表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
21/438

021:修学旅行のお土産 2019年6月

せやさかい・021・改(増補改訂版)


『修学旅行のお土産』  





 部活にお茶は欠かせません。



 ダージリンとかオレンジとかペコとかポコとか。


 味覚が子どもなんで、スティック一本の砂糖をいれます。それが、今日はいれませ~ん。


 なんちゅうても、目の前に因島の八朔ゼリーともみじ饅頭があるから。


「キーホルダーとかもあったんだけど、カバンとかにつけられないしね」


 校則で、カバンにチャラチャラ付けるのは禁止されてる。むろん厳しい禁止ではなくて、常識的に一つ二つ付けてるのは言われへんねんけどね。


「美味しいもの食べて、お喋りしてるほうがいいもんね」


 というわけで、頼子さんの修学旅行のお土産を広げてお茶してるというわけ。


「文芸部でよかったですぅ(〃艸〃)」


 留美ちゃんが小さく喜ぶ。小さくいうのは感激が薄いわけやない。留美ちゃんは、こういうつましい感情表現をする子なんです。


「せやねぇ、教室でやったら、お茶まで出してはでけへんもんね」


「八朔ゼリー、おいしいです!」


「ほんとは、夏蜜柑丸漬 (なつみかんまるづけ)を買いたかったんだけど、萩でしか売ってないんで、それは、また今度ね」


 修学旅行のコースに萩は入ってない。行ったことないけど、文芸部の三人で行けたらええなあと思う。


「デバガメ捕まえたってほんとうですか?」


「頼子さん、カメ捕まえたんですか?」


「あ、うん、お風呂場で」


 うちは、風呂場に迷い込んできた亀を思い浮かべる。


「先に入った子たちがキャーキャー言ってるんで、なんだろうと思って浴室に入ったらね、亀が一匹湯船に落っこちゃって。湯だっちゃったら可哀そうだから先生呼んでぇ……捕まえたのは先生だよ」


「その、亀じゃなくてですね……」


「え?」


「覗きだよ、覗き。お風呂場覗いてた男子捕まえたって……職員室行った時、小耳に挟んで……昇降口でも三年の男子が話してました」


 その時、部室の前を三年の男子が歩いとって「聞いたか、一組の夕陽丘が覗き捕まえたって」「ああ、あの話」「実はなぁ……」「なになに……」と大きな声で喋っていきよる。


「あ……いちおう他言無用になってるんだけどねぇ、人の口に戸は立てられないか……」


「どんなんやったんですか?」


 思わず身を乗り出してしまう。


「……浴室の窓がカタカタいうのよ。直観でうちの男子。いっしょに入ってる子たちには先に出てもらってね、思いっきりよく窓を開けてやったの」


「あ、開けたんですか(゜д゜)!?」


「こういうのは、明るく景気よくやらなきゃ後味悪いからね」


「開けて、どうなったんですか!?」


「いっしゅん目が合ってね。手にスマホ持ってたから、思わず手を掴まえた」


「『キャーーー』とか『痴漢っ!』とか?」


「叫んだよ」


 そうやろ、こういう時、女子は叫ぶ!


「相手がね」


「え!?」「男の方が!?」


「で、もののはずみで、そいつは湯船の中に落ちて来てね、もう大騒ぎ。私は、騒ぎにするつもりはなかったんだ。でも、そいつが叫んで、バッシャバシャ音立てるし。すぐに先生が飛んできて……」


「犯人は、だれだったんですか!?」


 女の敵許すまじ!


「アハハ、気が動転してて忘れちゃった」


 これは、嘘や。バッチリ見たはずやのに庇ってるんや。


「スマホは湯船の中に落ちてオシャカになったしね。いやいや、咄嗟のことって、やっぱ、抜けちゃうんだね」


 いやはや、女豪傑や(^_^;)。


 


 そして、下校時間いっぱいまで喋って、校門を出る。


『……ご町内の皆さま、お騒がせいたしております……』


 ここのところ聞き慣れた、元気のいい廃品回収の車が一つ向こうの通りをいく。


「ああ、来週は市長選挙だねえ」「ですね」


 頼子さんが呟き、留美ちゃんが合わせる。


 選挙とかに関心のないうちは、それが選挙カーやいうのに気ぃついてなかった(^_^;)。


 ポーカーフェイスしといたけど、頼子さんが、あたしのほう見てクスリと笑う。


 ほんま、頼子さんはかないません。




 家に帰ってからテイ兄ちゃんに頼子さんの話をしてやった。




「捕まえたって……ゴックン……お風呂ででか……!?」


「うん、そうや」


「よ、浴室でか!?」


「うん、窓がカタカタいうさかい、ガラガラって窓開けたらスマホ構えとって、ビックリしたはずみで浴槽に落ちよって……ん? なに、そのヤラシイ目ぇわぁ」


「いや、せやかて(;'∀')」


「アホやなあ、ちゃんと服着てるわあ、先に入ってた子ぉらが騒いでるさかいに入っていったんやんかあ」


「え、あはは、そらそうやろなあ。いや、さくらの言い方がやなあ(^_^;)」


「もう、このエロ坊主!」


 

 あくる日、念のために頼子さんに確認した。



「え、裸だよ。タオルは持ってたけど」


「「ええ!!」」


 留美ちゃんは真っ赤になって、うちはムンクの『叫び』みたいになってしもた!



 頼子さん、ただもんやない。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ