021:修学旅行のお土産 2019年6月
せやさかい・021・改(増補改訂版)
『修学旅行のお土産』
部活にお茶は欠かせません。
ダージリンとかオレンジとかペコとかポコとか。
味覚が子どもなんで、スティック一本の砂糖をいれます。それが、今日はいれませ~ん。
なんちゅうても、目の前に因島の八朔ゼリーともみじ饅頭があるから。
「キーホルダーとかもあったんだけど、カバンとかにつけられないしね」
校則で、カバンにチャラチャラ付けるのは禁止されてる。むろん厳しい禁止ではなくて、常識的に一つ二つ付けてるのは言われへんねんけどね。
「美味しいもの食べて、お喋りしてるほうがいいもんね」
というわけで、頼子さんの修学旅行のお土産を広げてお茶してるというわけ。
「文芸部でよかったですぅ(〃艸〃)」
留美ちゃんが小さく喜ぶ。小さくいうのは感激が薄いわけやない。留美ちゃんは、こういうつましい感情表現をする子なんです。
「せやねぇ、教室でやったら、お茶まで出してはでけへんもんね」
「八朔ゼリー、おいしいです!」
「ほんとは、夏蜜柑丸漬 (なつみかんまるづけ)を買いたかったんだけど、萩でしか売ってないんで、それは、また今度ね」
修学旅行のコースに萩は入ってない。行ったことないけど、文芸部の三人で行けたらええなあと思う。
「デバガメ捕まえたってほんとうですか?」
「頼子さん、カメ捕まえたんですか?」
「あ、うん、お風呂場で」
うちは、風呂場に迷い込んできた亀を思い浮かべる。
「先に入った子たちがキャーキャー言ってるんで、なんだろうと思って浴室に入ったらね、亀が一匹湯船に落っこちゃって。湯だっちゃったら可哀そうだから先生呼んでぇ……捕まえたのは先生だよ」
「その、亀じゃなくてですね……」
「え?」
「覗きだよ、覗き。お風呂場覗いてた男子捕まえたって……職員室行った時、小耳に挟んで……昇降口でも三年の男子が話してました」
その時、部室の前を三年の男子が歩いとって「聞いたか、一組の夕陽丘が覗き捕まえたって」「ああ、あの話」「実はなぁ……」「なになに……」と大きな声で喋っていきよる。
「あ……いちおう他言無用になってるんだけどねぇ、人の口に戸は立てられないか……」
「どんなんやったんですか?」
思わず身を乗り出してしまう。
「……浴室の窓がカタカタいうのよ。直観でうちの男子。いっしょに入ってる子たちには先に出てもらってね、思いっきりよく窓を開けてやったの」
「あ、開けたんですか(゜д゜)!?」
「こういうのは、明るく景気よくやらなきゃ後味悪いからね」
「開けて、どうなったんですか!?」
「いっしゅん目が合ってね。手にスマホ持ってたから、思わず手を掴まえた」
「『キャーーー』とか『痴漢っ!』とか?」
「叫んだよ」
そうやろ、こういう時、女子は叫ぶ!
「相手がね」
「え!?」「男の方が!?」
「で、もののはずみで、そいつは湯船の中に落ちて来てね、もう大騒ぎ。私は、騒ぎにするつもりはなかったんだ。でも、そいつが叫んで、バッシャバシャ音立てるし。すぐに先生が飛んできて……」
「犯人は、だれだったんですか!?」
女の敵許すまじ!
「アハハ、気が動転してて忘れちゃった」
これは、嘘や。バッチリ見たはずやのに庇ってるんや。
「スマホは湯船の中に落ちてオシャカになったしね。いやいや、咄嗟のことって、やっぱ、抜けちゃうんだね」
いやはや、女豪傑や(^_^;)。
そして、下校時間いっぱいまで喋って、校門を出る。
『……ご町内の皆さま、お騒がせいたしております……』
ここのところ聞き慣れた、元気のいい廃品回収の車が一つ向こうの通りをいく。
「ああ、来週は市長選挙だねえ」「ですね」
頼子さんが呟き、留美ちゃんが合わせる。
選挙とかに関心のないうちは、それが選挙カーやいうのに気ぃついてなかった(^_^;)。
ポーカーフェイスしといたけど、頼子さんが、あたしのほう見てクスリと笑う。
ほんま、頼子さんはかないません。
家に帰ってからテイ兄ちゃんに頼子さんの話をしてやった。
「捕まえたって……ゴックン……お風呂ででか……!?」
「うん、そうや」
「よ、浴室でか!?」
「うん、窓がカタカタいうさかい、ガラガラって窓開けたらスマホ構えとって、ビックリしたはずみで浴槽に落ちよって……ん? なに、そのヤラシイ目ぇわぁ」
「いや、せやかて(;'∀')」
「アホやなあ、ちゃんと服着てるわあ、先に入ってた子ぉらが騒いでるさかいに入っていったんやんかあ」
「え、あはは、そらそうやろなあ。いや、さくらの言い方がやなあ(^_^;)」
「もう、このエロ坊主!」
あくる日、念のために頼子さんに確認した。
「え、裸だよ。タオルは持ってたけど」
「「ええ!!」」
留美ちゃんは真っ赤になって、うちはムンクの『叫び』みたいになってしもた!
頼子さん、ただもんやない。




