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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
36/438

036:佐伯さんのお婆ちゃん・2


せやさかい・036


『佐伯さんのお婆ちゃん・2』 




 救急車が空で帰ったんは、もうお婆ちゃんが亡くなってたから。


 てい兄ちゃんによると、心肺停止だけやったら搬送する——その後、病院で死亡が確認されました——ニュースで、よう言うてるあれ。死後硬直が始まってたり、死亡の様子が顕著な場合、救急車の仕事は、そこでおしまいになる。そのあとは警察が来て調べる。場合によっては自然死に見せかけた殺人やったりするさかいに。


 その後、パトカーとワンボックスの警察車両が来た。


 お巡りさんと鑑識の人が家に入って、十五分くらいで出てきた。お婆ちゃんはグレーの袋(シュラフと言うらしい)に入れられてワンボックスに積み込まれて行ってしもた。


 振り返ると、家のみんなが出てきて手を合わせてる。ご近所の人らも、それに倣って手を合わせて見送った。むろんうちも。


 大阪市におったときも似たようなことがあったけど、手を合わせる人はいてへんかったように思う。やっぱり、お寺の人間が手を合わせてると、自然にそれに倣える。お寺の存在意義が、ちょびっとだけ分かったような気ぃがした。


「晩ごはん食べてしもてちょうだい」


 伯母ちゃんのひとことで、ぞろぞろと食卓に戻る。


 すき焼きの続きやねんけど、ちょっとお肉は食べにくい。


「佐伯のおばちゃんには、よう怒られたなあ」


「ぼくらには優しいお婆ちゃんやったで」


 おっちゃんとてい兄ちゃんが思い出を肴にしてる。お祖父ちゃんが加わって、お婆ちゃんが『法子』いう名前で「セーラー服がよう似合う小町娘やったなあ……」とため息をつく。


「『ぼんさんやなかったら、お嫁にいったげたのに』て言いよってなあ、兄貴が戦死してなかったら『うん』て言うてたなあ」


「いやだ、佐伯のお婆ちゃんと、いい仲やったの!?」


「おばちゃん、よう振ってくれたなあ、お父さんがおばちゃんといっしょになってたら、ここにおるもんは全員おらへんとこや」


「いや、わたしは生まれてたわよ。嫁に来ただけだから」


「いや、俺がおれへんかったら、嫁にきてないやろが」


「あ、そうか」


 お婆ちゃんが亡くなったばっかりで不謹慎な気がせんでもなかったけど、こうやって話題にしたげんのも供養なんかなあと思う。


 後片付けをしてると、お母さんが男の人二人連れて戻ってきた。一人は、お祖父ちゃんが話してた人、もう一人はダークスーツがように合うおっさん。


「佐伯さんの息子さんと、葬儀屋さんよ」


 ことはちゃんが教えてくれる。三人は檀家さんらと寄り合いする部屋に入って、なにやら話を始める。


「さくら、お茶持ってく? 偵察できるわよ」


 詩ちゃんにそそのかされてお茶を運ぶ。


「失礼します」


「おお、歌ちゃんの娘さん?」


「さくらちゃん、佐伯さんの息子さんと籠国かごくにさんや」


「酒井さくらです、あ、この度は……」


「あ、これはご丁寧に……」


 ついさっき親が亡くなったとは思えんくらいに、息子さんは落ち着いてる。うちが一番しんみりしてるんでオタオタする。


 お通夜とお葬式の打ち合わせらしいねんけど、町内のお祭りの相談みたいに気楽にやってる。なんか、かえって畏まってるうちに気ぃつこてもろてるみたいで、よけいにオタオタ。


 なんや、若いころのお母ちゃんの話が出たみたいやったけど、なんにも覚えてへんです。




 ☆・・主な登場人物・・☆


•酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 

•酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。

•酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居

•酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主

•酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生

•酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母

•榊原留美        さくらの同級生

•夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長

•瀬田と田中(男)       クラスメート

•田中さん(女)        クラスメート フルネームは田中真子

•菅井先生        担任

•春日先生        学年主任

•米屋のお婆ちゃん

•佐伯さんのお祖母ちゃん


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