああ……大したことやないねんけど、ちょっと、うちが大きな声出したから、先生、気にしてはるんやと思う」


「担任、菅井先生だったね……悪い先生じゃないけど、三つ聞いたら一つ忘れる人だからねえ」


 おお……( ゜Д゜)


 具体的なことは話してへんのに、大事なとこは見抜いてる。美人やいう以外に、頭の回転がええんで、ちょっとビックリして尊敬の針が10ポイントほど上がる。



 おっちゃん(詩ちゃんのお父さんで、お母さんのお兄さん)の勧めで、本堂の外陣で会うことにする。




 で。


 菅井先生一人かと思たら、学年主任の春日先生も付いてきたんでビックリ( ゜Д゜)!


 春日先生は定年に近いオッチャンの先生。本堂に上がると、正座して須弥壇の阿弥陀さんに手を合わせはる。菅井先生は、お母さんにペコペコするばっかりで、阿弥陀さんには気ぃもつかんいう感じ。


「先日は、苗字とお名前を読み違えると言うミスをしてしまいまして、まことに申し訳ありませんでした」


 春日先生がきちんとお詫びをされて、菅井先生は頭を下げながらゴニョゴニョ。


 わが担任ながら頼りない。


 お母さんは、春日先生の態度と言葉で恐縮してる。あの件は、菅井先生のポカやけど「せやさかい言うたやないですか!」と大きな声出したウチにも非がある。せやさかい、お母さんには言うてへん。成り行き次第では、お母さんにポコンとかまされるかもしれへん。


「いえいえ、うちの子ぉも、いらんこと言いですから。オホホホ(^○^;)」


 いらんこと言いはないと思うねんけど。まあ、これで丸く収まるやろ。




 じっさい収まったんやけど、この間、たったの一分。いかにも用件をこなしただけのアリバイ家庭訪問で終わってしまう。じっさい菅ちゃんはお尻あげかけやし。


「おお、明日は灌仏会ですねえ」


 外陣の隅っこに置いてあるあれこれを見て、春日先生は水を向ける。


 灌仏会とはお釈迦さんの誕生日。お寺ではいろいろ行事があるし、外陣の長押には昔の灌仏会の写真があって、その写真の中に若いころのお母さんの姿もあったりして、そういうところを見てるんやとしたら、なかなかの先生やと思う。菅井先生は、正直に「へ?」いう顔しとおる。


「花まつりのことです、お釈迦さんの誕生日です」


 勤めてニコヤカに言う。この、いわば手打ち式は、わたしがニッコリすることで念押しの大団円。


「お差支えなかったら、苗字がお変わりになったご事情など……これからのさくらさんの指導上、心得ていた方が良いのではと、あ、お差支えなければなのですが」


 あ、これが本命か。


 たしかに、三月ギリギリに苗字が変わって、菅井先生が混乱したのも無理のない話なんや。


「はい……実は、主人が七年前に行方不明になりまして。このたび、やっと失踪宣告の運びになりまして、実家に娘共々戻ってまいった次第です……」


 お母さんは最後の言葉を濁す。わたしの手前もあって、これ以上は聞いて欲しないという意思表示。


「そうでしたか、いえ、承知いたしました。いや、これから三年間のお付き合いになります、入学式でも申しましたが、学校に出来ることがありましたら、なんなりとご相談ください。微力ですがお力になれれば幸いです。菅井先生からも……」


 水を向けられた先生やけど「は、明日から元気にがんばりましょう」と短くご挨拶――春日先生にばっかり言わしてそれだけかあ――と思うけど、お母さんがうちにだけ分かる『黙っとれオーラ』を発散してるんで、笑顔にチェンジ(⌒∇⌒)!


「「はい、よろしくお願いいたします(^_^;)」」


 母子揃って頭を下げてめでたしめでたし!


 時間にして五分ちょっと。お母さんは、その足でご出勤。うちも「せやさかい」をカマさんでホッとする。



「早く済んだじゃない!」




 コトハちゃんは制服に着替えてたけど、学校にいくついでにご近所巡りに連れていってくれる。


 町内で会う人が、みんな挨拶してくれはる。そのたんびに「こんど、いっしょに住むよことになりました。従妹のさくらです」と紹介してくれる。正直ハズイねんけど、こういうことは最初が肝心「どんくさいから、いっぺんには覚えられませんけど、よろしくお願いします」と頭を下げておく。


「ああ、歌ちゃんの子ぉやな(^▽^)」


 米屋のお婆ちゃんなんかは、しっかり知ってくれてた。まあ、ええねんけどね……みなさん、瞬間わたしとコトハちゃんを見比べてる。コトハちゃんはベッピンさんで、とくに真理愛女学院の制服姿やし、もう反則やいうくらいのベッピンさん。これに対抗できるのは広瀬すずくらいしかおらへんと思う。


 凹みそうになる気持ちを笑顔に隠す。そう、笑顔は七難を隠すていうやおまへんか!


 ケケケ……ケ( ̄⊿ ̄;)



 コトハちゃんを見送って家に帰ったら、頬っぺたが引きつっておりました。




☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 

酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。

酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主

酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生

酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母

菅井先生     さくらの担任

春日先生     学年主任


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